広報活動

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2012年10月1日

独立行政法人理化学研究所

免疫記憶をつかさどる記憶Bリンパ球の産生経路を解明

-いまだに謎が多い免疫記憶のメカニズム解明に貢献-

ポイント

  • 記憶Bリンパ球だけを正確に同定する技術を開発
  • 低親和性と高親和性の記憶Bリンパ球は、異なる時期、経路、Tリンパ球で産生
  • 抗原を記憶できる恒常的な免疫反応に関わる重要な制御機構に新たな知見

要旨

理化学研究所(野依良治理事長)は、特定の病原体(抗原)に対して反応が強い高親和性と、反応が弱い、つまり似た抗原であれば反応しやすい低親和性の2種類の記憶Bリンパ球※1が、免疫反応後異なる時期に異なる性質を持つTリンパ球※2の助けによって産生されることを明らかにしました。特に低親和性記憶Bリンパ球は、Bリンパ球が活発に増殖する胚中心※3形成前に産生されることも分かりました。記憶Bリンパ球は刺激に対応して迅速に多量の抗体を産生する性質を持ち、この低親和性記憶Bリンパ球が巧みに変異していく抗原に柔軟に対応することが推察されます。これは、理研免疫・アレルギー科学総合研究センター(谷口克センター長)免疫記憶研究グループの竹森利忠グループディレクター、加地友弘研究員らとドイツMDC(Max-Delbrück-Center for Molecular Medicine、ベルリン)らによる共同研究グループ※4による成果です。

免疫反応は、病原体(抗原)の侵入に対して抗体を作って生体を防御しますが、同時にその抗原を記憶する記憶Bリンパ球を産生し長期間に蓄えます。そして、同じ病原体が再侵入すると迅速に免疫反応を起こして瞬時に生体を感染から防御します。私たちが普段利用しているワクチン接種は、この反応を応用しています。これまで記憶Bリンパ球の産生には、免疫反応の成熟期に作られる胚中心と呼ばれる特別な環境が必要であると考えられていました。一方、記憶Bリンパ球には、高親和性と低親和性の2種類があることが予想されていましたが、解析技術の遅れから記憶Bリンパ球がいつ、どこで、どのように作られるか、その詳細は不明でした。

共同研究グループは、さまざまな種類があるBリンパ球※1のなかから記憶Bリンパ球だけを正確に同定する技術開発に成功しました。また免疫反応で重要な役割を担う転写抑制因子Bcl6※5を B、Tリンパ球だけで欠損させるマウスを初めて作製し、それらを組み合わせて記憶Bリンパ球の産生経路を解析しました。その結果、Bリンパ球でBcl6を欠損させると、胚中心で産生される高親和性記憶Bリンパ球が欠如し、 Tリンパ球でBcl6を欠損させると、濾胞へルパーTリンパ球※2が欠如し、高親和性記憶Bリンパ球の産生が損なわれました。しかし、どちらの場合も低親和性記憶Bリンパ球の産生には影響ありませんでした。さらに、記憶Bリンパ球が抗体産生細胞に分化する際に活性化する24個の遺伝子を同定し、これらの遺伝子が発現する時期などを詳細に調べた結果、低親和性記憶Bリンパ球が胚中心形成前に産生されることを明らかにしました。これは、免疫記憶が異なった時期に異なった制御機構で確立されることを示し、免疫系の恒常性維持の制御機構に関して新たな展開をもたらすものと期待できます。

本研究成果は、米国の科学雑誌『The Journal of Experimental Medicine』に掲載されるに先立ちオンライン版(10月1日付)に掲載されます。

背景

免疫反応は、体内に侵入した病原体に反応して抗体を作り、侵入した病原体を体内から排除します。同時に侵入した病原体に対する免疫記憶を作り、同じ病原体が再度侵入すると直ちに反応して高活性な多量の抗体を作り迅速に排除します。この免疫記憶の仕組みを利用したのがワクチン接種です。病原性を弱くしたり、無くしたりした病原体や病原体の一部をあらかじめ体内に入れて免疫記憶を作り、病原体の感染に備えます。例えば、麻疹ウイルスワクチン接種では、ワクチン投与後、麻疹ウイルスに対する記憶Bリンパ球を産生し、およそ50年間も体内で維持することで、麻疹に感染することを防ぎます。

今までの研究から、記憶Bリンパ球は、①過去に抗原の刺激を受けた経験があること、②産生後、生体内で抗体を産生することなく長期に維持されること、③少ない量の抗原の再刺激で迅速に抗体産生細胞へ分化し多量の抗体を産生すること、という特徴を持つことが知られています。

また、免疫反応の成熟期で重要なイベントは、リンパ組織内の濾胞に胚中心(図1)が作られることです。この環境でB リンパ球は盛んに細胞分裂を繰り返しBリンパ球が持つ抗体遺伝子に高い確率で突然変異が起こります。その結果、ある抗原に対してだけ高い反応性を持つBリンパ球が産生され、胚中心に局在する濾胞ヘルパーT細胞と反応することで特定の免疫記憶をつかさどる記憶Bリンパ球が選択されると考えられています。

現在、ヒトやマウスの記憶Bリンパ球だけを識別できる単一の分子マーカーはありませんが、多くのマーカーを組み合わせることで記憶Bリンパ球の同定が可能です(図2)。しかし、免疫記憶形成と維持に関わる因子はいまだ同定されていません。これは生体内で記憶Bリンパ球の数が極めて少なく、解析のための十分な細胞の精製が困難なことが主な原因です。そこで共同研究グループは、免疫記憶の制御機構を明らかにするために、記憶Bリンパ球の産生経路の解明に挑みました。

研究手法と成果

共同研究グループは、蛍光標識をした特定のマーカーを組み合わせて記憶Bリンパ球を分離・精製しました。そして、この細胞集団が微量の抗原刺激で抗体産生細胞に分化することを確認し、分化するときに活性化する24個の遺伝子を同定しました。

免疫反応が始まると、Bリンパ球は抗原特異的な活性化Bリンパ球や記憶Bリンパ球などを含んだ複数の集団に分化します。その中から記憶Bリンパ球だけの産生経路を導き出すために、各Bリンパ球の細胞表面にある特徴的な受容体などを識別できる表面マーカーを用いて分類しました。さらに各集団について24個の遺伝子の発現有無や時期を調べ、記憶Bリンパ球の経時的な産生経路を明らかにしました。この時、理研免疫記憶研究グループで確立した胚中心Bリンパ球への分化に必須な転写抑制因子Bcl6をBリンパ球だけに欠損させるマウスを用いて、免疫反応後の胚中心形成の有無、記憶Bリンパ球の動向を解析しました。また同様にTリンパ球だけに転写抑制因子Bcl6を欠損させるマウスを用いて、濾胞ヘルパーT細胞と記憶Bリンパ球の動態を解析しました。

その結果、免疫反応の初期にBcl6を発現しないTリンパ球によってよく似た抗原があれば結合しやすい低親和性記憶Bリンパ球が産生されることが分かりました。また、この産生は胚中心形成前に行われることも明らかになりました。さらに免疫反応の成熟期には、胚中心および濾胞ヘルパーT細胞の助けにより高親和性記憶Bリンパ球が産生されることが明らかになりました(図3)

記憶Bリンパ球は再度の抗原刺激に対して迅速に反応し多量の抗体を産生できる特徴的な性質を持っています。これは、巧みに変異してゆく病原体に対して柔軟に対応するため、感染防御に必要最低限の機能を持つ低親和性記憶Bリンパ球が素早く産生され、続いて高親和性記憶Bリンパ球の産生によって、再度の抗原の侵入に対して間口を広げた防御機構を構築する新しい免疫システムの仕組みが示されました。

今後の期待

今回、2種類の記憶Bリンパ球の産生に関わる新しい経路を明らかにしました。その後の研究の進行から、高親和性と低親和性の両経路を介して産生された記憶Bリンパ球が、インフルエンザウイルス感染に対して防御能を発揮する可能性が明らかになり、生体での低親和性記憶Bリンパ球の重要性が確認できました。ただ、記憶Bリンパ球へ分化するための主要な遺伝子は未だ不明です。本研究では、免疫反応の初期や成熟期における記憶Bリンパ球集団で活性化する24個の遺伝子を明らかにしたので、今後これらの遺伝子の機能解析を行うと記憶Bリンパ球への運命を決定する因子の同定が期待できます。

原論文情報

  • Tomohiro Kaji, Akiko Ishige, Masaki Hikida, Junko Taka, Atsushi Hijikata, Masato Kubo, Takeshi Nagashima, Yoshimasa Takahashi, Tomohiro Kurosaki, Mariko Okada, Osamu Ohara, Klaus Rajewsky and Toshitada Takemori
    ‘Distinct cellular pathways select germ-line encoded and somatically mutated antibodies into immunological memory’
    The Journal of Experimental Medicine 2012  DOI:10.1084/jem.20120127

発表者

理化学研究所
免疫・アレルギー科学総合研究センター 免疫記憶研究グループ
グループディレクター 竹森 利忠(たけもり としただ)

お問い合わせ先

横浜研究推進部 企画課
Tel: 045-503-9117 / Fax: 045-503-9113

報道担当

理化学研究所 広報室 報道担当
Tel: 048-467-9272 / Fax: 048-462-4715

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補足説明

  1. 記憶Bリンパ球、Bリンパ球
    Bリンパ球の主要な役目は、抗原と反応して記憶細胞として抗原を記憶したり、抗体を産生して感染防御に働くことである。Bリンパ球は、抗原の刺激により活性化Bリンパ球、抗体産生細胞および記憶Bリンパ球に分化する。記憶Bリンパ球は、抗原と低親和性あるいは高親和性で反応する抗原受容体を細胞表面に発現し、分裂することなく静止状態で体内に長期に維持される。記憶Bリンパ球は、記憶していた抗原の再刺激を受けると極めて短い期間で抗体産生細胞へと分化して、多量の抗体を作ることができる。
  2. Tリンパ球、濾胞ヘルパーTリンパ球
    Tリンパ球は、抗原と反応後、Bリンパ球の発達を助けるヘルパー細胞、および病原体感染細胞を障害するキラー細胞として生体防御に関わる。濾胞ヘルパーTリンパ球は、抗原と反応したBリンパ球の中から高い親和性を持つ細胞を選択する役目を持っている。
  3. 胚中心
    胚中心は、活性化されたBリンパ球が集積して形成された脾臓やリンパ節などのリンパ組織の濾胞内にある微小組織のこと。この場でBリンパ球は活発に増殖を続け、抗体遺伝子に高率に変異が挿入される。変異が挿入された抗体遺伝子を発現するBリンパ球のうち、抗原に対して高親和性を獲得した細胞が選択され記憶細胞や抗体産生細胞へ分化する。
  4. 共同研究グループ
    • 理化学研究所免疫・アレルギー科学総合研究センター免疫記憶研究グループ(竹森 利忠、加地 友弘、石毛 晶子、高 純子)/シグナルネットワーク研究チーム(久保 允人)/免疫ゲノミクス研究グループ(土方 敦司、小原 収)/分化制御研究グループ(黒崎 知博)/細胞システムモデル化研究チーム(岡田 眞里子、長嶋 剛史)
    • 京都大学医学研究科次世代免疫制御を目指す創薬医学融合拠点(疋田 正喜)
    • 国立感染症研究所免疫部(高橋 宜聖)
    • ドイツMax-Delbruck-Center for Molecular Medicine(Klaus Rajewsky)
  5. 転写抑制因子Bcl6
    B-cell lymphoma 6の略。Bcl6は転写抑制因子として機能すると考えられ、多くの遺伝子の発現制御に関連している。特にBcl6は胚中心Bリンパ球への分化に必須で、またTリンパ球では、このタンパク質の発現が濾胞ヘルパーT細胞の分化を促すことが知られている。

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胚中心の形成

図1 胚中心の形成

免疫反応後、脾臓濾胞内にあるBリンパ球領域で形成された胚中心(点線部分)を示す。 、活性化されたBリンパ球のマーカーとして用いられるPNA(ピーナッツ由来レクチン)によって、胚中心Bリンパ球(点線内黄色)を組織上で特定することができる。また、緑色の蛍光物質で標識したIgG抗体のマーカーを用いて、胚中心のなかでBリンパ球がIgG抗体産生の機能を持つ抗体産生細胞に分化している様子が観察できる。(点線内緑色)。

記憶Bリンパ球と他のBリンパ球集団との分別(マウスの場合)

図2 記憶Bリンパ球と他のBリンパ球集団との分別(マウスの場合)

Bリンパ球には、未感作Bリンパ球、IgG記憶Bリンパ球、IgG胚中心Bリンパ球、IgG抗体産生細胞と大きく4つに大別される。Bリンパ球以外の免疫細胞(Tリンパ球、NK細胞、マクロファージ、樹状細胞など)を特異的なマーカーで除外した後、各細胞表面にある受容体(表面抗体、CD38,B220,CD138)とPNA結合性の有無によって、4種類のBリンパ球を分別することができる。

記憶Bリンパ球は異なった時期に別の経路で産生される。

図3 記憶Bリンパ球は異なった時期に別の経路で産生される。

免疫反応初期に、Bcl6を発現する以前のBリンパ球は、Bcl6を発現しないヘルパーTリンパ球(non-Tfh)の助けで、低親和性記憶Bリンパ球として発達し記憶細胞集団(memory pool)を形成する(上段)。
一方、抗原提示細胞として機能する樹状細胞(DC)が提示する抗原で、Tリンパ球が活性化され、転写抑制因子Bcl6を発現した濾胞Tヘルパーリンパ球(Tfh)へ分化する。免疫反応が成熟する頃にBcl6を発現したBリンパ球はTfhと反応し胚中心Bリンパ球(GC)へと分化し、最終的に抗原に対して高親和性記憶Bリンパ球として記憶細胞集団に取り込まれる(下段)。

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