広報活動

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2013年5月10日

理化学研究所

骨・関節、皮膚を広範に犯す難病の原因遺伝子を発見

-新たな疾患概念「GAG結合領域病」を提起し、その病態解明に向けた第一歩-

ポイント

  • 骨格異常を起こす難病の原因遺伝子「B3GALT6」を次世代シーケンサーで発見
  • B3GALT6の変異は骨、軟骨、靱帯、皮膚などさまざまな組織の異常を引き起こす
  • 診断困難だった重度の骨格異常を起こす難病に対し、遺伝子診断が可能に

要旨

理化学研究所(理研、野依良治理事長)は、骨や関節、軟骨、靱帯、皮膚など広い範囲の組織で異常を引き起こす一連の遺伝性難治疾患の原因が、グリコサミノグリカン(GAG)という糖鎖の合成に重要な「B3GALT6遺伝子」であることを発見しました。これは、理研 統合生命医科学研究センター(小安重夫センター長代行)骨関節疾患研究チームの池川志郎チームリーダー、中島正宏特別研究員、北海道大学大学院先端生命科学研究院の菅原一幸教授、水本秀二博士研究員、横浜市立大学環境分子医科学の三宅紀子准教授、松本直通教授らを中心とする共同研究グループと日本全国の臨床医の協力[1]による成果です。

細胞と細胞の間を埋める基質の主要な構成成分であるプロテオグリカン(PG)は、骨や軟骨、皮膚、血管など私たちの体のあらゆる部分に存在し、組織の形成と維持、調節に重要な役割を担っています。PGはタンパク質(コアタンパク質)と数本~百本程度のグリコサミノグリカン(GAG)という糖鎖が結合領域を介してつながっています。この結合領域の合成に必要な酵素がB3GALT6タンパク質です。

共同研究グループは、脊柱の変形や関節の脱臼など、重度の骨格異常を起こす原因不明の遺伝性難治疾患「関節弛緩を伴う脊椎骨端骨幹端異形成症I型(SEMD-JL1)」の患者6家系の遺伝子を次世代シーケンサー[2]で解析し、B3GALT6遺伝子の変異を発見、その酵素機能が喪失していることを見いだしました。

共同研究グループはさらに、SEMD-JL1と似た骨格異常に加えて、皮膚の萎縮や過伸展、筋緊張低下がみられるため、従来は全く別の疾患として考えられていた先天性結合組織疾患の1つ「エーラス・ダンロス症候群早老性型」の患者にも、同様のB3GALT6遺伝子変異を発見しました。

今回、B3GALT6遺伝子の機能障害でGAG結合領域が正常に合成できないと、骨、軟骨、靱帯、皮膚など多様な組織で異常を引き起こすことが分かりました。これは、単なる難病の原因の1つを発見しただけでなく、「GAG結合領域病」という新たな疾患概念を提起するとともに、PGの代謝や機能におけるGAG結合領域の機構とその重要性を理解する上で大きな成果となります。

本研究は、厚生労働省難病関係研究分野のプロジェクト『遺伝性難治疾患の網羅的エクソーム解析拠点の構築(松本直通班長)』の一環として行われたもので、米国人類遺伝学会の機関誌『American Journal of Human Genetics』オンライン版(5月9日付け:日本時間5月10日)に掲載されます。

背景

骨・関節には数多くの遺伝性難治疾患が存在します。その中の1つ「関節弛緩を伴う脊椎骨端骨幹端異形成症I型」(SEMD-JL1: spondyloepimetaphyseal dysplasia with joint laxity, type 1)は、脊柱が後方や側方へねじれ曲がる後側彎(こうそくわん)などの脊椎の変形や、肘や膝の関節の変形や脱臼など、重度の骨格異常をきたす難病です(図1A~C)。SEMD-JL1は常染色体劣性の遺伝形式[3]をとる単一遺伝子病[4]であることは知られていましたが、いまだ原因遺伝子は発見されていません。現在、臨床症状やX線画像に基づいて診断されているため、別の骨・関節疾患と誤診されたり、診断がつけられなかったりすることもあり、アジアでは1例も見つかっていませんでした。この疾患の重度の骨格異常は大きな手術を必要とすることが多く、治療が非常に困難なため、早期の正確な診断と治療が重要です。

近年の次世代シーケンサー技術の進歩により、難治疾患患者の遺伝子解析を網羅的かつ極めて迅速に行うことが可能となりました。そこで共同研究グループは、次世代シーケンサーを用いた大規模ゲノム解析の手法を用いて、この疾患の原因遺伝子の解明に挑みました。

研究手法と成果

共同研究グループは、SEMD-JL1と診断できる症例として、6家系(日本人5家系と日本人とシンガポール人の1家系)7例の検体を収集し、次世代シーケンサーでエクソーム解析[5]を行いました。その結果、全ての症例にB3GALT6遺伝子の変異を発見しました(表1 の家系ID1~6)。それらの変異は全てB3GALT6タンパク質の機能を喪失させる変異と推測され、7例中6例はB3GALT6遺伝子の複合ヘテロ接合性変異[6]でした。さらに、ベトナム人の1家系(表1の家系ID7)でもB3GALT6遺伝子の複合ヘテロ接合性変異を見つけました。その変異のうちの1つ(694C>T)は、日本人患者3家系(表1 の家系ID1、4、5)で見つかったものと同じだったことから、この変異は東アジアに広く分布していることが示唆されました。

共同研究グループは次に、先天性結合組織疾患の1つであるエーラス・ダンロス(Ehlers-Danlos)症候群早老性型についてもB3GALT6遺伝子を調べました。この疾患の主な症状は、特徴的な顔貌、靭帯の弛緩性、皮膚過伸展、筋緊張の低下です(図1D~G)。脊椎や関節の異常も引き起こしますが、従来は、SEMD-JL1とは全く別の疾患として考えられていました。今回B3GALT6遺伝子の変異を見つけたSEMD-JL1の7家系(表1 の家系ID1~7)8例の臨床像とX線像を詳細に検討したところ、エーラス・ダンロス症候群早老性型の病像とSEMD-JL1とに多くの重複があることが分かりました。そこで、エーラス・ダンロス症候群早老性型の患者3家系4例を対象にB3GALT6遺伝子を解析した結果、全ての検体からSEMD-JL1と同様にB3GALT6遺伝子の複合ヘテロ接合性変異を発見しました。SEMD-JL1と同様に、その変異はB3GALT6タンパク質の機能を喪失すると推測できました(表1の家系ID8~10)。

B3GALT6タンパク質は、グリコサミノグリカン(GAG)の結合領域の糖転移酵素の1つであり、プロテオグリカン(PG)の合成に重要な役割を果たす酵素として知られています。患者由来の細胞を用いて詳しく調べたところ、今回発見した変異は、2つのタイプの異常によりB3GALT6タンパク質の機能を喪失させる可能性を示しました。1つは細胞内でのB3GALT6タンパク質の分布に異常を引き起こすタイプです。GAG結合領域の合成は細胞のゴルジ体[7]で行われるため、B3GALT6タンパク質も本来ゴルジ体に存在します。しかし、変異型の場合はゴルジ体以外の部位にB3GALT6タンパク質が分布するため、酵素機能は正常に発揮できないと考えられました(図2A)。もう1つは、糖転移酵素としての機能自体が喪失するタイプです(図2B)。患者由来の細胞を用いたGAGの生化学的解析により、GAGの1種で、生体内のさまざまな分子と相互作用するヘパラン硫酸が、健常人に比べて26~56%減少していることを突き止めました。

このように、B3GALT6タンパク質の機能障害でGAG結合領域が正常に合成されないと、皮膚過伸展、筋緊張の低下、靱帯や関節の可動性亢進、および脊椎の変形など広範な骨格、結合組織の異常を引き起こすことが分かりました。近年、GAG結合領域の合成に関わる他の酵素(B4GALT7やB3GAT3など)の機能障害でも、SEMD-JL1やエーラス・ダンロス症候群早老性型に似た一連の病像を示すことが相次いで報告されています。つまり、B3GALT6をはじめとするGAG結合領域の合成酵素は、多様なヒトの組織の形成や維持において重要な役割を担っていることが明らかになりました。これらの疾患群は、「GAG結合領域病」として統一した理解が可能だと考えられます。

今後の期待

B3GALT6遺伝子の発見は、従来診断が困難だった一連の骨格・結合組織の異常を引き起こす難病の遺伝子診断、確定診断、保因者診断を可能にします。今回の結果は、診断されていない多数のSEMD-JL1患者が東アジアに存在することを示唆しています。今後の遺伝子診断の普及により、SEMD-JL1やエーラス・ダンロス症候群早老性型など「GAG結合領域病」患者を早期発見、治療することができます。さらに、B3GALT6遺伝子の解析は、SEMD-JL1疾患での側彎や関節脱臼の発症のメカニズム解明だけでなく、一般の側彎や関節脱臼のメカニズム解明や治療にも大きな知見をもたらすと期待できます。今後は、B3GALT6タンパク質の機能解析を通じてGAG結合領域病の病態を解明し、酵素の補充療法など画期的な治療法の開発を目指します。

原論文情報

  • Masahiro Nakajima, Shuji Mizumoto, Noriko Miyake, Ryo Kogawa, Aritoshi Iida, Hironori Ito, Hiroshi Kitoh, Aya Hirayama, Hiroshi Mitsubuchi, Osamu Miyazaki, Rika Kosaki, Reiko Horikawa, Angeline Lai, Roberto Mendoza-Londono, Lucie Dupuis, David Chitayat, Andrew Howard, Gabriela Ferraz-Leal, Denise Cavalcanti, Yoshinori Tsurusaki, Hirotomo Saitsu, Shigehiko Watanabe, Ekkehart Lausch, Sheila Unger, Luisa Bonafé, Hirofumi Ohashi, Andrea Superti-Furga, Naomichi Matsumoto, Kazuyuki Sugahara, Gen Nishimura, and Shiro Ikegawa. "Mutations in B3GALT6 which encodes a glycosaminoglycan linker region enzyme cause a spectrum of skeletal and connective tissue disorders" American Journal of Human Genetics, 2013

発表者

理化学研究所
統合生命医科学研究センター 骨関節疾患研究チーム
チームリーダー 池川 志郎 (いけがわ しろう)

お問い合わせ先

統合生命医科学研究推進室 後藤 浩予(ごとう ひろよ)
Tel: 045-503-9121 / Fax: 045-503-9113

報道担当

理化学研究所 広報室 報道担当
Tel: 048-467-9272 / Fax: 048-462-4715
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産業利用に関するお問い合わせ

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補足説明

  1. 臨床医の協力
    骨関節の単一遺伝病である骨系統疾患の医療の改善・発展を目指して立ち上げられた非営利組織「骨系統疾患コンソーシアム」(池川志郎、西村玄代表)に所属する西村玄医師(東京都立小児総合医療センター)、伊藤弘紀医師(愛知県心身障害者コロニー中央病院)、鬼頭浩史医師(名古屋大学)、平山文医師(秋田県医療療育センター)、三渕浩医師(熊本大学)、宮嵜治医師、小崎里華医師、堀川玲子医師(成育医療センター)、大橋博文医師、渡邉成彦医師(埼玉県立小児医療センター)の協力と、埼玉県立小児医療センター・遺伝科の大橋博文部長の運営する細胞・DNAバンクの協力を指す。
    骨系統疾患コンソーシアム
  2. 次世代シーケンサー
    標準的に使われているSanger(サンガー)法に基づくDNAシーケンサーに対して、それと異なる原理に基づく、より高速・大量にDNA配列を解析できるシーケンサーのこと。多くの種類のシーケンサーが開発されている。
  3. 常染色体劣性の遺伝形式
    メンデル式の遺伝形式の1つ。常染色体に存在する、ある1つの遺伝子の異常によって起きる疾患の遺伝の形式。父母、それぞれから由来する1対(2コピー)の遺伝子のうち、両方のコピーに異常があったときに疾患が発症する。
  4. 単一遺伝子病
    1つの遺伝子の異常によって起きる病気のこと。メンデル式の遺伝形式をとる。これに対し、2種類以上の異常遺伝子と環境因子が関与して起きる病気を多因子遺伝病という。通常、遺伝病というと単一遺伝子病をさす。
  5. エクソーム解析
    ゲノムの中のタンパク質に関する情報を含むエクソン部分(ゲノム全体の約3%)を、次世代シーケンサーを用いて包括的に解析する方法。
  6. 複合ヘテロ接合性変異
    個体は卵と精子を通して1セットずつのゲノムの計2セット持つため、遺伝子には父母由来の2つの対立遺伝子が存在する。特定の対立遺伝子の組み合わせが異なる場合をヘテロ接合(異型接合)という。疾患の原因となる変異を有する遺伝子において、保因者(変異を持っているのに発症していない人。本人は遺伝病ではないが、子供が遺伝病を発症する可能性を持つことになる)である父親と母親の双方から異なる変異を伝達された(継承した)状態を特に複合ヘテロ接合(compound heterozygote)という。
  7. ゴルジ体
    細胞内の小器官で、扁平な袋状の膜構造が重なっており、細胞外へ分泌されるタンパク質の糖鎖修飾、切断、貯蔵などの機能を持つ。

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関節弛緩を伴う脊椎骨端骨幹端異形成症I型(SEMD-JL1)とエーラス・ダンロス症候群早老性型(EDS-PF)患者で発見したB3GALT6遺伝子の変異

表1 関節弛緩を伴う脊椎骨端骨幹端異形成症I型(SEMD-JL1)とエーラス・ダンロス症候群早老性型(EDS-PF)患者で発見したB3GALT6遺伝子の変異

家系3を除く全ての家系でB3GALT6遺伝子に複合ヘテロ接合性変異を発見した。特に、694C>Tの変異はベトナム人の1家系と日本人3家系で見つかったことから、この変異が東アジアに広く分布していることが示唆された。

DNAの塩基の変化の読み方は、例えば694C>Tの場合、B3GALT6遺伝子の694番目の塩基のシトシン(C)がチミン(T)に変わる変異、と読む。
アミノ酸の変化の読み方は、例えばArg232Cysの場合、B3GALT6タンパク質の 232番目のアミノ酸Arg(アルギニン)が Cys(システイン)に変わる変異、と読む。

関節弛緩を伴う脊椎骨端骨幹端異形成症I型(SEMD-JL1)と Ehlers-Danlos症候群早老性型(EDS-PF)の臨床像

図1 関節弛緩を伴う脊椎骨端骨幹端異形成症I型(SEMD-JL1)とEhlers-Danlos症候群早老性型(EDS-PF)の臨床像

A~C:SEMD-JL1(34歳、男性)

A:外観。短体幹型(胴体が短くなるタイプ)の低身長(118 cm)、突き出した胸骨、肘の変形がみられる。顔貌、筋緊張の異常はない。

B:脊椎側面のX線像。脊椎の発達障害による重度の後側彎。

C:股関節正面のX線像。腸骨の短縮、大腿骨小転子の突出、大腿骨頭の短縮が見られる。

D~G:EDS-PF(5歳、女児)。

D:外観。特徴的な顔貌(平らな顔、突き出した目、垂れ下がった頬を伴う顔面中心部の低形成)、しわの多い皮膚、筋緊張の低下、肘の変形、内反尖足(足の底が内側を向き(内反)、足首が伸びる(尖足))が見られる。

E:脊椎側面のX線像。胸椎および腰椎の後彎、扁平で前方の先端が尖った椎体などの特徴が見られる。

F、G:肘関節と股関節正面のX線像。肘および左股関節の脱臼、長管骨の骨端および骨幹端の形成異常が見られる。

SEMD-JL1で発見したB3GALT6遺伝子変異によって起こる異常

図2 SEMD-JL1で発見したB3GALT6遺伝子変異によって起こる異常

A:蛍光免疫染色法で調べた変異体(Met1?)の細胞内局在
正常型の場合、B3GALT6タンパク質は核の周囲に分布し、ゴルジ体の指標タンパク質であるα−マンノシダーゼと重なるのでB3GALT6タンパク質がゴルジ体に存在するのが分かる。一方変異型の場合、B3GALT6タンパク質はゴルジタイ以外の部位に拡散して分布しα−マンノシダーゼと重ならないので、ゴルジ体に存在していない。

B:変異型タンパク質の糖転移活性
変異型タンパク質では正常型にくらべて糖転移活性が非常に低い。

以上の結果から、SEMD-JL1患者ではB3GALT6タンパク質の局在の異常、または酵素活性の低下により、機能に障害があると考えられた。
対照とはB3GALT6遺伝子が導入されていない場合。
*有意水準 P<0.0001(vs.正常型)

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