広報活動

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2012年4月3日

独立行政法人 理化学研究所

植物の生命活動に必須なポリアミンの輸送体を発見

-謎だったポリアミン輸送体は「RMV1タンパク質」と判明-

ポイント

  • 理研BRCが保有するシロイヌナズナ野生系統と交雑種を用いて7カ月で遺伝子を同定
  • 細胞膜に局在するRMV1タンパク質の増加で、ポリアミンの取り込みが増加
  • ポリアミン濃度の調節が、ストレス耐性の付与や作物の増産につながると期待

要旨

理化学研究所(野依良治理事長)は、モデル植物のシロイヌナズナを用いて、生命活動に必須な生理活性物質ポリアミン※1の輸送体がRMV1タンパク質であることを発見しました。これは理研植物科学研究センター(篠崎一雄センター長)機能開発研究グループの篠崎一雄グループディレクター、藤田美紀研究員と、国際農林水産業研究センターの藤田泰成主任研究員ら、東京大学大学院農学生命科学研究科の篠崎和子教授ら、理研バイオリソースセンター(BRC)実験植物開発室の井内聖専任研究員、小林佑理子訪問研究員(現岐阜大学)らによる研究成果です。

ポリアミンは、ウイルスからヒトに至るまで、あらゆる生物に含まれる生理活性物質です。哺乳動物では、膵臓(すいぞう)・乳腺細胞やがん細胞など、分泌や増殖活性の高い細胞に多く存在しています。植物では、形態形成や花芽の分化、老化抑制、ストレス応答などの生理機能に関わることが知られています。しかし、その作用機構は不明な点が多く、特に輸送メカニズムに関する知見はほとんど得られていません。

研究グループは、外部ストレスを受けて細胞内に過剰な活性酸素を生じる酸化ストレス※2に対して、植物がどう防御するのかを明らかにするため、除草剤の成分で酸化ストレス誘導薬剤であるメチルビオロゲン※3の関連遺伝子を探索してきました。シロイヌナズナ野生系統※425系統の薬剤耐性を野生型と比較した結果、関連遺伝子RMV1を同定しました。RMV1遺伝子を破壊するとメチルビオロゲン吸収能を失ったことから、RMV1タンパク質はメチルビオロゲンの輸送体であることを突き止めました。さらに、メチルビオロゲンとポリアミンの構造が似ていることに着目し、RMV1遺伝子を過剰発現させてポリアミンの吸収を調べたところ、約3倍のポリアミンが取り込まれたことから、RMV1タンパク質がポリアミン輸送体であると分かりました。これは、理研バイオリソースセンターが保有する野生系統とその交雑種を用いたアソシエーション解析(関連解析)※5の結果で、従来法では何年もかかる原因遺伝子の特定に7カ月という短期間で成功しました。

今後ポリアミン研究が発展し、人為的に細胞内ポリアミン濃度を調節できると、ストレス耐性の付与や作物の増産などが可能になると期待できます。

本研究成果の一部は、生物系特定産業技術研究支援センター(生研センター)イノベーション創出基礎的研究推進事業の課題の1 つ「植物の水利用効率に関わるストレス感知機構解明と分子育種への応用」として行われ、米国科学アカデミー紀要『Proceedings of the National Academy of Sciences of the USA』オンライン版に4月2日の週に掲載されます。

背景

ポリアミンは、地球上のあらゆる生物に存在する分子量の低い塩基性物質であり、細胞の増殖や分化といった生命現象の基本に関わっています。植物でもポリアミンは生命活動に必須であり、形態形成や器官分化など多くの生理機能に関わることが知られています。さらに、ストレス条件下でポリアミン濃度が上昇することなどから、ポリアミンは植物のストレス応答にも重要な役割を果たすことが分かってきています。ポリアミンの活性は高く、生理機能は多岐にわたるため、細胞内のポリアミン濃度は合成と代謝、および輸送によって精密に制御されています。これまで、動植物でのポリアミンの合成や代謝機構については盛んに研究され理解が深まっていましたが、輸送体に関する分子メカニズムはほとんど明らかになっていませんでした。

研究手法と成果

研究グループは、モデル植物であるシロイヌナズナ野生系統25系統を、酸化ストレスを引き起こす薬剤であるメチルビオロゲンを含んだ培地で6日間生育させ、薬剤耐性を比較しました。表現型などの形質と遺伝的多様性を関連づけるアソシエーション解析(関連解析)を行った結果、薬剤耐性に関わるRMV1遺伝子を見いだしました。

RMV1タンパク質が細胞のどこで機能するかを調べるために、RMV1タンパク質と蛍光タンパク質GFPを融合して植物の根の細胞に導入し観察したところ、細胞の外と内を隔てる細胞膜に存在することが分かりました(図1)。このことから、RMV1タンパク質が細胞内外の物質の輸送に関わると予想しました。実際にRMV1遺伝子を破壊したシロイヌナズナの変異体を調べたところ、メチルビオロゲンに対する耐性が顕著に上昇し、野生型と比べて根が約10倍伸張しました(図2A)。さらに、この変異体を用いてメチルビオロゲンの吸収能を調べた結果、野生型に比べて取り込み量が約4分の1と低下していることが分かりました(図2B)。逆に、RMV1遺伝子の働きを過剰発現させた変異体は、高いメチルビオロゲン吸収能を示しました。つまり、RMV1タンパク質はメチルビオロゲン輸送体であると分かりました。

次に、水溶液中のメチルビオロゲンとポリアミンは、どちらも窒素原子が正電荷を帯びているという類似の構造部分がある(図3)ことと、外から加えたポリアミンがメチルビオロゲンの毒性を緩和するという知見から、RMV1タンパク質がポリアミン輸送に関わることを予想しました。実際に、RMV1遺伝子の働きを過剰発現させた変異体のポリアミン吸収能を調べたところ、RMV1タンパク質が増加し、野生型より約3倍のポリアミンを取り込んだことから(図4)、RMV1タンパク質がポリアミン輸送体でもあると分かりました。

今後の期待

シロイヌナズナを用いた実験で、ポリアミンの輸送体がRMV1タンパク質であることを発見し、これまで謎の多かったポリアミン輸送メカニズムの一端が明らかになりました。今後、ストレス応答や老化の防止など、ポリアミンが持つさまざまな作用の分子メカニズムが解明され、人為的にポリアミンの濃度を操作できるようになるとストレス耐性の付与や作物の増産につながります。

また、この研究は理研バイオリソースセンターがリソースとして保有する野生系統とその交雑種を利用した実験であり、近年整備されつつある個々の系統の遺伝子配列情報を基に、アソシエーション解析という新しい手法を用いました。その結果、従来の遺伝子マッピング技術では何年もかかっていた原因遺伝子の同定を、7カ月という短期間で行うことができました。リソースのさらなる充実化により、研究の大幅な効率化が期待できます。

原論文情報

  • Miki Fujita, Yasunari Fujita, Satoshi Iuchi, Kohji Yamada, Yuriko Kobayashi, Kaoru Urano, Masatomo Kobayashi, Kazuko Yamaguchi-Shinozaki, and Kazuo Shinozaki. “Natural variation in a polyamine wtransporter determines paraquat tolerance in Arabidopsis.” PNAS, 2012. doi/10.1073/pnas.1121406109

発表者

理化学研究所
植物科学研究センター 機能開発研究グループ
グループディレクター 篠崎 一雄(しのざき かずお)
研究員 藤田 美紀(ふじた みき)

お問い合わせ先

横浜研究推進部 企画課
Tel: 045-503-9117 / Fax: 045-503-9113

報道担当

理化学研究所 広報室 報道担当
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産業利用に関するお問い合わせ

理化学研究所 社会知創成事業 連携推進部
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補足説明

  1. ポリアミン
    アミノ基が2つ以上結合した直鎖型の脂肪族炭化水素の総称。高塩基性の低分子物質で、ウイルスからヒトに至るまであらゆる生物に存在する。核酸やタンパク質の合成に関与する成長因子としての機能をはじめ、さまざまな生理活性があることが報告されている。動植物に存在する主なポリアミンとして、スペルミン、スペルミジン、プトレスシンが知られている。
  2. 酸化ストレス
    細胞内に過剰に生じた活性酸素種によって、細胞がダメージを受ける有害な作用のこと。植物においては強光や乾燥、低温などの劣悪な環境条件や有害金属の蓄積などさまざまな要因により生じる。
  3. メチルビオロゲン
    細胞内で活性酸素種を発生させ、酸化ストレスを引き起こす薬剤。細胞にダメージを与え、成長を抑制する作用を持つ。除草剤パラコートなどの主成分。
  4. シロイヌナズナ野生系統
    モデル植物であるシロイヌナズナの中で、最もよく研究に使われている野生系統はCol-0系統だが、シロイヌナズナにはこのほかに数千にも及ぶ野生系統が世界各地で単離されており、それぞれの生育してきた環境などの影響で、多様な遺伝型や表現型を示す。リソースの整備と遺伝子配列や形質情報の充実により、さまざまな系統が研究材料として広く用いられている。
  5. アソシエーション解析(関連解析)
    自然集団の中に見いだされる表現型などの形質変異とゲノムの塩基配列上の変異との対応の程度から、形質変異に関与する遺伝的変異を予測する解析方法。

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RMV1タンパク質の局在

図1 RMV1タンパク質の局在

A:RMV1タンパク質を緑色蛍光タンパク質GFPと融合させ、シロイヌナズナの根の細胞に導入した。

B:細胞膜を赤く染色した画像。

C:AとBの画像を重ね合わせたもの。黄色は緑と赤が重なった部分。RMV1タンパク質は細胞膜に局在していることが分かる。

RMV1遺伝子破壊株のメチルビオロゲン応答

図2 RMV1遺伝子破壊株のメチルビオロゲン応答

A:RMV1遺伝子破壊株のメチルビオロゲン耐性
0.3μM(マイクロモル)のメチルビオロゲンを含む培地で6日間生育させた。
野生型(左)は根の伸長が抑制されているのに対しRMV1遺伝子破壊株(右)では伸長抑制が起こらない。

B:野生株とRMV1遺伝子破壊株のメチルビオロゲン吸収能
RMV1遺伝子破壊株ではメチルビオロゲン吸収能が顕著に低下している。

メチルビオロゲンとポリアミンの分子構造

図3 メチルビオロゲンとポリアミンの分子構造

メチルビオロゲンは、窒素原子に水素イオンが配位して正電荷を帯びるアミン様構造を有するため、複数のアミン基を持つポリアミンと構造的に類似しているといわれている(+は正電荷を示す)。

RMV1遺伝子過剰発現体のポリアミン吸収能

図4 RMV1遺伝子過剰発現体のポリアミン吸収能

野生型とRMV1過剰発現変異体にポリアミンの一種であるスペルミンを吸収させた。野生型(白)に比べ過剰発現変異体(青)は高いポリアミン吸収能を示した。

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