広報活動

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2011年11月2日

独立行政法人 理化学研究所

レアアースの欠陥が強磁性を発生させる仕組みを発見

-レアアースの電子と3d遷移元素の電子の強い相互作用が強磁性を生む-

ポイント

  • カゴ状化合物のスクッテルダイトを使って強磁性発生の仕組みを解明
  • 温度と電子状態に関して、従来知られていた現象とは逆の新規現象を発見
  • 基礎物理学だけでなく、産業応用の観点からも重要

要旨

独立行政法人理化学研究所(野依良治理事長)は、充填率が100%に満たないカゴ状化合物のスクッテルダイト(YbXFe4Sb12)が、強磁性※2を発生する新しい仕組みを発見しました。これは、理研放射光科学総合研究センター(石川哲也センター長)石川X線干渉光学研究室の山岡人志専任研究員、日本原子力研究開発機構(鈴木篤之理事長)のイニヤス ジャリッジ(Ignace Jarrige)研究員、物質・材料研究機構(潮田資勝理事長)の辻井直人主任研究員、テキサス大学(ウィリアム パワーズ ジュニア:William Powers Jr.)のジュンフー リン(Jung-Fu Lin) 助教、富山大学(遠藤俊郎学長)の池生剛大学院生、石川義和教授、西村克彦教授、東中隆二助教、首都大学東京(原島文雄学長)の佐藤英行教授らによる共同研究の成果です。

磁性は物質の基本的な性質の1つで、強力な永久磁石の開発が電子機器の小型化につながるなど産業利用への応用も進んでいます。一般に、磁性を帯びやすいのは鉄やコバルト、ニッケルなどの3d遷移元素と呼ばれる物質で、これらにレアアース(希土類)と呼ばれる4f元素を加えて磁性を安定させています。今回研究対象としたスクッテルダイトも、3d遷移元素の鉄(Fe)と4f元素のイットリビウム(Yb)からなり、Feとアンチモン(Sb)元素でできたカゴの中に、Ybが閉じ込められた形をしています。このスクッテルダイトは、Ybが欠陥すると‐256℃以下の低温で強磁性を発生することが知られていますが、その詳細な仕組みは不明でした。

研究グループは、大型放射光施設SPring-8※3のBL12XU台湾ビームライン※3によるX線共鳴非弾性散乱(X線共鳴発光分光※4)の測定法を用い、Ybの電子状態について温度と圧力との関係を調べました。その結果、Ybの欠陥が引き起こす強磁性発生の原因が、Ybの電子とFeの電子の強い相互作用にあることを発見しました。また、強磁性を発生しているのはYb側ではなく、Fe4Sb12側にあることも分かりました。これは、Ybが欠陥したカゴの回りのFe4Sb12側で局所的に磁性が発生していることを示唆しています。さらに、Ybは一般に低温で価数※5が下がりますが、Yb欠陥のスクッテルダイトでは、低温で急激に価数が上昇する現象を観測しました。これらは、従来の理論モデルでは説明できない全く新しい現象です。

この発見は、磁性発生の仕組みに関する新たな知見であり、基礎物理学的な観点と同時に、熱電変換材料としての産業応用への観点からも非常に重要な結果です。

本研究成果は、米国の物理科学誌「Physical Review Letters」のオンライン版に掲載されました。

背景

磁性は物質の基本的な性質の1つで、強力な永久磁石の発明による電子機器の小型化など産業利用への応用も進んでいます。磁性を帯びやすい物質としては、3d遷移金属と呼ばれる鉄やコバルト、ニッケルなどが知られています。これにレアアース(希土類)と呼ばれる4f元素を加えた化合物は、磁性を安定させることが知られています。例えば、3d遷移元素のコバルト(Co)と4f元素のサマリウム(Sm)の化合物Sm-Coという磁石は、携帯電話や電気自動車のモーターなどに使われています。また、温度差を利用して発電できる熱電変換材料としての応用が期待されているスクッテルダイトという化合物もあります。この化合物も3d遷移元素と4f元素からなり、3d遷移元素とプニコゲン※6(第15族元素)でできたカゴのなかに4f元素が閉じ込められた構造をしている化合物の総称です(図1左)。通常、すべてのカゴを4f元素で充填させるように物質を作りますが、実際には4f元素が欠陥し充填が不十分な化合物もできます。4f元素の欠陥があると、スクッテルダイトは‐256℃の低温で強磁性を発生することは知られていましたが(図1、a)、その詳細な仕組みは不明でした。研究グループは、4f元素にイットリビウム(Yb)、3d遷移元素に鉄(Fe)、プニコゲンにアンチモン(Sb)を用いたスクッテルダイトを用いて、強磁性発生の謎に挑みました。

研究手法と成果

化合したスクッテルダイトを、大型放射光施設SPring-8のBL12XU台湾ビームラインによるX線共鳴非弾性散乱(X線共鳴発光分光)法で測定し、カゴの中のYbの電子状態について、温度との関係を調べました。その結果、Ybの欠陥が引き起こす強磁性の発生の原因が、Ybの電子(価数)とFeの電子の強い相互作用によることが分かりました。さらに、磁化率と価数の測定から、Ybの欠陥による強磁性の発生はYb側ではなく、Fe4Sb12側であることが分かりました。すなわちYbの欠陥によって、電子がFe4Sb12に移動したことから、Ybが欠陥したカゴの回りのFe4Sb12側で、局所的に磁性が発生しているのではないかと考えられます。

Ybは、電子を2個失った状態(Yb2+)と3個失った状態 (Yb3+)の間のエネルギー差が小さいため、4f元素の中でもこの価数の間で揺らいでいる(価数揺動)ことが多くあります。価数揺動化合物では、しばしばこの価数が物質の性質を決めることがあります。また、一般的に価数揺動化合物は、低温で価数が下がる(Yb3+→Yb2+)傾向を示します。この現象は、理論的にはよく知られたアンダーソンモデル※7で説明されます。しかし、Yb欠陥のスクッテルダイトでは、低温で価数が急上昇(Yb2+→Yb3+)するという、これまでとは逆の現象を観測しました(図1、b)。この現象はアンダーソンモデルでは説明できません。これは、同じ温度領域での磁化率の急な上昇、すなわち強磁性の発生と対応しています(図1、a)。本来Yb2+は、電子が詰まっていて孤立した電子がないために磁性を持ちませんが、Yb3+は孤立した電子が1つあるため、磁性が発生します。しかし、この欠陥のあるスクッテルダイトの場合、磁化率と価数の測定結果と同様に、磁性を発生させているのはYb3+ではなく、Fe4Sb12側であると考えられます。すなわち、Ybは磁性の発生に直接かかわらず、Ybの欠陥によってFe4Sb12側に電子が移動したことが強磁性の発生を促していることが考えられます。一方、欠陥のない場合にはこのような変化はありませんでした。今回発見した特性は、これまでの強磁性化合物では見いだされておらず、新しい磁性発生の仕組みの発見といえます。

また、ダイヤモンドアンビルセル※8(図2左)という装置を用いて10数ギガパスカル(1ギガパスカルは約1万気圧)の高圧をかけると、Ybの価数が急上昇することも初めて見いだしました(図2右)。圧力をかけると、価数揺動しているYb化合物中のYbは、多くの場合Yb3+にシフトしていくことが知られています。急にYb3+にシフトが起きるということは、低温で急にYb3+が増えて磁性が発生した現象と似ています。研究グループは、この高圧での特性も、磁性の発生と関係しているのでのではないかと考えています。スクッテルタイドが、高圧条件下でも磁性を発生する可能性があることを示しました。

今後の期待

今回、4f元素の欠陥があるスクッテルダイトは、4f元素の電子と3d遷移元素の電子が相互作用して強磁性を生み出すという仕組みを発見しました。物質が磁性を帯びる仕組みを解明することは、基礎物理学的な観点だけでなく、将来の熱電変換材料としての産業応用の観点からも非常に重要です。

原論文情報

  • H. Yamaoka, I. Jarrige, N. Tsujii, J-F. Lin, T. Ikeno, Y. Isikawa, K. Nishimura, R. Higashinaka, H. Sato, N. Hiraoka, H. Ishii, and K-D. Tsuei. “Strong coupling between 4f valence instability and 3d ferromagnetism in YbxFe4Sb12 studied by resonant x-ray emission spectroscopy.” Physical Review Letters, Vol. 107, Page. 177203 (2011)
    doi: 10.1103/PhysRevLett.107.177203

発表者

理化学研究所
放射光科学研究センター 石川X線干渉光学研究室
専任研究員 山岡 人志(やまおか ひとし)
Tel: 0791-58-2806 / Fax: 0791-58-2923

お問い合わせ先

播磨研究所 研究推進部 企画課
Tel: 0791-58-0900 / Fax: 0791-58-0800

ビームラインに関して
台湾放射光研究センターSPring-8台湾ビームラインオフィス
研究員 平岡 望(ひらおか のぞむ)
Tel: 0791-58-1867 / Fax: 0791-58-1868

報道担当

理化学研究所 広報室 報道担当
Tel: 048-467-9272 / Fax: 048-462-4715
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産業利用に関するお問い合わせ

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補足説明

  1. スクッテルダイト
    ノルウェーのオスロ北西部にある地名(Skutterud)で、この構造を持つ化合物CoAs3が発見されたことに由来する名前。化学式は、RxT4X12 (R: 金属、T: 遷移金属、X: プニコゲン)で表される。スクッテルダイトは、フラッスクス法や高圧法で合成され、充填率を上げるためには、高圧法が良く用いられる。元素の組み合わせにより、超伝導、半導体性、価数揺動など、さまざまな特性を示すことが知られている。
  2. 強磁性
    磁性の発生は、物質中の電子のスピンがそろうことにより生じる。特に、3d遷移元素である鉄、ニッケル、コバルトなどは、磁性が出やすい金属として良く知られている。電子のスピンがすべて平行にそろった場合を強磁性、反平行にそろった場合を半強磁性という。
  3. 大型放射光施設SPring-8、台湾ビームライン
    兵庫県の播磨科学公園都市にある軟X線から硬X線までの放射光を生み出す理化学研究所の施設で、その管理運営は高輝度光科学研究センターが行っている。SPring-8の名前はSuper Photon ring-8GeVに由来。放射光とは、電子を光とほぼ等しい速度まで加速し、電磁石によって進行方向を曲げた時に発生する、細く強力な電磁波のこと。SPring-8では、X線領域の放射光を用いて、物質科学から生命科学、ナノテクノロジー、バイオテクノロジーや産業利用まで幅広い研究が行われている。台湾は、独自の放射光施設TLS (Taiwan Light Source)を持つが、出てくる光のエネルギー領域がSPring-8よりも低いため、台湾のNSRRC (National Synchrotron Radiation Research Center) が、SPring-8に硬X線用のビームラインを建設・運営し、利用している。このビームラインは、台湾以外の日本を含む世界中の研究者にも公開されている。
  4. X線共鳴発光分光
    調べる物質のK吸収端、あるいは、L吸収端付近に、放射光の入射エネルギーを合わせ、出てくる光をさらに結晶分光測定して、物質の電子状態を調べる方法。吸収端での共鳴効果により、信号強度が強くなる。入射エネルギーと測定するエネルギーが違い、共鳴非弾性散乱ともいう。
  5. 価数
    化合物では構成原子の間で電子のやりとりがよく行われる。レアアース(希土類)化合物のなかで、Ce, Sm, Eu, Ybなどのレアアースが含まれている場合、これらのレアアースは、電子を化合物の相手の原子に供給して、2価(電子2個の供給)と3価(電子3 個の供給)の間を揺動する仕組みがあり、それが、物質の特性を決めることがよく知られている。この現象は価数揺動と呼ばれ、数十年にわたり研究が続けられている。
  6. プニコゲン
    周期律表のなかで、15族(旧5B族)窒素族元素をプニコゲンと呼び、代表的にPnで表すことが多い。Pnは、N、P、As、Bi、Sbなどがあり、鉄系超伝導体もこれを含む化合物が多い。
  7. アンダーソンモデル
    フィリップ ウォーレン アンダーソン(P. W. Anderson :1977年「磁性の起源」に関してノーベル物理学賞受賞) が提唱したモデル。金属(ホスト金属)に不純物として鉄を入れると、Feはd軌道に空きがあるため、局在スピンを持つはずが、ホスト金属の種類により局在スピンを持つ場合と持たない場合がある。その実験結果を説明するための理論モデル。不純物は、3d遷移元素だけでなく、レアアース(希土類)化合物にも広く適用されている。格子状に並んだものに拡張したものが、アンダーソン格子モデル。「アンダーソンモデル」は、元来の金属の磁性の起源ばかりでなく、「近藤効果、重い電子系」、さらにナノ構造などの非常に広い分野で普遍的な概念を提供している。CeやYbなどの価数揺動系化合物に適用した場合、特性温度以下で価数が下がることが示され、その現象を説明する理論として広く使われている。
  8. ダイヤモンドアンビルセル
    宝石用ダイヤモンドを用いた手のひらにのるサイズの小型の高圧装置。ダイヤモンドは圧力を発生させる尖頭状の部品(アンビル)として用いられ、先端(キュレット)は、数100ミクロン程度の直径で平らな円状になっている。ガスケットと呼ばれる金属の板に小さな穴をあけ、その穴に試料と圧力媒体を入れて2つのダイヤモンドアンビルで挟み込むことで高圧を発生する。ダイヤモンドの先端のキュレットサイズを小さくすれば、100万気圧を超える圧力発生が可能であるが、その分、サイズの小さい試料が必要となるため、さまざまな測定が困難となってくる。

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スクッテルダイトの結晶構造と価数の温度依存性

図1 スクッテルダイトの結晶構造と価数の温度依存性

(左)スクッテルダイトは、RXT4X12の分子式を持つ化合物の総称。本研究では、R=Yb、T =Fe、X=Sbで、Ybはカゴの中にある。Ybの充填率はxで表している。図の中心に正20面体を形成するXとそれを覆う立方体を形成するTが、カゴを作りその中心にRを閉じ込める構造をしている。

(右)スクッテルダイトの磁化率と価数の温度変化。x=0.88 (88%の充填率) の場合だけ、低温で磁化率(a)と価数(b)がともに急激に上昇することが分かる。

ダイヤモンドアンビルセルとYbの価数の圧力依存性

図2 ダイヤモンドアンビルセルとYbの価数の圧力依存性

左図:ダイヤモンドアンビルセルの原理。

右図:圧力をかけていくと、Ybの価数が急上昇する箇所がある。

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