広報活動

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2011年12月2日

独立行政法人 理化学研究所

放射性同位体11Cで尿酸を標識することに成功

-ラット生体内の尿酸の動態を画像で定量的に評価-

ポイント

  • 尿酸のPETプローブの合成法を確立し、尿酸濃度の可視化に成功
  • 高尿酸血症誘発モデルラットの関節の尿酸濃度は正常ラットの2.6倍
  • 痛風など尿酸が関連する病気の診断薬としての活用に期待

要旨

独立行政法人理化学研究所(野依良治理事長)は、炭素の放射性同位体(炭素11:11C)で尿酸※1を標識し、生体内の尿酸の分布や濃度の変化を可視化することに、ラットを用いて世界で初めて成功しました。これは、理研分子イメージング科学研究センター(渡辺恭良センター長)分子プローブ動態応用研究チームの八塩桂司研究員と日本ベーリンガーインゲルハイム薬物動態安全性研究部、金沢大学医薬保健研究域薬学系との共同研究の成果です。

尿酸は、体内で不要になった核酸(プリン体)や食物に含まれるプリン体が生体内で分解してできたものです。主に腎臓で尿中に排泄されますが、一部は血中にも存在します。血中の尿酸濃度が高くなる高尿酸血症※2になると、痛風や高血圧、腎臓病、心臓病、脳卒中などの生活習慣病のリスクが高くなることが知られています。特に痛風は、足やひざの関節で高濃度の尿酸が結晶化して発症します。しかし、尿酸の局所的な濃度を視認できるように画像化した例はこれまでありませんでした。

研究グループは、痛風などのバイオマーカー※3として尿酸の利用を検討し、放射性同位体の炭素11(11C)で尿酸を標識した新しいPETプローブ※4[11C]尿酸を合成しました。この[11C]尿酸を正常ラット、高尿酸血症誘発モデルラット※5それぞれに静脈注射し、体内での動きをPETで解析した結果、投与した[11C]尿酸が生体内を巡った後に腎臓で尿中に排泄される一連の流れを画像化することに成功しました。また、高尿酸血症誘発モデルラットの手足の関節部には、正常ラットと比較して2.6倍の濃度の尿酸が集積することが分かりました。この結果は、生体内の尿酸の分布を定量的に可視化できることを示しています。

今後、この手法を臨床のPET検査に応用し、[11C]尿酸をイメージング診断薬※6として活用することで、痛風など尿酸が関係する疾病の早期診断の実現が期待できます。

本研究成果は、オランダの科学雑誌『Bioorganic & Medicinal Chemistry Letters』に掲載されます。

背景

生活習慣病は自覚症状のないまま進行するものが多く、合併症を引き起こした後に初めて診断されるケースも少なくありません。そのため、早期の診断・治療が求められていますが、生活習慣病には多くの疾病が含まれ症状の全てを診断するのは非常に困難です。そこで、多くの疾病に共通する生体内分子の変化を捉えることが、生活習慣病の検査の課題となります。現在、生体内分子の検査は血中、尿中濃度の測定で行われていますが、より迅速で正確な診断を可能にするためには、体内での分布の情報も併せて検査することが必要です。

尿酸は、痛風や高血圧、腎臓病、心臓病、脳卒中など多くの生活習慣病に関わる生体内分子と考えられています。体内で不要になった核酸(プリン体)や食物に含まれるプリン体が生体内で分解してできたもので、抗酸化作用を示すことから、細胞の老化防止に効果があるとされています。しかし、血中濃度が高くなると高尿酸血症となり、関節で結晶化すると痛風の引き金となります。痛風は多くの場合、痛みが起きるまで自覚できません。また痛風の正確な診断では、関節液や関節組織を採取する必要があり、患者に大きな苦痛を与えます。そこで、体内の尿酸分布や濃度を患者に負担をかけずに正確に知る手法を開発することが、痛風の早期診断に求められています。

高感度、高分解能で生体内の分子を検出する手段として、放射線が体を透過する性質を利用した「PET(陽電子放射断層画像撮影法)」があります。PETは、半減期の短い放射性同位体を使用することにより、小動物からヒトまで含めた生体での分子の動態を、体を傷つけずに高精度かつ定量的に画像化できる唯一の手法です。今回研究グループは、尿酸をPETプローブとして用い、ラット体内での尿酸分布の可視化や、疾病状態と通常時との尿酸濃度の比較を行いました。

研究手法と成果

研究グループは、尿酸に放射性同位体である炭素11(11C)を組み込んだ新しいPETプローブ[11C]尿酸を合成しました。尿酸などの有機化合物はその構造中に必ず炭素原子を持つので、その1つの炭素原子を炭素11(11C)とすることで本来の分子構造を変えること無くPETプローブ化できます。また炭素11(11C)は半減期が20分と極めて短く、臨床応用での被曝量を最低限に抑えることが可能です。本研究では、反応性に優れた標識化剤である[11C]ホスゲン※7を用いて尿酸のウレア部位の炭素を標識する[11C]尿酸の合成法を確立しました(図1)

合成した[11C]尿酸を正常ラットに静脈注射し、PET解析を行った結果、生体内での尿酸の分布に従って腎臓から尿中に排泄される経過を可視化することに成功しました。また、高尿酸血症誘発モデルラットにも[11C]尿酸を静脈注射しPET解析を行った結果、[11C]尿酸の関節部分への集積は、正常ラットに比べて2.6倍多いことが分かりました(図2)。これらの結果から、[11C]尿酸は生体内の尿酸の分布状況を画像化するPETプローブとして有用であり、尿酸が蓄積して発症する痛風などのイメージング診断薬として活用する可能性を見いだしました。

今後の期待

今回得られた結果をヒトでのPET診断に応用すると、尿酸と関連性の高い多くの生活習慣病について発症前に診断することが可能となります。[11C]尿酸は体内に存在する尿酸と化学構造上全く同じ物質であり、また11Cを用いたPET検査は、すでにいくつかのPETプローブで臨床研究が試みられています。今後は、ラットやマカクサルなどでPET撮像条件の最適化を行い、臨床研究施設との連携によりヒトでの体内動態の解析を目指します。

原論文情報

  • Keiji Yashio, Yumiko Katayama, Tadayuki Takashima, Naoki Ishiguro, Hisashi Doi, Masaaki Suzuki, Yasuhiro Wada, Ikumi Tamai and Yasuyoshi Watanabe
    “Synthesis of [11C]uric acid, using [11C]phosgene, as a possible biomarker in PET imaging for diagnosis of gout.”,Bioorganic & Medicinal Chemistry Letters,2011,doi: 10.1016/j.bmcl.2011.11.055

発表者

理化学研究所
分子イメージング科学研究センター
分子プローブ動態応用研究チーム
チームリーダー 渡辺 恭良(わたなべ やすよし)
Tel: 078-304-7101 / Fax: 078-304-7112

研究員 八塩 桂司(やしお けいじ)
Tel: 078-304-7124 / Fax: 078-304-7126

お問い合わせ先

分子イメージング科学研究センター
広報・サイエンスコミュニケーター
山岸 敦(やまぎし あつし)
Tel: 078-304-7111 / Fax: 078-304-7112

報道担当

理化学研究所 広報室 報道担当
Tel: 048-467-9272 / Fax: 048-462-4715
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産業利用に関するお問い合わせ

理化学研究所 社会知創成事業 連携推進部
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補足説明

  1. 尿酸
    ヒトなど霊長類では核酸(プリン体)が酸化・分解された最終到達物質が尿酸で、痛風などの原因物質として知られている。またビタミンCよりも強力な抗酸化作用を持ち、ヒトの血中に最も高濃度で存在する抗酸化物質。
  2. 高尿酸血症
    ヒトでは血中の尿酸濃度が7 mg/dLを超えた場合には高尿酸血症と診断される。尿酸の産生が過剰になるか排泄が低下する、あるいはそれらが併発した場合に発症する。また合併症として、痛風、腎機能障害、動脈硬化症、尿路結石などを併発する率が高い。
  3. バイオマーカー
    病気の状態や変化、または治療の効果を客観的・定量的に判定するための指標。コレステロール値や血圧などの数値情報のほか、PET画像をイメージング・バイオマーカーとして用いることもある。
  4. PETプローブ
    陽電子放出断層画像法(Positron Emission Tomography;PET)は、ごく微量の放射線を出す放射性同位体を薬などの分子に組み込み、そこから出る放射線を測定することでその分子の体内分布を見る方法。PETで用いる陽電子を放出する11Cや18Fなどを組み込んだ薬剤をPETプローブという。生体内に投与して生じる消滅ガンマ線を計測することで、PETプローブの分布や動きを外から捉えることができる。
  5. 高尿酸血症誘発モデルラット
    尿酸代謝酵素であるウリカーゼの阻害剤オキソネートを投与したラットは、尿素を代謝できず高尿酸血症と類似した症状となる。なおヒトを含む霊長類は、進化の過程でウリカーゼ遺伝子を欠損しているため、血中の尿酸濃度が他のほ乳類に比べて高い。
  6. イメージング診断薬
    イメージング診断(分子イメージング)とは、生体内での生命現象を生物が生きたままの状態で画像化して解析する技術で、患者に負担をかけずに早期診断ができるとして注目されており、PETもその1つ。イメージング診断薬はそのために用いられる(PET用)分子プローブ。
  7. ホスゲン
    二塩化カルボニルとも呼ばれ、農薬やポリウレタンなどの原料として使用されている化学物質。本研究ではホスゲンの炭素原子を11Cで標識した[11C]ホスゲンを製造し、[11C]尿酸の合成に利用している。

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[11C]尿酸の合成法

図1 [11C]尿酸の合成法

5,6-ジアミノウラシルを原料とし、N,N'-ジメチルプロピレンウレア溶液(DMPU)中、10当量のジイソプロピルエチルアミン(DIPEA)存在下で[11C]ホスゲンを吹込み、100℃で2分間加熱をすることで[11C]尿酸を合成。

[11C]尿酸を投与後、65-70分後のラットのPET画像

図2 [11C]尿酸を投与後、65-70分後のラットのPET画像

PETプローブ[11C]尿酸を正常ラットと高尿酸血症誘発モデルラットそれぞれに投与し、尿酸の集積を比較した。PET画像の色の濃淡は物質の濃度を示し、赤いほど濃度が高い。正常ラットと比べ、高尿酸血症モデルラットでは四肢関節部に尿酸の集積が多くなることが分かった。

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