広報活動

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2013年3月8日

独立行政法人理化学研究所
国立大学法人岡山大学

亜鉛トランスポーターZIP9が免疫細胞のシグナル伝達に関与

-免疫細胞B細胞が正常に抗体産生するためには亜鉛が必須-

ポイント

  • ZIP9を介して細胞質に放出される亜鉛がB細胞抗原受容体シグナル伝達を制御
  • 細胞内シグナル伝達因子として働く亜鉛の詳細な機能解明へ前進
  • 亜鉛と免疫機能の関わりの解明や亜鉛が関わる疾患理解にも貢献

要旨

理化学研究所(野依良治理事長)と岡山大学(森田潔学長)は、細胞内の亜鉛濃度を制御している亜鉛トランスポーター[1]「ZIP9」が、細胞小器官の1つであるゴルジ体[2]内から亜鉛を細胞質へ放出することを発見しました。さらに、この放出された亜鉛が免疫細胞の1つであるB細胞のシグナル伝達[3]制御に関与しており、抗体を産生するために重要であることが分かりました。これは、理研分子イメージング科学研究センター(渡辺恭良センター長)複数分子イメージング研究チームの榎本秀一チームリーダー(岡山大学大学院医歯薬学総合研究科教授兼任)、廣村信副チームリーダーおよび岡山大学大学院医歯薬学総合研究科の谷口将済連携大学院生(同チーム、大学院生リサーチ・アソシエイト)と、京都大学大学院生命科学研究科の神戸大朋准教授らとの共同研究グループによる成果です。

亜鉛は生命活動には欠かせないミネラルの1つであり、体内で不足するとさまざまな病気を引き起こします。そのため、細胞内の亜鉛濃度は生体内の亜鉛輸送を担う亜鉛トランスポーターという膜タンパク質によって制御されています。また、亜鉛は細胞内で情報を運ぶ因子(細胞内シグナル伝達因子)として働くことが知られていますが、亜鉛トランスポーターによって制御される亜鉛が、どのように細胞内シグナル伝達に作用するかについては十分に解明されていません。中でも、免疫機能をつかさどるB細胞が正常に機能するためには、亜鉛が重要であることが示唆されていましたが、実験的な証拠はありませんでした。

共同研究グループは、ゴルジ体の膜に局在する亜鉛トランスポーターZIP9に着目し、ニワトリのB細胞に由来する培養細胞「DT40細胞[4]」を用いて亜鉛とシグナル伝達の関係性を調べました。その結果、ZIP9が、細胞外からの刺激に応じて、ゴルジ体から細胞質へ亜鉛を放出し、B細胞抗原受容体(BCR)のシグナル伝達を活性化する重要な膜タンパク質であることを発見しました。

今回の成果は、亜鉛と免疫機能の関連の解明や細胞内シグナル伝達因子として働く亜鉛の詳細な機能、さらには亜鉛トランスポーターの機能不全に起因したさまざまな疾患に対する治療法の開発にも貢献することが期待できます。本研究成果は、米国のオンライン科学雑誌『PLOS ONE』(3月7日付け:日本時間3月8日)に掲載されます。

背景

生命活動の維持には、タンパク質や炭水化物などのほかに微量の金属元素が必要であり、亜鉛はその1つです。亜鉛の欠乏は、成長遅延、味覚障害、創傷治癒遅延および免疫不全などの疾患の発症に関わります。亜鉛は細胞の中で酵素や転写因子などのタンパク質と結合し、酵素を活性化したり立体構造を維持したりする働きがあります。また近年、がん細胞や免疫細胞が外からの刺激に応答して増殖・分化する時に細胞内で情報を運ぶ因子(細胞内シグナル伝達因子)として亜鉛が機能していることが報告され、亜鉛が持つ新たな機能として注目されています。

細胞内の亜鉛濃度は、細胞内や細胞内小器官への取り込みと放出を担う亜鉛トランスポーターとよばれる膜タンパク質により制御されています。免疫細胞の1つであるT細胞は、感染や炎症に対して細胞が応答する際に細胞内シグナル伝達が働いて亜鉛トランスポーターを活性化させ、細胞内の亜鉛濃度を上昇させることが分かっています。

一方、T細胞と同じく免疫細胞の仲間に、抗体産生を担うB細胞があります。感染症などによりB細胞が異物(抗原)に出会うと、B細胞の表面に存在するB細胞抗原受容体(BCR)が抗原と結合し、細胞内のさまざまな分子を介してシグナル伝達(BCRシグナル伝達)が働き抗体を作り始めます。このBCRシグナル伝達に関わる分子群は、T細胞の細胞内シグナル伝達のときと非常に類似しているので、BCRシグナル伝達でも亜鉛の重要性が推察されていました。しかし、今まで実験的な証明は成されておらず、不明な部分が数多く残されたままです。

そこで共同研究グループは、BCRシグナル伝達と亜鉛の関連性を明らかにすることを目的として研究に着手しました。

研究手法と成果

共同研究グループは、ゴルジ体の膜に局在する亜鉛トランスポーターZIP9に着目しました。ZIP9はゴルジ体から細胞質への亜鉛輸送に関わると推測されていましたが実験的な証拠は無く、また細胞質に輸送された亜鉛の働きも不明なままでした。そこで、ZIP9による細胞内の亜鉛濃度調節機能がシグナル伝達の制御に関与する可能性を調べるため、ニワトリのB細胞に由来する培養細胞「DT40細胞」に亜鉛キレーターを投与することで亜鉛をマスキングし、細胞内の亜鉛の作用を抑制しました。すると、BCRシグナル伝達が抑制され、BCRシグナル伝達には亜鉛が必須であることが分かりました。(図1)

次に、ZIP9遺伝子を欠損した細胞株(ZIP9欠損株)を作成し、BCRシグナル伝達分子に対する影響を調べました。通常、B細胞に外部からの刺激として抗原を投与すると、BCRが活性化し、細胞内シグナル伝達タンパク質であるAktやErkのリン酸化を介してシグナル伝達が進行することが分かっています。正常なB細胞(野生株)へ抗原の代わりに亜鉛を投与すると同様のリン酸化が起きましたが、ZIP9欠損株にでは、野生株に比べてリン酸化が減弱しました(図2)。この理由を調べたところ、ZIP9欠損株ではタンパク質のリン酸化を阻害する脱リン酸化酵素プロテインチロシンホスファターゼ(PTPase)[5]の活性が野生株に比べて著しく増大していたことが分かりました(図3)。これは、正常なB細胞ではZIP9が放出する亜鉛によってPTPaseの働きを抑えることでシグナル伝達分子AktやErkのリン酸化を促進していることを示唆します。

さらに、ヒトのZIP9も同様な機能を持つかを調べるため、ZIP9欠損株にヒトZIP9遺伝子を導入する実験を行いました。その結果、ニワトリZIP9の欠損により減弱していたAktおよびErkのリン酸化が増加し、増大していたPTPase活性が減少して、野生株とほぼ同等に回復しました(図2図3)。このことから、ヒトZIP9もB細胞のシグナル伝達においてAktおよびErkのリン酸化に重要な役割を果たしている可能性が示されました。

ZIP9が投与された亜鉛をどのように制御しているかを調べるため、細胞内の亜鉛濃度を検出するためにNewport Green[6]FluoZin-3[6]とよばれる亜鉛蛍光プローブを用いて観察しました。Newport Greenは細胞質の亜鉛と反応し、FluoZin-3は細胞質とゴルジ体両方の亜鉛と反応します。まず野生株に亜鉛を投与すると、Newport Greenの発光量が増加しましたが(図4a、b)、ZIP9欠損株に亜鉛を投与すると増加しませんでした(図4c、d)。また、亜鉛投与後のZIP9欠損株ではFluoZin-3の発光量を検出したため(図4j)、亜鉛はゴルジ体に蓄積していることが分かりました。これらから、ZIP9が働かないとゴルジ体に亜鉛が蓄積し、細胞質の亜鉛濃度が上昇しないことが分かりました。さらに、ZIP9欠損株にヒトZIP9遺伝子を導入したところ、細胞質の亜鉛濃度は上昇し、野生株とほぼ同等に回復しました(図4f、l)

以上から、ZIP9はゴルジ体から細胞質への亜鉛放出に必須のタンパク質であり、細胞外刺激に応答してZIP9により放出された亜鉛は、PTPaseの活性を抑制することでBCRシグナル伝達タンパク質AktやErkのリン酸化を促進することが明らかとなりました(図5)

今後の期待

亜鉛がT細胞だけではなくB細胞が正常に機能するためのシグナル伝達に関わる重要な因子であることが明らかとなり、亜鉛と免疫機能の関わりの理解がさらに広がりました。これにより、細胞内シグナル伝達因子として働く亜鉛の詳細な機能の解明や亜鉛トランスポーターの機能不全に起因したさまざまな疾患に対する治療法の開発に貢献することが期待できます。

原論文情報

  • Masanari Taniguchi, Ayako Fukunaka, Mitsue Hagihara, Keiko Watanabe, Shinichiro Kamino, Taiho Kambe, Shuichi Enomoto, Makoto Hiromura. "Essential role of the zinc transporter ZIP9/SLC39A9 in regulating the activations of Akt and Erk in B-cell receptor signaling pathway in DT40 cells". PLOS ONE, 2013

発表者

理化学研究所
分子イメージング科学研究センター 複数分子イメージング研究チーム
チームリーダー 榎本 秀一(えのもと しゅういち)
副チームリーダー 廣村 信(ひろむら まこと)
大学院生リサーチ・アソシエイト 谷口 将済(たにぐち まさなり)

お問い合わせ先

分子イメージング科学研究センター
広報・サイエンスコミュニケーター
山岸 敦(やまぎし あつし)
Tel: 078-304-7138 / Fax: 078-304-7112

報道担当

独立行政法人理化学研究所 広報室 報道担当
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産業利用に関するお問い合わせ

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補足説明

  1. 亜鉛トランスポーター
    生体内の亜鉛恒常性を維持するために亜鉛輸送を行う膜タンパク質。構造的特徴と亜鉛輸送の方向性から、細胞質から細胞外もしくは細胞内小器官に亜鉛を輸送することで細胞質の亜鉛濃度を減少させるZnTと、細胞外もしくは細胞内小器官から細胞質へ亜鉛を輸送することで細胞質の亜鉛濃度を上昇させるZIPの2種類に分類される。
  2. ゴルジ体
    細胞小器官のひとつ。中空の平たい円板状の小胞が5~6枚、ときには十数枚積み重なった形をしており、周辺には小球状の小胞などがある。分泌タンパク質や細胞外タンパク質の糖鎖修飾や、それらのタンパク質や様々な分子を貯蔵する働きを持つ。
  3. シグナル伝達
    周囲の環境変化に応じて細胞の運命や行動を決定するために、体内環境において細胞間や細胞内へ情報を伝達することをシグナル伝達と呼ぶ。細胞膜に存在する受容体タンパク質が細胞外に分泌されたタンパク質などと結合して構造変化を起こし、それを刺激として順次細胞内に情報を伝達して、最終的に遺伝子発現やチャネルの開口などの反応をもたらす。細胞内に情報を伝えるシグナル伝達物質としてタンパク質や低分子化合物、イオンなどが用いられる。
  4. DT40細胞
    ニワトリのB細胞由来の培養細胞。相同遺伝子の組換え効率が高いため、目的の遺伝子を機能不全した細胞を容易に作製することができる。
  5. プロテインチロシンホスファターゼ(PTPase)
    チロシンキナーゼによってリン酸化されたチロシン残基を脱リン酸化する酵素。活性中心にシステイン残基を有するため、亜鉛と結合することでその酵素活性が抑制されることが知られている。
  6. Newport Green、FluoZin-3
    亜鉛と結合して蛍光強度が大幅に増加することで亜鉛だけを検出できる試薬。Newport Greenは細胞質の亜鉛と結合し、FluoZin-3は、細胞質とゴルジ体の亜鉛と結合する。亜鉛との結合の強さの異なる2種の試薬を用いることで、細胞質およびゴルジ体における亜鉛の分布を観察できる。

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細胞内の亜鉛とBCRシグナルの関連性

図1 細胞内の亜鉛とBCRシグナルの関連性

抗IgM抗体(αIgM)でBCRを刺激するとシグナル伝達分子であるAktおよびErkのリン酸化が増強される(2)。しかし、亜鉛キレーター(TPEN)を用いて細胞内の亜鉛をマスキングすることにより、αIgMによるAktおよびErkのリン酸化の増強はみられなくなる(3)。 また、この状態の細胞に亜鉛を添加するとこれらの分子のリン酸化が回復するが(4, 5)、カルシウムの添加では回復しない(6)。

シグナル伝達分子であるAktおよびErk とZIP9の関連性

図2 シグナル伝達分子であるAktおよびErk とZIP9の関連性

ZIP9の欠損により、シグナル伝達分子であるAktおよびErkのリン酸化の減弱がみられる(4-6)。また、ZIP9欠損株にヒトZIP9遺伝子を導入すると、これらの分子のリン酸化は回復した(7-9)。

同じ実験条件におけるPTPase酵素活性

図3 同じ実験条件におけるPTPase酵素活性

ZIP9の欠損によりPTPase活性の上昇が起きている(4-6)。また、ZIP9欠損株にヒトZIP9遺伝子を導入すると、PTPase活性は抑制され、野生株とほぼ同様な回復がみられた(7-9)。

蛍光亜鉛プローブを用いた細胞内亜鉛濃度の評価

図4 蛍光亜鉛プローブを用いた細胞内亜鉛濃度の評価

Newport Greenを用いた評価により、ZIP9欠損株に亜鉛を投与しても細胞内の亜鉛濃度が上昇しないことが分かった(図中d)。また、FluoZin-3を用いた評価により、ZIP9欠損株に亜鉛を投与した時にはゴルジ体に亜鉛が集積している様子が観察された(図中j)。また、ZIP9欠損株にヒトZIP9遺伝子を導入した場合に亜鉛を投与すると、細胞質の亜鉛濃度が若干回復した(図中fおよびl)。

本研究により明らかになったBCRシグナル伝達におけるリン酸化とZIP9を介した亜鉛放出の図

図5 本研究により明らかになったBCRシグナル伝達におけるリン酸化とZIP9を介した亜鉛放出

ZIP9の働きによりゴルジ体から細胞質に放出された亜鉛がPTPase活性を抑えることで、BCRシグナル伝達が活性化され、下流のシグナル伝達分子であるAktおよびErkのリン酸化が促進される。

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