広報活動

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2012年2月24日

独立行政法人 理化学研究所

原始的な生命の染色体立体構造を初めて解明

-パイプ型タンパク質が保護する遺伝情報-

ポイント

  • SPring-8を用いて原始生物の染色体に共通する基本的な立体構造様式を解明
  • 古細菌は真核生物や真正細菌と違いDNAを直鎖状に収納
  • DNAを収納する仕組みを利用して、バイオデバイスなどの開発に期待

要旨

独立行政法人理化学研究所(野依良治理事長)は、好気性超好熱古細菌エアロパイラム・ペルニクス(Aeropyrum pernix)K1※1を用いて、染色体の主要な構成タンパク質であるAlba2とDNAの複合体の立体構造を初めて解析しました。DNA-Alba2複合体は中空のパイプ構造をとること、パイプの中に2本鎖DNAを収納していることが分かり、古細菌のクロマチン※2構造を原子レベルで解明することに成功しました。これは理研放射光科学総合研究センター(石川哲也センター長)タンパク質結晶構造解析研究グループの田中智之リサーチアソシエイト、シバラマン パダバターン(Sivaraman Padavattan)特別研究員と、城生体金属科学研究室のチルマンナンセリ クマラベル(Thirumananseri Kumarevel)先任研究員らによる成果です。

全ての生物は真核生物、真正細菌、古細菌の3つに大別されます。中でも、古細菌の多くの種は、高温や高塩濃度といった原始の地球に近い極限環境下で生息するため、40億年前の生物の様子を知る手がかりとなります。

これまで、真核生物のDNAは、ヒストンと呼ばれるタンパク質に巻きついて結合し、染色体にコンパクトに収納されることが分かっていました。しかし古細菌の場合は、染色体を構成するAlba2タンパク質の存在は知られていましたが、DNAがこのAlba2とどのように結合し、収納されているかは不明でした。

研究グループは、大型放射光施設SPring-8を利用したX線結晶解析法により、Alba2-DNA複合体の構造を原子レベルで解明しました。その結果、真核生物のクロマチン構造とは違って、Alba2が中空のパイプ構造を形成すること、DNAはパイプの中に直鎖状に収納されていることが分かりました。またAlba2は、ヘアピン構造の部分を内側へ折りたたんでパイプ構造を安定化していることを発見しました。このようなクロマチン構造は、全く新しいDNA収納機構を意味します。

今回の知見は、真核生物が獲得したクロマチン構造の進化過程を解明する手がかりになるとともに、クロマチン構造の異常が引き起こすがんや遺伝子疾患などの原因解明につながると期待されます。また、パイプ構造にDNAを収納する仕組みを利用して、新しいバイオデバイスなどの開発が期待されます。

本研究成果は、米国の生物化学雑誌「Journal of Biological Chemistry」(2月10日号)に掲載されました。

背景

生物を系統で分類すると、ヒトをはじめとする真核生物、大腸菌などのバクテリアと呼ばれる真正細菌(単に細菌ともいう)、原始の地球に近い極限環境で生息する古細菌の3つに大別されます。中でも古細菌は特殊な存在で、遺伝情報の発現機構は真核生物に似ていますが、代謝経路はバクテリアに近く、生命の進化系統樹において第3のドメインと呼ばれています(図1)

どの種も、遺伝情報であるDNAをコンパクトに収納するために、染色体を構成するタンパク質と結合させて、クロマチンと呼ばれる構造を形成します。クロマチンは階層的で高次な構造を作り上げて染色体を形成し、遺伝情報の修復・複製・分離といった機構と密接に関わっています。真核生物や真正細菌の染色体は、ヒストンというタンパク質にDNAが巻き付いて結合し(ヌクレオソーム※3)、この基本単位がつながったクロマチン構造からなることが分かっています。一方、古細菌の場合は、真核生物のヒストンに対応したAlba2タンパク質が染色体の構成要素として知られています。

Alba2遺伝子は、高熱菌や超高熱菌など全ての古細菌のゲノム中に存在し、いくつかの古細菌でAlba2タンパク質単体の構造は解明されましたが、DNAと結合したAlba2-DNA複合体の構造とその機能については分かっていませんでした。

研究手法と成果

研究グループは、Alba2-DNA複合体の構造を解明するために、古細菌エアロパイラム・ペルニクス K1株から取得したAlba2遺伝子を大腸菌体内に組み込み、Alba2タンパク質を生産できるようにしました。大腸菌が生み出すAlba2と古細菌のDNAの複合体を調製し、このAlba2-DNA複合体をシッティングドロップ蒸気拡散法※4で結晶化しました。SPring-8の理研ビームラインBL26B1でX線結晶構造解析を行ったところ、Alba2-DNA複合体の立体構造を2.0Åの高分解能で決定することができました。

立体構造を解析した結果、真核生物でのヒストン-DNA複合体の構造とは異なり、Alba2は中空のパイプ構造を形成し、このパイプの中にDNAを直鎖状に収納して遺伝情報を保護していることが分かりました(図2)。また、Alba2は二量体を形成しており、二量体同士は、Alba2を構成する14番目のアミノ酸であるリシン(Lys14)と、78番目のスレオニン(T78)、79番目のプロリン(P79)の間で水素結合し、パイプ構造を形成することが分かりました(図3)。さらに、Alba2タンパク質単体とAlba2-DNA複合体の構造を重ね合わせたところ、複合体ではヘアピン構造を内側へ折りたたむことで、5つのアルギニン(R10 , R13 , R42 , R46, R86)をDNAへ結合させていること、その際、折れ曲がったヘアピン構造の先端部分にあるT78とP79が、別の二量体にあるLys14と水素結合し、パイプ構造を安定化していることが分かりました(図4)

今後の期待

好気性超好熱古細菌を用いたクロマチン構造の解明は、真核生物のヒストンが進化の過程でどこから派生したかを知る手掛かりとなるだけでなく、クロマチン構造と機能の解明に大きく寄与することになります。また、遺伝情報を収納するクロマチン構造は、機能的にバクテリア、古細菌からヒトまで共通であると考えられることから、DNA損傷を原因とする疾病の解明や治療につながることが期待されます。また最近、DNAの二本鎖の間にまたがっている塩基を伝わって電流が流れることが確認されています。DNAの二本鎖がつくる二重螺旋の幅は、約2ナノメートルです。パイプ構造内にDNAを収納するというユニークなDNA収納機構を利用したナノサイズの電線ができると、現在の半導体に代わるバイオデバイス開発の可能性が広がります。

原論文情報

  • 著者名.“Crystal structure of archaeal chromatin protein Alba2-dsDNA complex from Aeropyrum pernix K1”. Jornal of Biological Chemistry,2012, doi: 10.1074/JBC.M112.343210

発表者

理化学研究所
放射光科学総合研究センター
タンパク質結晶構造解析研究グループ
リサーチアソシエイト 田中 智之(たなかともゆき)
Tel: 0791-58-0802 / Fax: 0791-58-2917

お問い合わせ先

播磨研究推進部 企画課
Tel: 0791-58-0900 / Fax: 0791-58-0800

報道担当

理化学研究所 広報室 報道担当
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産業利用に関するお問い合わせ

理化学研究所 社会知創成事業 連携推進部
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補足説明

  1. Aeropyrum pernix (エアロパイラム・ペルニクス) K1
    超好熱性古細菌に属する生物の一種。京都大学などによって鹿児島県小宝島の近海で採取され、ゲノム配列も明らかにされている。至適生育温度90~95℃で、超好熱性古細菌としては例外的に好気性であるため、抗酸化機構の研究に適した生物であり、地球最古の抗酸化システムに類似した機構を備えていると考えられる。
  2. クロマチン
    染色体を構成する、タンパク質とDNAの複合体。クロマチンの構造とダイナミクスは、遺伝子の発現、複製、分離、修復など、DNAが関わるあらゆる機能の制御に積極的な役割を果たしている。
  3. ヌクレオソーム
    細胞核内では、約150塩基対(bp)のDNAが、ヒストン8量体のまわりを1.65回巻き付いて、ヌクレオソームという基本単位をとっている。電子顕微鏡でヌクレオソームを観察すると、細長い紐状のDNAがヒストンに巻きついた複数のヌクレオソーム構造の存在が確認できる。
  4. シッティングドロップ蒸気拡散法
    タンパク質溶液と結晶化溶液をプレート上にウェル(くぼみ)のある密閉容器に入れて静置すると、結晶化溶液の拡散によって蒸気平衡化が生じる。条件が良ければ3次元のタンパク質結晶の核が形成される。蒸気拡散法にはシッティングドロップとハンギングドロップ法があり、タンパク質溶液のしずく(ドロップ)を「下に置く(シッティング)」か、「上からぶら下げる(ハンギング)」か、の違いがあり、結晶の生成メカニズムに影響を与えると考えられている。

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古細菌の進化系統樹

図1 古細菌の進化系統樹

生物は最上位の分類で3つのドメインに分けられる。進化的には真正細菌は遠縁、古細菌と真核生物は近縁とされる。真正細菌と古細菌は細胞核を持たない原核細胞で構成され、まとめて原核生物と呼ばれる。今回対象とした生物は古細菌(赤)。

Alba2-DNA複合体構造の重合化

図2 Alba2-DNA複合体構造の重合化

上:Alba2-DNA複合体のAlba2二量体を色分けで示している。右図は同じ構造を90度回転したもの。水色と黄緑は一量体で、その他の色は二量体を示している。内部には炭素(黄)、酸素(赤)、窒素(青)からなるDNAが収納されている。

下:DNAとAlba2単体、Alba-DNA複合体を示す。Alba2の重合体で形成されるパイプ内にDNAが直鎖状に収納される。

ニ量体間のアミノ酸と水素結合

図3 ニ量体間のアミノ酸と水素結合

Alba2タンパク質は、リシン14の側鎖がもう一方のスレオニン78とプロリン79に水素結合して重合体を形成する。緑と紫はそれぞれAlba2の二量体の一部を示す。

Alba2タンパク質単体とAlba2-DNA複合体の重ね合わせ

図4 Alba2タンパク質単体とAlba2-DNA複合体の重ね合わせ

Alba2-DNA複合体では、ヘアピン構造が内側へ折り畳まれていた。Alba2単体ではヘアピン構造間が67Åであるのに対し、Alba2-DNA複合体では49Åだった。この折り畳みが5つのアルギニンをDNAへ近づけ、結合させていた。

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