広報活動

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2010年8月2日

独立行政法人 理化学研究所
国立大学法人 東京大学

前立腺がんの発症に関連する新たな5つの遺伝子多型を発見

-日本人の前立腺がんをゲノムワイドで遺伝子多型(SNP)関連解析-

ポイント

  • 日本人の前立腺がん罹患(りかん)者4,584人を対象にゲノムワイドなSNP関連解析
  • 欧米人の前立腺がんと関連する31個のSNPのうち、19個が日本人とも関連
  • 新たに発見した5つのSNPによる日本人の前立腺がんの発症リスクは1.15~1.26倍

要旨

独立行政法人理化学研究所(野依良治理事長)と国立大学法人東京大学(濱田純一総長)は、文部科学省が推進するオーダーメイド医療実現化プロジェクト※1(中村祐輔プロジェクトリーダー)で実施した遺伝子の解析結果から、日本人の前立腺がんと関連がある5つの一塩基多型(Single Nucleotide Polymorphism:SNP)※2を発見しました。理研ゲノム医科学研究センター(鎌谷直之センター長)バイオマーカー探索・開発チーム(中川英刀チームリーダー)と、東京大学医科学研究所の中村祐輔教授、岩手医科大学泌尿器科学教室の藤岡知昭教授、京都大学泌尿器科教室の小川修教授との共同研究による成果です。

前立腺がんは、世界で最も発症頻度が高いがんの1つです。日本でも、生活の欧米化や人口の超高齢化に伴い、その罹患者数は急激に増加しています。欧米での研究で、これまでに前立腺がんの発症に関連する多数の遺伝子やSNPが発見されてきており、前立腺がんの発症には遺伝的素因が深くかかわっていることが明らかとなってきています。

今回の研究では、日本人における前立腺がんの関連遺伝子を見いだすため、オーダーメイド医療実現化プロジェクトで収集した合計4,584名の前立腺がん罹患者群と8,801名の対照群について、ゲノムワイドSNP関連解析※3を実施しました。その結果、これまで欧米人で前立腺がんとの関連が報告されている31個のSNPのうち、19個のSNPが日本人の前立腺がんと関連があることを確認し、残りの12個のSNPは、関連性が無いことが分かりました。さらに、今回、新たに5つのSNPが日本人における前立腺がん発症と強い関連があることを発見しました。

これらの結果は、前立腺がんの発がん機構の解明につながるとともに、人種や民族間での前立腺がん発症の遺伝的素因の違いを示唆し、今後日本人の前立腺がんの発症リスク評価の開発に貢献するものと期待されます。

本研究成果は、米国の科学雑誌『Nature Genetics』に掲載されるに先立ち、オンライン版(8月1日付け:日本時間8月2日)に掲載されます。

背景

前立腺は、男性の骨盤内にあるクルミほどの大きさの精液を作る臓器で、この前立腺に発生する腫瘍が前立腺がんです。前立腺がんは、世界で最も発症頻度の高いがんの1つです。日本でも、食生活を含む生活の欧米化や人口の超高齢化に伴い、その罹患者数は急激に増えてきています(がん統計白書2004)。日本におけるがんの年齢調整罹患率※4の年次変化で、前立腺がんは、1975年は7.1と低い状況でしたが、1998年には21.7と約3倍に増加しています。2020年には罹患者数が8万人に近くになって、肺がんに次いで男性のがんで2番目に多くなると予測されています。また、2008年の前立腺がんによる死亡者数は約1万人ですが、罹患者数の急増に伴い、2020年には2倍の2万人を超えるものと推測されています。

前立腺がんの治療法は、男性ホルモンを抑制するホルモン療法、放射線療法、手術療法が奏功し、治療の予後が比較的良いがんの1つとして知られています。しかし、高齢者の多くが潜在的に早期の前立腺がんを持っているとの報告もあり、PSA検診※5の是非が問われるなど、前立腺がんの発症リスク評価や診断にはさまざまな問題が提起されています。

前立腺がんの危険因子としては、人種(アフリカ人>欧米人>アジア人の順に多い)、食生活、ホルモン環境、加齢などが重要とされていますが、特定の危険因子は判明できていません。しかし、欧米での研究で、これまでに前立腺がんの発症に関連する多数の遺伝子やSNPが発見されてきており、前立腺がんの発症には遺伝的素因が深くかかわっていることが明らかとなってきています。

研究手法と成果

研究グループは、日本人における前立腺がんの関連遺伝子を見いだすため、オーダーメイド医療実現化プロジェクトで収集した合計4,584名の前立腺がん罹患者群と8,801名の対照群について、ゲノム医科学研究センターの高速大量タイピングシステム※6を使い、約50万個のゲノムワイドSNP関連解析を行いました。その結果、これまで欧米で前立腺がん発症との関連が報告されている31個のSNPのうち、8番染色体長腕(8q24)の複数のSNPを含む19個について、日本人の前立腺がんとの関連が確認できました(最大のオッズ比※7は1.75倍)。一方、残りの12個のSNPは、日本人の前立腺がんとの関連は確認できませんでした。さらに今回、新たに5つのSNPが日本人における前立腺がん発症と強い関連があることを発見しました(図1)。この5つのSNPは、5番染色体短腕の5p15領域(オッズ比1.26倍)、性ホルモンの産生やメタボリック症候群と関係のあるGPRC6A/RFX6遺伝子(オッズ比1.22倍)、13番染色体長腕の13q22領域(オッズ比1.15倍)、機能が不明のC2orf43遺伝子(オッズ比1.15倍)、転写因子であるFOXP4遺伝子(オッズ比1.15倍)に存在していました。

今後の期待

今回得た知見は、前立腺がんの新たな発症機構の解明につながるとともに、人種や民族間での前立腺発がんの遺伝的素因の違いを示唆しました。さらに、1つ1つのSNPがかかわる前立腺がん発症におけるリスク(オッズ比)は小さいものの、これらSNPを多数組み合わせることによって、これまでPSA検診以外に方法がなかった日本人の前立腺がんの発症リスクの評価が、遺伝的な面から実施することが可能になると期待されます。

発表者

理化学研究所
ゲノム医科学研究センター
バイオマーカー探索・開発チーム
チームリーダー 中川 英刀(なかがわ ひでわき)
Tel: 03-5449-5785 / Fax: 03-5449-5785

お問い合わせ先

横浜研究推進部 企画課
Tel: 045-503-9117 / Fax: 045-503-9113

報道担当

独立行政法人理化学研究所 広報室 報道担当
Tel:048-467-9272 / Fax:048-462-4715
お問い合わせフォーム

国立大学法人東京大学 医科学研究所 総務課庶務係
Tel: 03-5449-5601 / Fax: 03-5449-5402

産業利用に関するお問い合わせ

理化学研究所 社会知創成事業 連携推進部
お問い合わせフォーム

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補足説明

  1. オーダーメイド医療実現化プロジェクト
    文部科学省リーディングプロジェクトとして2003年から開始したプロジェクト。東京大学医科学研究所に設置されているバイオバンクジャパンに収集されたDNAや血清試料、臨床情報を解析し、遺伝子の違いを基に病気や薬の副作用の原因などを明らかにして、新しい治療法や診断法を開発するためのプロジェクトで、理研ゲノム医科学研究センターは中核機関として遺伝子解析の中心的な役割を果たしている。 http://biobankjp.org/
  2. 一塩基多型(Single Nucleotide Polymorphism:SNP)
    ヒトゲノムは約30億塩基対からなるとされているが、個々人を比較するとその塩基配列には違いがある。この塩基配列の違いのうち、集団内で1%以上の頻度で認められるものを多型と呼ぶ。遺伝子多型は遺伝的な個人差を知る手がかりとなるが、最も数が多いのは一塩基の違いであるSNPである。多型による塩基配列の違いが遺伝子産物であるタンパク質の量的または質的変化を引き起こし、病気のかかりやすさや医薬品への反応の個人差をもたらす。
  3. ゲノムワイドSNP関連解析
    一塩基多型を用いて疾患と関連する遺伝子を見つける方法の1つ。ある疾患の患者(ケース)とその疾患にかかっていない被験者(コントロール)の間で、多型の頻度に差があるかどうかを統計的に検定して調べる。ゲノムワイドSNP関連解析では、ヒトゲノム全体を網羅するような50~100万個所のSNPを用いて、ゲノム全体から疾患と関連する領域・遺伝子を同定する。
  4. がんの年齢調整罹患率
    がんは、高齢になるほど罹患率が高くなるため、人口の年齢構成が異なる集団でがんの罹患率を比較するためには、年齢構成の影響を補正しなければならない。年齢階級別に罹患率を計算し、標準とする人口集団の重みを掛け合わせて計算する。
  5. PSA検診
    PSA(prostate-specific antigen)は、前立腺で特異的に作られるタンパク質で、その高値は前立腺の異常を示す。血清値が10ng/mL以上が異常値となり、前立腺がんの集団健診に有用であると考えられており、日本でも多くの市町村がPSA検診を導入している。しかし、前立腺炎や前立腺肥大でも異常値を示し、また低くても多くの前立腺がんが見つかることから、前立腺がんの死亡率減少への貢献度や医療経済的な面で、PSA検診を住民検診として実施することへの問題点が指摘されている。
  6. 高速大量タイピングシステム
    遺伝子型の決定(ジェノタイピング)を高速、かつ大量に行うシステム。現在、理研ゲノム医科学研究センターでは、イルミナ社のインフィニウム法と、理研が独自に開発したマルチプレックスPCRを併用したインベーダー法の2つのタイピングシステムを用いてゲノムワイドSNP関連解析を行っている。
  7. オッズ比
    リスクの大きさの指標。基準とするものに対して、罹患するリスクが何倍に上がるかを示す。

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日本人前立腺がんのゲノムワイドのSNP関連解析の結果

図1 日本人前立腺がんのゲノムワイドのSNP関連解析の結果

X軸:染色体ごとのSNPの位置を表す。Y軸:-log(P値:偶然にそのようなことが起こる確率)で、前立腺がんとの関連の統計学的確からしさの指標を表す。ピンクの線(P=1.0x10-7)より上のSNPは、ゲノムワイドレベルでの非常に確からしい前立腺がんとの関連を示している。青の矢印は欧米人の前立腺がんとの関連がすでに知られているSNP、赤やオレンジ色の矢印は今回新規で同定した5つの日本人前立腺がんの関連SNP。

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