広報活動

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2011年6月6日

独立行政法人 理化学研究所

放線菌による「リベロマイシンA」生合成機序を遺伝子レベルで初めて解明

-トマトエキスが誘導する放線菌遺伝子を探索し判明-

ポイント

  • 骨転移がんや骨粗しょう症を抑えるリベロマイシンAの生合成遺伝子を21個同定
  • 生理活性に重要なスピロアセタール環を、効率よく生合成する2酵素を発見
  • 薬の種となるスピロアセタール環の創製研究の進展に期待

要旨

独立行政法人理化学研究所(野依良治理事長)は、土壌中に存在し、抗生物質の生産微生物として知られる放線菌※1の仲間が、骨粗しょう症やがんの骨転移を抑える薬の候補として注目されている「リベロマイシンA※2」を生合成※3するメカニズムを、世界で初めて遺伝子レベルで明らかにしました。これは、理研基幹研究所(玉尾皓平所長)ケミカルバイオロジー研究基盤施設の長田裕之施設長、高橋俊二専任研究員らによる研究の成果です。

土壌1グラム中には、いまだに同定されていない菌も含めて約1億個の微生物が存在するといわれており、さまざまな有機物の分解と物質の生合成が営まれています。人類は、アオカビが生み出すペニシリンをはじめ、これら微生物が生み出す代謝物質の中から、抗生物質や抗がん剤などの機能を持った薬の種となるものを探し出し、利用してきました。一方、微生物を単離して試験管内で純粋に培養すると、有用物質を生産しなくなる現象も知られ、「微生物がどのようにして薬の種を作るのか」を明らかにすることは、薬の安定生産に重要であるだけでなく、より効果のある薬の創製にも応用可能です。

研究チームは、トマトエキスを放線菌に加えると、リベロマイシンAの生産量が上昇することを見いだし、このトマトエキスにより発現が上昇する遺伝子群をRT-PCR解析法※4で探索して、21個の遺伝子を同定することに成功しました。これら遺伝子から翻訳される酵素の機能を解析したところ、生理活性に重要なスピロアセタール環※5の生合成に関わるシドロキシケトン合成酵素(RevG)と、その立体構造を制御するスピロアセタール合成酵素(RevJ)という2つの新たな酵素を発見しました。今回、リベロマイシンAの生合成メカニズムを世界で初めて遺伝子レベルで解明したことで、微生物が有用物質を作り出すメカニズムをもとに、薬の種となる新しい生理活性物質を人工的に合成できるようになると期待できます。

本研究成果は、英国の科学雑誌『Nature Chemical Biology』オンライン版(6月5日付け:日本時間6月6日)に掲載されます。

背景

土壌中には多くの微生物が存在し、さまざまな代謝物質を生産しています。その中には、抗生物質や抗がん物質など、私たちの体にとって有用な生理活性物質も含まれています。こうした微生物が作り出す物質のうち、ポリケチド化合物※6と呼ばれる有機物の中には、実際に抗がん剤や免疫抑制剤として利用されているものもあります。特に、放線菌(Streptomyces reveromyceticus)が生産するリベロマイシンA(図1)は、骨粗しょう症など骨関連疾患への利用が期待されるポリケチド化合物の仲間で、骨を分解・吸収する破骨細胞を選択的に細胞死(アポトーシス)へと誘導して骨の分解・吸収を防いだり、肺がんや前立腺がんによる腫瘍の骨転移を抑制したりする活性を有しています。このリベロマイシンAは、1つの酸素と5つの炭素からなる6員環を2つ持ち、その立体構造がさまざまな生理活性に非常に重要であることが分かっています。これはスピロアセタール環と呼ばれる構造の一種で、これまでの有機合成化学者の努力により、リベロマイシンAを化学合成する手法は確立されたものの、立体特異的に合成するには、31工程以上という多段階の合成ステップが必要でした。一方で、「微生物がどのようにして立体的に複雑な構造を作ることができるのか?」という基本命題は不明のままでした。微生物の効率的な有用化合物の生合成メカニズムをまねることができると、その安定生産や、より効果のある新規の活性類縁体を作り出すことが可能になります。そのため、放線菌が持つ8.8 Mb(8.8百万個)の塩基配列の中から、リベロマイシンAを生合成する遺伝子を同定して、その遺伝子産物である酵素(化学反応を触媒するタンパク質)の反応機構を明らかにすることは、薬の種となる化合物の創製に欠かせない重要な命題でした。

研究手法と成果

研究チームは、長年の培養経験で、トマトエキスを含む培養液で生産菌を培養すると、リベロマイシンAの生産量が増えることを見いだしていました。そこで、トマトエキスを添加したときに、特異的に発現が誘導される放線菌の遺伝子をRT-PCR法で探索して、リベロマイシンA生合成遺伝子の候補を、放線菌全ゲノムの約1%を占める約91kb(91,000個)の塩基配列内に絞り込みました。相同組み換えで遺伝子を破壊するとリベロマイシンAの生合成が消失し、その後、破壊した遺伝子を再導入すると生合成が回復すること、さらに、破壊してもリベロマイシンAの生合成に影響しない遺伝子を確認することによって領域の絞り込み作業を行い、21個のリベロマイシンAの生合成遺伝子群を突き止めました。

これら21個の遺伝子産物の中から、リベロマイシンAの炭素骨格を生合成する4つのポリケチド合成酵素(RevA、RevB、RevC、RevD)を同定し、その機能ドメインから予想できた生合成産物の構造が、実際に放線菌が作り出す安定な生合成中間体(スピロアセタール環前駆体)の構造と完全に一致していることを確認しました。つまり、RevA、RevB、RevC、RevDが、ポリケチド化合物、特に、スピロアセタール環前駆体を合成する役割を担っていることが判明しました。

これまで、スピロアセタール環の形成プロセスは、エポキシド(2個の炭素と1個の酸素からなる三角形の環状化合物)経由の環化反応、あるいは、ジヒドロキシケトン(酸素と二重結合している炭素の両側に、水酸基を含む炭素骨格が結合した化合物)経由の脱水環化反応、という2つの反応が予想できましたが、結論が出ていませんでした。今回の遺伝子解析とスピロアセタール環前駆体の同定で、これら2つの反応のうち、ジヒドロキシケトンの経路が有力であることが分かりました。また、スピロアセタール環前駆体と作用する酵素を探索したところ、ジヒドロキシケトン合成酵素(RevG)を見いだし、実際にRevGを用いて試験管内で反応を再現すると、立体構造の異なる2種類のスピロアセタール環を形成することを確認しました。しかし、リベロマイシンA生産菌が作る最終産物は、片方だけの立体構造しか生合成しないことから、立体特異的な環化反応を制御している酵素を探索したところ、スピロアセタール合成酵素(RevJ)を発見することができました。これまで、ポリケチド合成酵素によって作られる炭素骨格から推測すると、スピロアセタール環は酵素を使わない反応で生合成されると考えられていました。しかし今回、こうした従来の考えを覆し、リベロマイシンA生産菌では、RevG、RevJの2つの酵素を用いて、スピロアセタール環を立体特異的に生合成していることが、世界で初めて分かりました(図2)

今後の期待

リベロマイシンAの生合成に関わる重要な21個の遺伝子群の機能を明らかにしたことで、薬の種となるスピロアセタール環の創製研究の進展が期待できます。また、これら遺伝子群に含まれていたRevG、RevJの酵素や、その他のポリケチド化合物を修飾する酵素群を利用することによって、今まで多段階の化学合成で誘導する必要があった化合物を、材料となる物質群と酵素を混ぜるだけで、効率的・選択的に作り 出すことができるようになります。生物の遺伝子探索から解明した有用物質の生合成メカニズムの利用は、薬の種となる多様な化合物を生み出し、生命科学・医薬分野に貢献すると期待されます。

発表者

理化学研究所
基幹研究所 ケミカルバイオロジー研究施設
施設長 長田 裕之(おさだ ひろゆき)
専任研究員 高橋 俊二(たかはし しゅんじ)
Tel: 048-467-9541 / Fax: 048-462-4669

報道担当

理化学研究所 広報室 報道担当
Tel: 048-467-9272 / Fax: 048-462-4715
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産業利用に関するお問い合わせ

理化学研究所 社会知創成事業 連携推進部
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補足説明

  1. 放線菌
    グラム陽性を示す細菌で、多様な構造を有する二次代謝産物を生産することで知られる。人類は、それらの中から、抗生物質、農薬、免疫抑制剤などの生理活性を持つ物質を見いだし、利用してきた。これまでに発見されている10,000種類以上の微生物由来の有用化合物のうち、3分の2は放線菌に由来する。
  2. リベロマイシンA
    分子量660からなる、放線菌Streptomyces reveromyceticusから単離されたポリケチド化合物。破骨細胞に選択的に取り込まれ、標的分子のイソロイシルtRNA合成酵素の活性を阻害し、タンパク質合成を阻害することで、アポトーシスを誘導する。構造的特徴として、多くの不斉炭素中心をもつスピロアセタール環、トリカルボン酸を有している。合成化学的にも興味深い化合物であり、多くの有機合成化学者により化学合成が報告されている。
  3. 生合成
    生物が作る酵素の作用によってさまざまな物質が合成されること。生物体を構成、維持する上で重要な化合物を一次代謝物、生育に必ずしも必須ではない化合物は二次代謝物と呼ぶ。
  4. RT-PCR解析法
    遺伝子が発現するとmRNAが作られる。これを分子生物学的に解析するには、Reverse Transcription(RT)により、mRNAからDNAへの変換が必要である。また、Polymerase Chain Reaction (PCR)と呼ばれるDNAを増幅する技術を組み合わることで、細胞内で特定の遺伝子が存在しているか否かを知ることができる。
  5. スピロアセタール環
    ポリケチド化合物の骨格に存在することが多く、炭素原子1つを共有し、1つの酸素と4つまたは5つの炭素で構成される5員環または6員環がつながった構造で、幅広い生理活性を有している。バクテリア、渦鞭毛藻、海綿などから広く見つかっている。イオノホア、プロテインホスファターゼ阻害、駆虫作用、抗菌作用などが知られている。
  6. ポリケチド化合物
    ポリケチド合成酵素は、開始基質を取り込んだ後に、主にマロニルCoAまたはメチルマロニルCoAなどを伸長基質として利用し、ポリケトン鎖を形成する。さらに、ポリケチド合成酵素の機能ドメインの構成の違いにより、還元や脱水を受けた炭素鎖が伸長して生合成される化合物。I、II、III型のポリケチド合成酵素が知られている。

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スピロアセタール生合成機構

図1 リベロマイシンAの化学構造

図2 スピロアセタール生合成機構

安定なスピロアセタール前駆体は、ジヒドロキシケトン合成酵素(RevG)によって中心の水酸基(OH)がケトン(C=O)に変換され、さらに、スピロアセタール合成酵素(RevJ)によって立体特異的なスピロアセタール環が生合成される。

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