広報活動

Print

2012年4月30日

独立行政法人 理化学研究所

心房細動の発症に関わる遺伝子群を同定

―心房細動のリスク予測や新規薬剤開発に貢献―

ポイント

  • 患者集団12,931人とコントロール集団65,806人で大規模解析
  • 日本人と欧米人に共通して心房細動の発症に関わる4個の遺伝子を同定
  • 疾患リスク予測など個々人に合わせたオーダーメイド医療への応用に期待

要旨

理化学研究所(野依良治理事長)は、不整脈の中で最も頻度の高い心房細動発症に関わる遺伝子の発見を目的とした国際共同研究グループ「心房細動ゲノム解析研究コンソーシアム(AFGen consortium)※1」に、文部科学省委託事業「オーダーメイド医療※2実現化プロジェクト」の一環として、東京医科歯科大学と参画し、欧米人集団と日本人集団を対象としたゲノムワイド関連解析(GWAS)※3を行いました。その結果、欧米人集団では発症に関わる6個の新規遺伝子を同定するとともに、欧米人の既知の関連遺伝子3個と合わせた9個のうち、4個が日本人にも共通して関連することを突き止めました。なお、欧米人のサンプルはコンソーシアムから提供を受け、日本人のサンプルは当該プロジェクトのものを使用しました。これは、理研ゲノム医科学研究センター(久保充明センター長代行)疾患関連遺伝子研究グループ循環器疾患研究チームの田中敏博チームリーダー(副センター長兼務)、尾崎浩一上級研究員らの研究グループによる成果です。

心房細動は、心房が不規則に細かく震える(毎分450~600回)不整脈で、最も頻度の高い不整脈疾患です。これまでの疫学的研究から、遺伝的要因の関与が知られていましたが、同定されていたのは欧米人の解析による3個の遺伝子だけでした。日本人を含めた疾患発症のメカニズムや正確なリスク予測を行うためには、日本人も対象にした大規模解析を行い、発症に関わる遺伝子の有無やさらなる遺伝子の同定が求められていました。

研究グループは、まず欧米人集団から6,707人の心房細動患者と52,426人のコントロール集団(非患者)を用いて、ヒトゲノム全体に分布する約261万個の一塩基多型(SNP)※4と心房細動との関連を調べるという大規模なGWASを実施しました。この解析結果を異なる欧米人集団(患者5,381人、コントロール集団10,030人)で検証し、新たに6個の心房細動発症に関わる遺伝子を同定しました。さらに、日本人集団(患者843人、コントロール集団3,350人)を対象にしたGWASの結果と照合したところ、欧米人で関連する9個のうち4個の遺伝子(PITX2PRRX1CAV1ZFHX3)が、日本人の心房細動発症に関わることを見いだしました。

今回の成果は、心房細動発症のメカニズム解明につながるとともに、将来の疾患リスク予測、新規薬剤開発や、個々人に合わせたオーダーメイド医療への応用につながることが期待できます。

本研究成果は、科学雑誌『Nature Genetics』オンライン版(4月29日付け:日本時間4月30日)に掲載されます。

背景

心房細動は、不整脈疾患の中で最も頻度の多い疾患で、日本を含む先進国では罹患率、死亡率共に上昇しているため、その予防のためのリスク予測などが望まれています。心房細動は、心房に負荷がかかっている状態で発症しやすいと知られていますが、そのような負荷が無くても頻繁に発症し、これまでの疫学的研究から、遺伝的要因の関与が知られていました。

2007年以降、欧米人に関して3個の関連遺伝子(PITX2ZFHX3KCNN3)が報告されていました。しかし、これまでに日本人集団を含めた大規模解析は行われておらず、欧米で同定されている遺伝子が日本人の心房細動に関連するか、あるいは新規の関連遺伝子があるかどうかは不明でした。

研究手法と結果

研究グループは、まず国際共同研究グループ「心房細動ゲノム解析研究コンソーシアム(AFGen consortium)」の欧米人集団から得られた6,707人の心房細動患者と52,426人のコントロール集団のデータを用いて、ヒトゲノム全体に分布する約261万個のSNPと心房細動との関連を調べるという大規模なゲノムワイド関連解析(GWAS)を実施しました。この解析により3個の既知遺伝子(PITX2ZFHX3KCNN3)を含む10個の遺伝子領域が心房細動に関連することを見いだしました。次に、この解析結果を異なる欧米人集団(患者5,381人、コントロール集団10,030人)で検証した結果、6個の新規遺伝子(PRRX1, CAV1, C9orf3, SYNPO2L, SYNE2, HCN4)が、欧米人の心房細動発症に関連することを突き止めました。さらに、これらの結果を日本人集団(患者843人、コントロール集団3,350人)を対象にしたGWAS結果と照合したところ、日本人と欧米人に共通した4個の関連遺伝子(PITX2PRRX1CAV1ZFHX3)を同定しました(表1)

興味深いことに、これら4個の遺伝子のうちPITX2PRRX1ZFHX3が作るタンパク質構造には、生物の発生段階で機能する転写因子が持つホメオボックスドメイン※5と同様な構造が存在し、これらの分子が類似した機能を持つ可能性が示されました。またPITX2は、心臓の電気刺激に関連する遺伝子の転写をつかさどることや、この遺伝子の機能を抑えたマウスでは不整脈を発症することが報告されています。PRRX1、ZFHX3やCAV1の心臓での機能についてはあまり分かっていませんが、これらの分子は機能的に相互作用すると考えられます。

今後の期待

今後、同定した遺伝子を対象に研究することで、心房細動の原因解明が進むことが期待できます。また、これら遺伝子上のSNPを用いた疾患リスクの予測など、個々人に合わせたオーダーメイド医療への応用にも貢献できます。

原論文情報

  • Ellinor et al. “Meta-Analysis Identifies Six New Susceptibility Loci for Atrial Fibrillation”. Nature Genetics. 2012.doi:10.1038/ng.2261

発表者

理化学研究所
ゲノム医科学研究センター 循環器疾患研究チーム
チームリーダー 田中 敏博(たなか としひろ)
上級研究員 尾崎 浩一(おざき こういち)

報道担当

理化学研究所 広報室 報道担当
Tel: 048-467-9272 / Fax: 048-462-4715

このページのトップへ

補足説明

  1. 心房細動ゲノム解析研究コンソーシアム(AFGen consortium)
    アメリカ、ドイツ、オランダ、カナダ、アイスランドの12コンソーシアム(German AF Network、Age, Gene/ Environment Susceptibility Study、Atherosclerosis Risk in Communities Study、Cardiovascular Health Study、Cleveland Clinic AF Study、Framingham Heart Study、Heart and Vascular Health Study、Massachusetts General Hospital AF Study、MIGEN Rotterdam Study、The Study of Health in Pomerania、Vanderbilt university、Women’s Genome Health Study)と、日本の東京医科歯科大学および理研ゲノム医科学研究センターを含む国際共同研究グループ。
  2. オーダーメイド医療
    個人の遺伝情報に基づいて行われる医療。疾患のタイプや治療薬の効果、副作用の有無などを事前に見積もり、個々人に合わせた適切な医療を行うことを目標とする。
  3. ゲノムワイド関連解析(GWAS)
    遺伝子多型を用いて対象形質に関連した遺伝子を見つける方法の1つ。ヒトゲノムを網羅した数十万~数百万の一塩基多型(SNP)を対象に、対象サンプル群における多型頻度と形質値との関連を統計学的に評価する手法。検定の結果、得られたP値(偶然にそのような事が生じる確率)が小さい多型ほど、関連が強いと判断できる。
  4. 一塩基多型(SNP)
    ヒトゲノムの個人間の違いのうち、集団での頻度が1%以上のものを遺伝子多型と呼ぶ。代表的なものとして一塩基(T:チミン、G:グアニン、C:シトシン、A:アデニン)の違いによる一塩基多型(SNP; Single nucleotide polymorphism)がある。
  5. ホメオボックスドメイン
    このタンパク質配列は、もともとショウジョウバエで発見されたものだが、動物、植物および菌類の発生の調節に関連する相同性の高い配列として知られている。このドメインを持つ分子のほとんどは、他の遺伝子発現を調節する転写因子というタンパク質であるとされている。

このページのトップへ

これまでに欧米人で関連が報告されていた遺伝子 PITX2, ZFHX3, KCNN3
欧米人で新たに発見された遺伝子 PRRX1, CAV1, C9orf3, SYNPO2L, SYNE2, HCN4
日本人、欧米人共通の遺伝子 PITX2, PRRX1, CAV1, ZFHX3

表1 心房細動発症に関連する遺伝子

このページのトップへ