広報活動

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2011年5月12日

独立行政法人 理化学研究所

ゲノムワイド相関解析で、骨粗鬆症の新たなSNPを同定

-日本人の骨粗鬆症の罹患しやすさに関与する新規遺伝子「FONG」を発見-

ポイント

  • FONG遺伝子内に、骨粗鬆症のリスクが1.3倍に高まるSNPを同定
  • ゲノムワイドな相関解析による骨粗鬆症の新規遺伝子の発見は、世界初
  • FONG機能の解明が、骨粗鬆症発症の新たな代謝経路の同定につながる

要旨

独立行政法人理化学研究所(野依良治理事長)は、骨粗鬆(しょう)症(Osteoporosis)の発症に関与する新たな一塩基多型(SNP:Single Nucleotide Polymorphism)※1を発見しました。これは、理研ゲノム医科学研究センター骨関節疾患研究チーム(池川志郎チームリーダー)の黄郁代リサーチアソシエート、文部科学省の個人の遺伝情報に応じた医療の実現プロジェクト(オーダーメイド医療実現化プロジェクト)※2の研究グループを中心とする多施設共同研究※3による研究成果です。

骨粗鬆症は、骨量が減少し、骨が弱くなることによって骨折が起こりやすくなる全身性の骨疾患です。発症頻度が高い疾患で、日本だけでも患者は1,000万人以上にのぼり、社会的にも大きな影響をもたらす問題となっているため、その発症原因の解明や予防・治療法の確立が待ち望まれています。

研究グループは、全ゲノムレベルのケース・コントロール相関解析※4という研究手法を用いてゲノム全体を調べ、骨粗鬆症のなりやすさ(疾患感受性)に関連する新たなSNPを発見することに成功しました。オーダーメイド医療実現化プロジェクトで収集された約7,000人の日本人集団について、約27万個のSNPを調べ、骨粗鬆症との相関を解析した結果、P値※4が10-8(10のマイナス8乗)レベルと非常に強い相関を示すSNP(rs7605378)を同定しました。この強い相関を示したSNPは、ヒトの2番染色体長腕上に存在し、このSNP周辺のゲノム上には、既知の遺伝子がまったく存在しませんでした。そこで、このSNP周辺のゲノム上に存在する新規遺伝子を探索したところ、骨を含むいくつかの組織で発現する遺伝子「FONG」を発見しました。

これは、ゲノムワイドな相関解析で骨粗鬆症に関与する新規遺伝子を同定した世界で最初の成果となります。今後、FONG遺伝子の機能解析を通じて、より詳細な骨粗鬆症の病態の理解が進み、これまでにない新しいタイプの骨粗鬆症治療薬の開発を含め、骨粗鬆症のオーダーメイド医療に向けた研究の進展が期待されます。

本研究成果は、米国のオンライン科学雑誌『PLoS ONE』(5月6日付け:日本時間5月7日)に掲載されました。

背景

骨粗鬆症は、低骨量と骨の微細構造の劣化が特徴で、その結果骨の脆(ぜい)弱性が増加し、骨折を起こしやすい全身性の骨疾患です。また、骨折による二次的な骨格変形は、寝たきり状態や慢性腰痛の原因となり、円背、身長低下などにより日常生活動作(ADL: Activities of Daily Living)や生活の質(QOL: Quality of Life)を低下させ、介護の必要性を増大させる原因となっています。その有病率は中年以降年齢とともに増加し、50歳以上の女性では約30%以上の人が骨粗鬆症という統計もあり、高齢化社会の大きな課題の1つに数えられています。すでに、高齢者が要介護支援となる原因の中で、この疾患が介護予防、要重度化防止の点からも緊急の課題と指摘されています。このように骨粗鬆症は、医学・医療だけでなく、社会・経済的にも深刻な問題となっており、その発症原因、病態解明と新たな予防・治療法の確立が待ち望まれています。

すでに、疫学※5調査などから、骨粗鬆症は、遺伝的因子と環境因子の相互作用により発症する多因子遺伝病、生活習慣病であることが明らかになっています。このため、研究グループは、この骨粗鬆症の遺伝的因子、すなわち骨粗鬆症の疾患感受性遺伝子を特定し、その働きを解明しようと研究を行いました。

多因子遺伝病である骨粗鬆症には、多くの遺伝子が関与することが知られています。これまでにも、既存の知識、情報を出発点として、ゲノムの一部を重点的に調べる候補遺伝子アプローチ※6により、いくつもの骨粗鬆症の疾患感受性遺伝子が見つかっていますが、従来の候補遺伝子アプローチによる遺伝子探索では、疾患との関連が推測された既知の遺伝子しか疾患感受性遺伝子の候補とならないため、限界があるのは明らかでした。そのため、欧米では、ゲノム上に多数存在するSNPを用いたゲノムワイドな相関解析による遺伝子探索が行われるようになってきています。しかし、日本人ではゲノムワイドな相関解析による遺伝子探索はまだ実現していませんでした。

研究手法と成果

研究グループは、ゲノム全体を効率的にカバーする約27万個のSNPのセットを用いて、骨粗鬆症のケース・コントロール相関解析を行いました。

まず、個人の遺伝情報に応じた医療の実現プロジェクト(オーダーメイド医療実現化プロジェクト)が収集し、バイオバンクジャパン※7(東京大学医科学研究所内)に登録されている716人の骨粗鬆症患者と3,094人の一般対象者の試料を用いて2段階の相関解析を行い、強い相関を得たSNPを、先の集団とは別の新たな1,326人の骨粗鬆症患者集団と1,292人の一般対象者集団、さらに、240人の骨粗鬆症患者集団と285人の一般対象者集団で確認しました。この多段階の相関解析の結果、2番染色体長腕上のSNPであるrs7605378が骨粗鬆症と強く相関していることが分かりました(表1、P値 = 1.51×10-8)。このSNPのもたらすリスクの大きさはオッズ比※8で約1.3、つまり、このSNPを持っていると骨粗鬆症にかかる可能性が約1.3倍に高まることが分かりました。

このSNP周辺には既存の遺伝子は存在せず、遺伝子の断片や、コンピュータープログラムによる予測などで推測された仮想遺伝子が存在するだけでした。そこで、研究グループは、さまざまな分子遺伝学的手法を駆使し、このSNP周辺の遺伝子を探索しました。すると、仮想遺伝子と一部のエクソン※9が一致する新たな遺伝子を発見しました(図1)

この新規遺伝子は、147個の アミノ酸からなるタンパク質をコードしています。コンピューター予測プログラムでアミノ酸配列からドメイン構造を予測したところ、この遺伝子の作るタンパク質が、formiminotransferase N-terminal sub-domain※10と呼ばれる領域を持つことが判明しました。FONGFormiminotransferase N-terminal sub-domain containing gene)と名付けたこの遺伝子は、それ以外にまったく特徴がなく、既知の遺伝子との類似性もないため、その機能を推測することはできませんでした。一方で、FONG遺伝子は、骨を含むさまざまな組織に発現し、多くのスプライシング※9 パターンを持つことが分かりました。さらに、FONG遺伝子領域を網羅的に解析した結果、rs7605378を含む59個のSNPを同定しました。これらのSNPと骨粗鬆症との相関解析を行ったところ、rs7605378が最も強い相関を示すことが分かりました。また、同定したSNPの中には、rs7605378と完全連鎖※11しているSNPが12個存在し、rs7605378と同程度の強い相関を示すことが分かりました。

今後の展開

今回、骨粗鬆症の発症に関係する新たな遺伝子FONGを同定しました。FONGタンパク質に含まれるformiminotransferase N-terminal sub-domain は、ホルムイミノ基転移酵素活性を持ち、基質タンパク質を構成するアミノ酸のヒスチジンをグルタミン酸へ変換することから、FONG遺伝子がグルタミン酸シグナルを通じて骨代謝に関わっている可能性が考えられます。その機能解析が進展すると、骨粗鬆症の発症につながる新たな代謝経路や、それに関連する遺伝子を同定することが期待できます。

発表者

理化学研究所
ゲノム医科学研究センター
骨関節疾患研究チーム
チームリーダー 池川 志郎(いけがわ しろう)
Tel: 03-5449-5715 / Fax: 03-5449-5393

お問い合わせ先

横浜研究推進部 企画課
Tel: 045-503-9117 / Fax: 045-503-9113

報道担当

理化学研究所 広報室 報道担当
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産業利用に関するお問い合わせ

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補足説明

  1. 一塩基多型(SNP: Single Nucleotide Polymorphism)
    ヒトゲノムは30億塩基対のDNAから構成されているが、個々人を比較するとそのうちの 0.1%の塩基配列に違いがあると見られ、これを遺伝子多型と呼ぶ。遺伝子多型の内、1つの塩基が、ほかの塩基に変わるものを一塩基多型(SNP: Single Nucleotide Polymorphism)と呼ぶ。遺伝子多型は遺伝的な個人差を知る手がかりとなるが、その多くはSNPである。そのタイプにより、遺伝子をもとに体内で作られる酵素などのタンパク質の働きが微妙に変化し、病気のかかりやすさや医薬品への反応に変化が生じる。
  2. 文部科学省の個人の遺伝情報に応じた医療の実現プロジェクト(オーダーメイド医療実現化プロジェクト)
    文部科学省リーディングプロジェクト(中村祐輔 プロジェクトリーダー)として2003年から開始したプロジェクト。遺伝暗号の違いを基に病気の原因、薬の副作用の原因などを明らかにして、新しい治療法や診断法を開発するためのプロジェクトで、理研ゲノム医科学研究センターがこの中核機関として遺伝子解析の中心的な役割を果たしている。詳しい情報は、ホームページ上で公開されている。
  3. 多施設共同研究
    オーダーメイド医療実現化プロジェクトの参加機関である東京都健康長寿医療センター(井藤英喜センター長、森聖二郎部長)に加え、東京大学(井上聡教授、浦野友彦助教)、成人病診療研究所(白木正孝所長)、国立長寿医療センター(細井孝之部長)、国立病院機構相模原病院(福井尚志部長)との共同研究による。
  4. ケース・コントロール相関解析、P値
    疾患の感受性遺伝子を見つける方法の1つ。疾患を持つ群と持たない群とで、遺伝子多型の頻度に差があるかどうかを統計学的に比較する解析方法。検定の結果得たP値(偶然にそのようなことが起こる確率)が低いほど、相関が強いと判定する。
  5. 疫学
    人間集団を対象として、健康及び疾病にかかわる要因を特定し、因果関係を明らかにすることを目指す学問。
  6. 候補遺伝子アプローチ
    相関解析の手法の1つ。既存の知識、情報を基に特定の遺伝子に的を絞って、調べていく方法。
  7. バイオバンクジャパン
    オーダーメイド医療実現化プロジェクトの基盤となるDNAサンプル及び血清サンプルを約40疾患(延べ約30万人)から収集し、臨床情報とともに保管している世界でも有数の資源バンク。情報は個人情報管理に配慮し、幾重にも厳重に管理されている。東京大学医科学研究所内に設置されている。
  8. オッズ比
    リスクの大きさの指標。基準とするものに対し、リスクが何倍に上がるかを表す。
  9. エクソン、スプライシング
    ゲノム上の遺伝子はエクソンとイントロンからなるが、mRNAに転写される過程でイントロン配列が削除され、エクソン配列のみがmRNAとして残る。この過程をスプライシングと呼ぶ。同じ遺伝子からでも異なったエクソンの組み合わせのmRNAが作られることがあり、これをオルタナティブ・スプライシングと称する。
  10. formiminotransferase N-terminal sub-domain
    Formiminotransferase-cyclodeaminaseは二機能性の酵素であり、N-terminal sub-domainは、ホルムイミノ基転移酵素活性を持ち、テトラヒドロ葉酸とグルタミン酸を生じるヒスチジンの代謝分解に関わる。
  11. 完全連鎖
    2つのSNPがゲノム上で極度に近接していると、その間での組換え確率は低くなり、見かけ上2つのSNPが常に一組となって遺伝する状態。

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表1 rs7605378の相関解析

調べた集団 P オッズ比 (95% 信頼区間)
1)スクリーニング集団1(GWAS) 7.11×10-4 1.46 (1.17-1.83)
2)スクリーニング集団2 1.16×10-3 1.27 (1.10-1.46)
3)再現集団1 2.99×10-3 1.18 (1.06-1.31)
4)再現集団2 3.97×10-2 1.29 (1.01-1.65)
(1+2+3+4) 1.51×10-8 1.25 (1.16-1.35)
仮想遺伝子とFONGの遺伝子構造

図1 仮想遺伝子とFONGの遺伝子構造

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