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2011年6月7日

独立行政法人 理化学研究所
財団法人 高輝度光科学研究センター

「夢の光」をついに実現

-X線自由電子レーザー施設SACLA(サクラ)がX線レーザーの発振に成功―

ポイント

  • 世界最短波長(1.2Å)となるX線レーザーの発振に成功
  • ビーム運転開始からわずか約3カ月という短期間での達成
  • 性能をさらに向上させ、2011年度内に供用運転を開始

要旨

独立行政法人理化学研究所(野依良治理事長)と財団法人高輝度光科学研究センター(JASRI、白川哲久理事長)は、6月7日、兵庫県の大型放射光施設SPring-8※1に隣接して建設したX線自由電子レーザー(XFEL)施設SACLA(サクラ)※2で、世界最短波長の1.2Å(Angstrom:オングストローム)※3のX線レーザーの発振に成功しました。

X線レーザーは、原子の世界を一瞬のストロボでくっきりと映し出す21世紀の新しい光です。基礎研究から応用開発まで幅広い分野で活用が見込まれており、創薬で重要な膜タンパク質の構造解析や、ナノテクノロジー分野などの研究の進展が期待されています。

SACLAは、第3期科学技術基本計画において国家基幹技術※4の1つとして選定され、日本の最先端テクノロジーを結集して2006年度より5年間にわたって整備が行われてきました。2011年2月末からビーム運転を開始し、調整を進めた結果、運転開始からわずか3カ月という短期間で波長1.2ÅのX線レーザーの発振に成功しました。この波長は、2009年4月に世界で最初にX線レーザーを発生させた米国のXFEL施設Linac Coherent Light Source (LCLS) の1.5Åという記録を抜いて、世界最短波長となります。

今後は、さらに高強度・短波長のX線レーザーを安定に供給、利用するための調整運転を行い、2011年度内に、国内外に開かれた施設として供用運転を開始する予定です。

背景

X線の発見、放射光やレーザーの発明は、新たな科学技術を切り拓き、産業の発展に寄与してきました。X線はオングストロームレベルの短い波長を持つため、原子を見分ける高い空間分解能を有するという特性があります。一方、1960年代に可視光領域で実用化されたレーザーは、位相のそろったコヒーレント※5な光であり、きれいで(高干渉性)、指向性に優れ、輝度が高く、発光時間が短い(短パルス)などの特性があります。これら2つの特性を併せ持つX線レーザーは、その実現が長らく待望されていました。

1980年代、「X線自由電子レーザー(XFEL)」という、高度な加速器技術に基づく方式を用いることで、コヒーレントな光の波長をX線領域まで到達できる可能性があるということが理論的に提唱されました。1990年代から本格的な技術的検討と要素技術開発が行われ、2000年代にはアメリカ・欧州・日本の3カ所で施設の建設が進められました。欧米の施設が全長約3km~4kmであるのに対して、日本のXFEL装置は全長約700mと半分以下というコンパクトな設計が特徴です。これを実現するために、電子銃、線型電子加速器、アンジュレータ※6という主要3要素に日本独自の技術を採用しています。2005年にはコンセプト検証のためのプロトタイプ機SCSS試験加速器※7を建設し、真空紫外光(波長600Å、最大出力30μJ/pls)のレーザー発振に成功しました。2006年度には、「国家基幹技術」としてXFEL施設の建設プロジェクトを開始し、2011年3月に施設を完成、愛称を「SACLA」と名付けました。

SACLAが出力するX線レーザーは、SPring-8の放射光と比較して、高いピーク輝度(約10億倍)、狭いパルス幅(約1000分の1)、高いコヒーレンスという特性を持ちます。

研究手法と成果

SACLAでは、線型加速器で加速した高エネルギーで高品質の電子ビームを、磁石列が上下に並んだアンジュレータ(全18台)に通してX線レーザーを生成します。既に2011年3月23日に電子ビームを計画通りの8GeV※8まで加速して、波長0.8ÅのX線を発生、観測することに成功しています(2011年3月29日発表)。ここから位相をそろえてレーザー発振を実現するためには、電子ビームの密度を数百倍に高めるとともに、数μmという非常に高い精度で電子ビームをアンジュレータ内に通す必要がありました。

先行する米国のLCLSでは、入射器の立ち上げからレーザー発振までの調整に数年を費やしましたが、SACLAでは、この調整を短期間に効率良く行うために、SCSS試験加速器から得た知見を十二分に活用しながら、モニターや電磁石などのハードウエア、及び各機器を精密に制御するソフトウエアの最適設計を徹底的に行い、さらに調整計画を綿密に練り上げました。その結果、2月末のビーム運転開始からわずか3カ月という短期間で、世界最短波長となる1.2Åのレーザー発振を実現しました。

今後の展望

軌道精度をさらに向上させ、アンジュレータ部の超精密調整を行っていくことにより、現在の波長1.2Åをさらに短波長化するとともにレーザー出力の飽和(高強度のレーザーが安定して発生する状態)を早期に達成することを目指します。並行して、利用装置の試験調整運転を行い、2011年度内の供用運転に向けて準備を進めていきます。

お問い合わせ先

独立行政法人理化学研究所
播磨研究所 研究推進部 企画課
Tel: 0791-58-0900 / Fax: 0791-58-0800
riken-kikaku [at] spring8.or.jp ([at]は@にしてください)

報道担当

理化学研究所 広報室 報道担当
Tel: 048-467-9272 / Fax: 048-462-4715

補足説明

  • 1.大型放射光施設SPring-8
    理研が所有する、兵庫県の播磨科学公園都市にある世界最高の大型放射光施設。SPring-8の名前はSuper Photon ring-8GeVに由来する。放射光(シンクロトロン放射)は、電子を光とほぼ等しい速度まで加速し、電磁石によって進行方向を曲げたときに発生する、指向性の高い強力な電磁波のこと。SPring-8では、遠赤外から可視光線、軟X線を経て硬X線に至る幅広い波長域で放射光を得ることができるため、原子核の研究からナノテクノロジー、バイオテクノロジー、産業利用や科学捜査まで幅広い研究が行われている。日本の先端科学・技術を支える高度先端科学施設として、日本国内外の大学・研究所・企業から年間約1万4千人(2010年度実績)の研究者が利用している。
  • 2.X線自由電子レーザー施設SACLA(サクラ)
    X線自由電子レーザー(XFEL:X-ray Free Electron Laser)は、通常のレーザーと異なり、物質に束縛されていない自由電子を用いてレーザー増幅を行う。日本におけるXFEL施設は、第3期科学技術基本計画における5つの国家基幹技術の1つとして位置付けられ、理研の大型放射光施設SPring-8に隣接して整備を行った。2011年3月には施設が完成し、愛称をSACLAと決定した。SACLAは、これまでの放射光と比べて、輝度は10億倍、パルス幅は1,000分の1(10フェムト秒=100兆分の1秒)、さらに100パーセント位相のそろったコヒ―レントなX線という性能を持つ。目指す最短波長は0.6Å。基礎・基盤研究から、産業や応用研究開発まで、諸外国に先駆けて革新的な成果を創出することが期待される。具体的には、がんやエイズなどの難病に対する特効薬の開発、持続的発展に必要な新エネルギーシステムの研究など、幅広い分野での活用が見込まれている。
  • 3.Å(Angstrom:オングストローム)
    長さの単位の1つで、100億分の1メートルを表す。原子の大きさはほぼ1Åであるため、分子や原子のような微細な物質の様子を観察、測定することができる。
  • 4.国家基幹技術
    2006年3月に閣議決定され、第3期科学技術基本計画において選定された「国家的目標と長期戦略を明確にして取り組むべき重要技術」。「宇宙輸送システム」「海洋地球観測探査システム」「高速増殖炉サイクル技術」「次世代スーパーコンピュータ」「X線自由電子レーザー」の5つが選定された。XFELは、これまで実現不可能であった分析を可能にする技術と位置付けられ、広範な科学技術分野における貢献が期待されている。
  • 5.コヒーレント
    位相がきれいに保たれている状態。コヒーレントな光は、単色性(どのくらい波長の拡がりが抑えられているか)と指向性(特定方向にどのくらい拡がらずに進むか)に優れ、高い干渉性(どのくらいきれいな光)を有する。
  • 6.アンジュレータ
    NとSの磁極を交互に上下に配置し、その間を通り抜ける電子を周期的に小さく蛇行させ、特定の波長を持った光を作り出す装置。理研の大型放射光施設SPring-8では、世界に先駆けて開発した真空封入型アンジュレータや27mにおよぶ長尺アンジュレータなどを整備し、世界最高レベルの放射光発生を実現している。X線自由電子レーザー施設用に開発したアンジュレータは、1台の長さが約5mであり、1台あたり277周期で磁石が交互に配列されている。
  • 7.SCSS試験加速器
    SCSSは、「SPring-8 Compact SASE Source」の略。SASEは自己増幅自発放射(Self Amplified Spontaneous Emission)を意味し、反射鏡を使わずに光を増幅してレーザー発振を得る方法を指す。2005年に、「SCSS試験加速器」と呼ばれるプロトタイプ機をSPring-8に隣接して建設し、レーザーシステムの性能実証のための試験運転を行った。2006年に真空紫外光のレーザー発振に成功、現在も安定に稼働し、有効な光源としてユーザーに利用されている。
  • 8.GeV(ギガエレクトロンボルト)
    エレクトロンボルト(eV)はエネルギーの単位の1つ。電子1つを1ボルトで加速したときに電子が持つエネルギーが1エレクトロンボルト。ギガ(G)は109倍、つまり10億倍を示す。XFEL加速器やSPring-8の加速器は8GeV(80億エレクトロンボルト)という非常に高いエネルギーまで電子を加速させている。
SACLAとSPring-8(2010年5月撮影)の画像

SACLAとSPring-8(2010年5月撮影)※白い直線部分がSACLA(全長約700m)です。

X線自由電子レーザーシステムの模式図の画像

図1 X線自由電子レーザーシステムの模式図

X線レーザーの空間プロファイルの図

図2 X線レーザーの空間プロファイル

CCDカメラでレーザー光を撮影した画像。大きな薄い円状の光は自発放射によるX線が検出されたものであり、中心の小さく強く発光している部分が、検出したX線レーザー。

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