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2011年12月1日

独立行政法人 理化学研究所

血小板の数や大きさに個人差がある理由を解明

―心筋梗塞や脳梗塞など、血液検査項目によるリスクの正確な予測に貢献―

ポイント

  • 血球成分の1つである血小板の数や大きさに影響を及ぼす68個の遺伝子を同定
  • それらの遺伝子が機能的な相互作用ネットワークを形成することを発見
  • ゼブラフィッシュやショウジョウバエでは15個の遺伝子が血球成分の形成に関与

要旨

独立行政法人理化学研究所(野依良治理事長)は、血球※1成分の個人差に関連する遺伝的背景の解明を目的とした国際共同プロジェクト「ヘムジェン コンソーシアム(HameGen consortium)」に参加し、血小板の数や大きさに関わる68個の遺伝子を発見しました。このコンソーシアムには、世界中に存在する36のゲノム研究施設※2が参加し、日本人集団を対象とした研究は、理研ゲノム医科学研究センター(鎌谷直之センター長)統計解析研究チームの高橋篤チームリーダー、岡田随象客員研究員が担当して発見した成果です。

血小板は、血液中の細胞成分の1つで、血管が損傷した時にその傷口をふさぎ、出血を止める役割を担っています(血小板凝集)。血小板の数や大きさは、血小板凝集機能を反映して増減するだけでなく、心筋梗塞や脳梗塞など各種疾患のリスク予測因子としても有用なため、臨床検査項目として医療現場で広く測定されています。しかし、その値には個人差があることが分かっており、原因解明が望まれていました。

研究グループは、ヒトゲノム全体に分布する約250万個の一塩基多型(SNP)※3について、欧米人集団66,867人から得た血小板の数や大きさとの関連を調べるという、大規模なゲノムワイド関連解析※4を行いました。この解析結果を、日本人集団14,697人を含むアジア人集団から得られた解析結果と照合したところ、血小板の数や大きさに関わるSNPを持つ68個の遺伝子を同定し、そのうちの15個が欧米人集団とアジア人集団とで共有されていることを発見しました。これは、血球成分の個人差を解明する研究としては、解析対象人数や同定した遺伝子数で過去最大規模のものです。また、68個の遺伝子が作り出すタンパク質は、互いに影響を及ぼしあう相互作用ネットワークを形成していることや、実際にゼブラフィッシュやショウジョウバエでは、血球成分の形成に関与している15個の遺伝子を確認しました。

今後、血小板機能の個人差の解明など、個々人に合わせたオーダーメイド医療※5への応用が期待できます。

本研究成果は、英国の科学雑誌『Nature』オンライン版(11月30日:日本時間12月1日)に公開されます。

背景

血小板は、赤血球、白血球とともに血液中の細胞成分の1つで、血管が損傷した時に集合して、その傷口をふさぐ役割を担っています(血小板凝集)。同時に、血液を凝固させる成分を放出し、出血を止める役割も担っています(凝固)。

血小板の数や大きさといった測定値は、これら血小板凝集機能や凝固能を反映して増減するため、一般的な血液検査の項目として医療現場で広く測定されています。また近年になると、心筋梗塞や脳梗塞といった重篤な病態のリスク予測因子としても有用であることも明らかになってきました。しかし、その測定値には健常人でも個人差があることが指摘されており、正確な診断のためにもその原因解明が望まれていました。

研究手法と結果

2008年に、血球成分の個人差に関連する遺伝的背景の解明を目的とした国際共同プロジェクト「ヘムジェン コンソーシアム(HameGen consortium)」が発足しました。このコンソーシアムには、36からなる世界中のゲノム研究施設が参加し、日本人集団を対象とした研究は、理研ゲノム医科学研究センターが担当しました。研究グループは、ヒトゲノム全体に分布する約250万個の一塩基多型(SNP)について、欧米人集団66,867人から得た血小板の測定値との関連を調べるため、大規模なゲノムワイド関連解析を行いました。さらに、統計学的に有意な関連を認めた遺伝子多型※3に関しては、日本人集団14,697人を含むアジア人集団22,922人から得た解析結果との照合を行いました。その結果、血小板の数や大きさに関連したSNPを持つ68個の遺伝子を同定し、そのうち15個が欧米人集団とアジア人集団とで共有されていることを発見しました(図1)。血球成分の個人差に関する研究はこれまでにも行われてきましたが、解析対象人数だけでなく、同定した遺伝子数でも、本研究は過去最大規模のものとなりました。

次に、同定した68個の遺伝子が作りだすタンパク質の相互作用ネットワーク(protein-protein network)を、既存の生物学的知識との照合を網羅的に実施するパスウェイ解析を用いて検討した結果、これらのタンパク質が互いに影響しあい、全体としてネットワークを形成していることを発見しました(図2)。さらに、効率的な遺伝子機能のスクリーニングが可能なゼブラフィッシュやショウジョウバエを用いて、個々の遺伝子機能を消失させる実験を行ったところ、血小板が産生されなくなるなど実際に血球成分の形成に影響を与える15個の遺伝子を確認しました。

今後の期待

近年のゲノムワイド関連解析の発達により、疾患に関する数多くの原因遺伝子が同定されています。しかしその一方で、遺伝子間の機能的な相互作用や、遺伝子の機能が生体に与える影響については、解析が追いついていない状況です。今回同定した遺伝子を対象に研究が進むと、血小板の制御機構の解明が期待されます。また、血小板機能の個人差や、心筋梗塞や脳梗塞といった病気の発生リスクの正確な予測と解明など、個々人に合わせたオーダーメイド医療への応用が期待できます。

原論文情報

  • Gieger et al,“New gene functions in megakaryopoiesis and platelet formation”, NATURE10659, 2011, doi:10.1038

発表者

理化学研究所
ゲノム医科学研究センター 統計解析研究チーム
チームリーダー 高橋 篤(たかはし あつし)
客員研究員 岡田 随象(おかだ ゆきのり)
Tel: 03-5449-5708 / Fax: 03-5449-5564

お問い合わせ先

横浜研究推進部 企画課
Tel: 045-503-9117 / Fax: 045-503-9113

報道担当

理化学研究所 広報室 報道担当
Tel: 048-467-9272 / Fax: 048-462-4715

補足説明

  • 1.血球
    血液中の細胞成分の総称。赤血球、白血球、血小板の3つの成分により構成される。
  • 2.36のゲノム研究施設
    英国のウエルカムトラスト財団(Wellcome Trust)、サンガーセンター(Sanger Institute)、ケンブリッジ(Cambridge)大学、ドイツのドイツ医学センター(German Research Center for Environmental Health)、米国のミネソタ(Minnesota)大学、イタリアのモンセッラート(Monserrato)大学、オーストラリアのクイーンズランド医学センター(Queensland Institute of Medical Research)、日本の理研ゲノム医科学研究センターを含む国際共同研究グループ。
  • 3.一塩基多型(SNP)、遺伝子多型
    ヒトゲノムの個人間の違いのうち、集団での頻度が1%以上のものを遺伝子多型と呼ぶ。代表的なものとして一塩基(チミン:T、グアニン:G、シトシン:C、アデニン:A)の違いによる一塩基多型(SNP; Single nucleotide polymorphism)がある。
  • 4.ゲノムワイド関連解析
    遺伝子多型を用いて対象形質に関連した遺伝子を見つける方法の1つ。ヒトゲノムを網羅した数十万~数百万のSNPを対象に、対象サンプル群における多型頻度と形質値との関連を統計学的に評価する手法。検定の結果得られたP値(偶然にそのような事が生じる確率)が小さい多型ほど、関連が強いと判断することができる。
  • 5.オーダーメイド医療
    個人の遺伝情報に基づいて行われる医療。疾患のタイプや、治療薬の効果、副作用の有無などを事前に見積もり、個々人に合わせた適切な医療を行うことを目標とする。
血小板の測定値を対象としたゲノムワイド関連解析結果の図

図1 血小板の測定値を対象としたゲノムワイド関連解析結果

各SNPと血小板の測定値との関連を調べるゲノムワイド関連解析の結果(一部を抜粋)。横軸にヒトゲノム染色体上の位置、縦軸に各SNPのP値(偶然にそのような事が生じる確率)を示した。グラフの上にあるほど関連が高いことを示す。関連を認めた遺伝子を図中に示した。血小板測定値との関連が既に分かっている遺伝子を赤字と緑字で、その他の血球成分との関連が既に分かっている遺伝子を青字で、今回新規に発見した遺伝子を黒字で示した。

血小板の数や大きさと関連した遺伝子間の相互作用ネットワークの図

図2 血小板の数や大きさと関連した遺伝子間の相互作用ネットワーク

同定した68個の遺伝子が作り出すタンパク質が、お互いに影響を及ぼしあって相互作用ネットワークを形成することを発見した。ネットワーク上で主要な働きを示す遺伝子を図中に示した。

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