XFELのパルス幅を1京分の1秒以下に圧縮する手法を考案
-原子内の電子運動をリアルタイムかつ高精度に計測する技術開発を目指して-
報道発表資料
ターゲットパルスを選択的に増幅するためのタイミング調整
「53アト秒」といわれてもピンとこないと思います。ものすごく短い時間です。1アト秒が10-18秒ですから1京分の0.53秒にあたります。理研の研究チームは、X線レーザーのパルス幅を圧縮する手法を理研のXFEL施設「SACLA」に適用した場合のシミュレーションを行い、パルス幅53アト秒という超短パルスのX線レーザー発振が可能なことを確認しました。
化学反応の過程で生じる原子や分子の運動を「光」でとらえるには、光の照射時間がそれ以下であることが必要になります。近年、光学機器を利用したパルス圧縮と呼ばれる技術が実用化され、可視光や赤外線ではフェムト秒(アト秒の1000倍)程度の照射時間と十分な明るさを併せ持った「超短パルスレーザー」が利用されています。超短パルスレーザーのパルス幅の理論的な限界値は「その波長に相当する距離だけ光が進むのに要する時間」と同程度とされています。この考え方に従えば、X線レーザーのパルス幅の限界値は計算上約0.3アト秒になります。しかし、実際は赤外線レーザーのパルス幅と同程度の数フェムト秒にとどまっています。なぜなら、X線領域では、パルス圧縮に応用できる光学機器が存在しないからです。
研究チームは、可視光や赤外線領域のパルス圧縮とは異なる新たな手法の開発に挑みました。レーザー発振後に光学機器を用いてパルス圧縮するのでなく、レーザーや光学、さらには加速器の既存技術を組み合わせて、レーザー発振の過程でパルス圧縮をしようと考えました。具体的には、くし状の電流分布をもつ電子ビームで、1個のレーザーパルスだけを効率的に増幅するのです。この手法をSACLAに適用したところ、パルス幅53アト秒、ピークパワー6.6テラワットという超短パルス・高輝度のシミュレーション結果を得ました。理論限界の0.3アト秒の実現に向けた第一歩となります。