広報活動

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2011年2月15日

独立行政法人 理化学研究所

凝集すると発光する新タイプの有機系蛍光色素分子を開発

-分子の集積を可視化し、毒性タンパク質の凝集現象を解明へ-

ポイント

  • 分子の凝集で発光を制御できる新しいタイプの蛍光色素
  • 安価に大量生産でき、医療分野から工業分野まで幅広い応用が可能
  • 米国化学会が、革新的なアイデアを持つ研究成果として選出

要旨

独立行政法人理化学研究所(野依良治理事長)は、色素分子の凝集によって蛍光が増大する新しいタイプの有機系蛍光性色素「アミノベンゾピロキサンテン系色素(ABPX)※1」を開発しました。これは、理研分子イメージング科学研究センター(渡辺恭良センター長)複数分子イメージング研究チーム(榎本秀一チームリーダー)の神野伸一郎研究員と、岡山大学、大阪薬科大学、鈴鹿医療科学大学、株式会社日立ハイテクノロジーズおよび奈良先端科学技術大学院大学との共同研究の成果です。

従来の有機系蛍光色素は、溶液中や固体状態で使用する場合、色素分子同士が凝集して発光効率、発色性、光感受性や光増感性などの機能が著しく低下し、色素本来の特性を制限してしまうことが大きな問題となっていました。研究グループが開発したABPXは、従来の色素とは全く逆に、凝集すると発光が増大するため、これまでの問題点を克服し、医療分野、工業分野などでの有機系蛍光性色素の新たな応用を実現することができます。

例えば医療分野では、ABPXでタンパク質を標識すると、その凝集の様子を蛍光で観察することが可能となります。これによりアルツハイマー病やパーキンソン病など、タンパク質の凝集が引き金となる病気のメカニズムを解明し、新しい治療法の開発につながると期待できます。また、工業分野では、ABPXをフィルム基盤や薄膜に大量に固定化すると、エネルギー変換効率の高い色素増感型太陽電池や有機発光デバイスの材料として応用できます。さらに、有機物を素材とするABPXは、レアメタルのような資源的制約がなく、しかも安価に大量生産できることから、環境負荷の少ない工業材料・技術としても注目されます。

この成果は、英国の科学雑誌『Chemical Communications』(2010年11月23日号)に掲載され、2011年2月16日から東京ビックサイトで開催される国際ナノテクノロジー総合展・技術会議で資料配布によりご案内します。

背景

色素は、物質に色を着けるためだけに使用されると思われがちですが、実際には、効率良く光エネルギーを吸収・放出する性質に優れた色素は「機能性色素」と呼ばれ、工業分野では有機EL、色素増感型太陽電池や色素レーザーなどのさまざまな最先端技術の素材の1つとして利用されています。また生命科学の分野では、紫外線などの照射で発光する有機系蛍光色素が、生体内の分子や細胞を観察するための目印として一般的に用いられています。しかし、有機系蛍光色素を溶液中や固体状態で使用する場合、色素分子同士が凝集して発光効率、発色性、光感受性や光増感性などの機能が著しく低下し、色素本来の特性が失われてしまうことが大きな問題となっています。これまで、色素の分子構造を改良して凝集を防ぐ方法が試みられてきましたが、研究グループはこの欠点を逆手に取り、凝集すると逆に発光が増大する有機系蛍光色素の開発に取り組みました。

研究手法と成果

蛍光色素の一般的な特徴として、発光に関与する部分の分子構造が平面となっていることが必要である、と経験的に知られています。そこで研究グループは、色素分子の発光部分が極端に長いため、単独では分子構造が歪んで発光できませんが、凝集(集積)して分子が積み重なると平面性が増し、蛍光が飛躍的に増大する仕組みを持つ分子を設計しました。このアイデアをもとに合成したのが、アミノベンゾピロキサンテン系色素(ABPX)と名付けた新しい有機系蛍光色素です。

ABPXは、凝集にともなって蛍光が増大する凝集誘起発光(Aggregation-Induced Emission Enhancement:AIEE)※2という特性を持ちます。具体的には、ABPXの濃度が5μMと500μMの2つの溶液に紫外線(365nm)を照射したところ、蛍光の強さが後者で数百倍に増大することを確認しました。これは、ABPXの蛍光性のオンとオフを、凝集という物理現象で制御できることを意味します(図1)。また溶液中のABPXは、一般的な細胞の10分の1から1000分の1ほどのナノメートルサイズ(1ナノメートルは10-9m)の粒子体が発光していることが分かり、その蛍光の波長域は、生体への光透過性が高い赤色から近赤外域(600nm~900nm)であるため、体の外からでも発光を観察できる可能性があります。さらに、有機物から作られるABPXはレアメタルのような資源的制約がなく、安価に大量生産できることから、環境負荷の少ない工業技術として注目されます。

このABPXに対する世界の注目度は高く、掲載誌『Chemical Communications』(2010年11月23日号)で2010年11月に最もアクセスの高かった論文トップ10にランクインしました。また2011年1月24日には、米国化学会(ACS)が全世界の化学論文の中から革新的なアイデアを持つ研究成果を毎週選出する「Noteworthy Chemistry」の7報に選ばれました。

今後の期待

今回開発したABPXを利用すると、生体内で分子が凝集する現象を蛍光で可視化し、詳しく調べることが可能になります。例えば、ABPXでタンパク質を標識し、その凝集メカニズムを解析することで、アルツハイマー病やパーキンソン病などタンパク質の凝集が引き金となる病気の原因を解明し、新しい治療法の開発につながると期待できます。また、これらの生命科学分野に加え、有機発光デバイス、医療、エネルギーや環境技術など、さまざまな分野にも応用可能で、有機系色素分子の”新たな技術応用のカタチ”を生みだす革新的な色素材料となると注目されます。

発表者

理化学研究所
分子イメージング科学研究センター
複数分子イメージング研究チーム
チームリーダー 榎本 秀一(えのもと しゅういち)
Tel: 078-304-7190 / Fax: 078-304-7191
研究員 神野 伸一郎(かみの しんいちろう)
Tel: 086-251-7952 / Fax: 086-251-7953

お問い合わせ先

分子イメージング科学研究センター
広報・サイエンスコミュニケーター
山岸 敦(やまぎし あつし)
Tel: 078-304-7111 / Fax: 078-304-7112

報道担当

理化学研究所 広報室 報道担当
Tel: 048-467-9272 / Fax: 048-462-4715
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産業利用に関するお問い合わせ

理化学研究所 社会知創成事業 連携推進部
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補足説明

  1. アミノベンゾピロキサンテン系色素(ABPX)
    有機系蛍光色素の1つ、ローダミン系色素を基本骨格とし、分子中のアリル部位の伸長を行い、発光団部分を拡張したもの。この構造により、単量体では引き延ばされた発光団部分に大きな構造的ゆがみが生じ、蛍光を発しなくなる。分子が凝集した状態では、発光団が積み重なって平面化が促進され、蛍光が増大する。
  2. 凝集誘起発光 (Aggregation-Induced Emission Enhancement: AIEE)
    一般的に有機系蛍光色素は、高濃度の溶液中や固体上では凝集体を形成し、発光しなくなる。これに対して、ある条件下で凝集した色素分子の立体構造には、非発光性と発光性の2タイプがあることが分かり、後者を凝集誘起発光(Aggregation-Induced Emission Enhancement:AIEE)と呼ぶ。AIEEが起きる条件として、凝集時に分子構造が平面化する、分子同士が発光を打ち消し合わないなどの要素が考えられているが、発光と色素分子の化学構造との一般的な関連性はほとんど分かっていない。

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ABPXの化学構造と水中での発光の様子

図1 ABPXの化学構造と水中での発光の様子

紫外線(365nm)を照射すると、単量体から凝集体になるに従って強い蛍光を発する。

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