広報活動

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2011年4月4日

独立行政法人 理化学研究所

免疫反応を沈静化する抑制性サイトカインIL-10の産生メカニズム発見

-時計遺伝子の転写因子E4BP4が、免疫反応の抑制を制御する-

ポイント

  • 炎症の慢性化がT細胞の抑制性サイトカイン産生を誘導する
  • 時計遺伝子の転写因子E4BP4は、IL-10の産生を制御
  • E4BP4は、IL-10を介して免疫反応の沈静化に働く

要旨

独立行政法人理化学研究所(野依良治理事長)は、炎症反応を抑制するサイトカイン※1IL-10※2」の発現が、時計遺伝子の転写因子E4BP4※3によって制御されていることを発見し、免疫反応の沈静化に働くメカニズムを解明しました。これは、理研免疫・アレルギー科学総合研究センター(谷口克センター長)シグナル・ネットワーク研究チームの久保允人チームリーダー(東京理科大学 生命科学研究所 分子病態研究部門 教授兼務)と東京理科大学生命科学研究所分子病態研究部門の本村泰隆研究員らによる共同研究の成果です。

私たちの体には生まれながらにして免疫システムが備わっており、外部から侵入してきた病原体などを攻撃して、異物から体を守っています。この免疫システムは、炎症性サイトカインを誘導することによって、免疫反応を増強させます。一方、この反応が過剰になると、自己を構成する正常な成分までも攻撃してしまう自己免疫疾患を引き起こしてしまいます。こうした過剰な攻撃を抑制するために、免疫システムは、反応を抑制するメカニズムも持ち合わせています。炎症反応の抑制性サイトカインのIL-10は、さまざまな種類があるT細胞※4の中でも、主に2型ヘルパーT細胞※5(Th2)が産生しますが、NKT細胞や記憶型T細胞、一部の制御性T細胞、1型ヘルパーT細胞(Th1)も産生することが知られています。しかし、全てのT細胞がIL10を産生するわけではなく、特定のIL-10産生メカニズムが存在するといわれながら、その詳細は全く不明でした。

研究グループは、マイクロアレイを用いた遺伝子発現解析からE4BP4を同定し、IL-10を産生できない状態のTh1細胞にE4BP4を発現させたところ、IL-13だけではなくIL-10も同時に産生することを見いだしました。相同組み換え技術で、このE4BP4を欠失させたマウスを作製して詳細に解析したところ、いずれのT細胞でもIL-10の産生が消失し、E4BP4はIL-10の産生に必須の機能を持つ転写因子であることを発見しました。

今回、IL-10産生メカニズムの解明に成功したことで、炎症反応を過剰に引き起こすさまざまな生活習慣病や自己免疫疾患に対して、新しい視点からの治療の実現や根本的予防を提案することができると期待されます。

本研究成果は、米国の科学雑誌『Nature Immunology』オンライン版(2011年4月3日付け:日本時間4月4日)に掲載されます。

背景

私たちの体には生まれながらにして免疫システムが備わっており、外部から侵入してきたウイルスや細菌などの病原体を攻撃して、異物から体を守っています。この免疫システムは、炎症性サイトカインを誘導することによって免疫反応を増強させます。一方で、この反応が過剰になると、自己を構成する正常な成分までも攻撃してしまう自己免疫疾患を引き起こします。こうした過剰な攻撃を抑制するため、免疫システムは反応を抑制するメカニズムも持ち合わせています。この免疫システムの抑制機能をつかさどる分子の1つが、IL-10と呼ばれる抑制性サイトカインです。IL-10はT細胞やマクロファージといった免疫細胞に働きかけ、直接的に細胞の活性化を抑制したり、マクロファージの抗原提示能を弱めたりすることで、免疫反応を沈静化させます。IL-10は、さまざまな種類があるT細胞の中でも、主にTh2細胞が産生しますが、そのほかにもNKT細胞や記憶型T細胞、一部の制御性T細胞も産生することが知られています。また、通常のTh1細胞はIL-10を産生しませんが、沈静化するはずの炎症反応が持続して、慢性的に過剰な抗原刺激を受けた状態では、一部のTh1細胞が本来産生できないサイトカインの産生能を獲得して、IL-10を産生するようになることが知られています。そのほか、腸管など特定の場所に存在するB細胞や樹状細胞の一部もIL-10を産生します。しかしこれまでの研究では、T細胞が産生するサイトカインの中でも、炎症病態の本体ともいえる炎症性サイトカインに焦点が集中しており、抑制性サイトカイン産生のメカニズムは不明のままでした。

研究グループは、慢性的な抗原刺激を受けたTh1細胞のサイトカイン産生能に着目し、Th1細胞の遺伝子発現パターンを網羅的に比較することで、抑制性サイトカインの産生を制御する分子の同定を目指しました。

研究手法と成果

研究グループはまず、主にTh2細胞が産生するサイトカインIL-13※6に着目しました。マウス由来のTh1細胞を1週間間隔で4回抗原刺激を繰り返すと、通常は産生しない抑制性サイトカインのIL-10やIL-13を産生することを見いだしました。そこで、通常のTh1細胞とIL-13を産生するTh1細胞との間で遺伝子の発現パターンを比較し、IL-13の産生を制御する分子の同定を試みました。この比較解析から浮上した16の候補分子をTh1細胞に発現させ、IL-13の産生を誘導する分子を検討したところ、時計遺伝子の転写因子として知られるE4BP4というタンパク質を突き止めました。驚いたことに、IL-10を産生できない状態のTh1細胞にE4BP4を発現させたところ、IL-13だけではなくIL-10も同時に産生することも分かりました。また、同様のサイトカインの産生パターンを、Th2、NKT細胞、記憶型T細胞、制御性T細胞などでも観察しました(図1)

さらに、相同組み換えの技術によってE4BP4を欠失させたマウス由来のT細胞のうち、Th1細胞へ慢性的に抗原刺激すると、発現するはずのIL-13とIL-10の産生が認められなくなりました。ところが、Th2細胞を抗原で刺激した場合、IL-10の産生だけが消失していました。また、NKT細胞、記憶型T細胞、制御性T細胞のいずれの細胞も、Th2細胞と同様、顕著にIL-10の産生だけを抑制していました。従って、E4BP4がIL-10の産生に必須の分子で、抗原刺激を受けたT細胞は、転写因子E4BP4を発現することで抑制性サイトカインIL-10を産生するというメカニズムを明らかにすることができました。

また、E4BP4を欠損したマウスでは、自己に対する免疫反応を抑制するメカニズムが働かなくなり、自己免疫性の大腸炎を引き起こしやすい状態になることが判明しました(図2)

今後の期待

がん、動脈硬化性疾患(心筋梗塞・脳血管障害)、神経変性疾患(アルツハイマー病)、自己免疫疾患などの難治性炎症疾患の発症・病態形成には、炎症の慢性化が深く関わっています。本来、炎症は、生体防御反応として疾患を改善の方向に導くためのメカニズムですが、その沈静化が効率良く働かない場合、炎症は慢性化し、各種難治性疾患へと移行します。そのため、炎症疾患の予後は、炎症性サイトカインやその沈静化を行うIL-10などの制御性サイトカイン遺伝子の発現制御が重要です。今回の発見は、これら炎症の沈静化に働くサイトカインの制御機構を理解することにつながり、近い将来、さまざまな難治性疾患を人為的に制御することができると期待されます。

発表者

理化学研究所
免疫・アレルギー科学総合研究センター
シグナル・ネットワーク研究チーム
チームリーダー 久保 允人(くぼ まさと)
Tel: 045-503-7047 / Fax: 045-503-7046

東京理科大学
生命科学研究所 分子病態研究部門
部門長・教授 久保 允人(くぼ まさと)
Tel: 04-7121-4091 / Fax: 04-7121-4099

お問い合わせ先

独立行政法人理化学研究所
横浜研究推進部 企画課
Tel: 045-503-9113 / Fax: 045-503-9117

報道担当

理化学研究所 広報室 報道担当
Tel: 048-467-9272 / Fax: 048-462-4715

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補足説明

  1. サイトカイン
    細胞同士の情報伝達に関わる、さまざまな生理活性を持つ可溶性タンパク質の総称。
  2. IL-10
    抑制性のサイトカインとして知られ、Th1細胞からのINF-γ産生を抑制するとともに、マクロファージからのIL-1、IL-6、Il-12、TNF-2の産生を抑制する働きを持つ。また、マクロファージに働いて補助シグナル分子CD80/CD86の発現を抑制することで、T細胞活性化補助機能を抑制する働きを持つ。
  3. E4BP4
    生体リズムを制御する概日時計の発振を調節する転写因子として同定された分子。最近では、NK細胞の分化にも関わっていることが示されている。増殖因子として知られるサイトカインIL-3の産生を制御する核内因子として、NFIL-3とも呼ばれる。
  4. T細胞
    リンパ球の1つで、機能を反映するサイトカインを産生することにより、免疫反応を制御する司令塔的役割を持つリンパ球。
  5. ヘルパーT細胞
    免疫応答に関与するリンパ球「T細胞」の1つ。アレルゲンの情報をB細胞へ伝え、アレルギー抗体の産生を誘導し、炎症を誘導する液性因子を放出することにより、生体防御反応・炎症反応の司令塔として働くT細胞。
  6. IL-13
    アレルギー炎症をつかさどるサイトカインで、主にTh2細胞が産生する。ぜん息などで起こる気道炎症はT細胞が産生するこのサイトカインが原因であることが知られている。

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E4BP4分子の発現とさまざまなT細胞におけるIL-10産生能との関係

図1 E4BP4分子の発現とさまざまなT細胞におけるIL-10産生能との関係

E4BP4を発現するTh1はIFN-γ、IL-10、IL-13を、Th2、NKT細胞、記憶型T細胞はIL-4、IL-10、IL-13を、制御性T細胞はIL-10を産生する。DAPIはDNAに強く結合する蛍光色素。

E4BP4欠損(KO)マウスで発症する大腸炎

図2 E4BP4欠損(KO)マウスで発症する大腸炎

左:E4BP4の欠損マウスでは、野生型のマウスと比較して、大腸炎による体重の減少が激しくなった。

右上:炎症のため、欠損マウスは野生型マウスに比べて大腸の長さが短くなっている。

右下:炎症のため、欠損マウスは野生型マウスに比べて肥大化している。

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