広報活動

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2013年5月24日

独立行政法人理化学研究所
国立大学法人東京藝術大学

悲しい音楽はロマンチックな感情ももたらす

-なぜ私たちは悲しい音楽を聴くのかが明らかに-

イメージ図

悲しい音楽は快も感じさせる

仕事や勉強から解き放たれてほっと一息つきながら音楽を聴くとき、あなたはどんな曲を選びますか。クラシック、ロック、ジャズ、ボサノバ、あるいは歌謡曲ですか。でも、時には短調の静かでモノ悲しい曲もいいものです。そんな曲を選ぶときは多分、落ち着きたいとか、ひとりでもの想いに浸りたいとかといった気分のときでしょうか。しかし、決してその曲を聴いて悲しくなろうなんて思わないですよね。そうなのです。聴いた音楽が悲しい音楽だと判断することと、音楽を聴いて実際に悲しくなるかは別のことなのです。理研の研究グループらは、この現象を科学的に実証しました。

まず、既存の曲から一部抜き出し、通常悲しい音楽とされる短調曲で構成された30秒程度の曲にアレンジしました。これを18歳~46歳までの男女44人に聴いてもらい、悲しい、愛おしい、浮かれた、圧倒されたなど62の用語を用いて、「この曲が一般的にどのような音楽か」を判断してもらうとともに、「実際にどのような感情が自分に生じたか」を回答してもらいました。62の用語に対する回答から相関の強い用語に共通する要因を調べたところ、悲しみ、高揚、ロマンチック、浮き立ちの4つの因子が見いだされました。さらに、悲しい音楽を聴いて、それが悲しいと判断するほど実際は悲しみを感じておらず、ロマンチックと判断する以上にロマンチックな感情を抱いていることが分かりました。このことは、悲しい音楽は一般的に過剰に悲しいと判断するものの、自分自身はほどよい悲しみとともに心地よさも感じることを示しています。

悲しい音楽はロマンチックな感情ももたらす-という現象から、音楽では快と不快という相反する感情を引き起こす作用があることを明らかにしました。これまで悲しみは、不快な感情と考えられてきたので、この結果は感情の仕組みを考える新たな観点となります。音楽が相反する感情をもたらす理由として、音楽が表現する感情を代理的に体験する「代理感情」が存在するからではないかと提案しています。音楽を聴く状況では自分自身に直接的な害が及ばない安全な状況だからこそ、安心して悲しい音楽から悲しみを代理的に体験し、それを楽しむことができると考えられます。

理化学研究所
脳科学総合研究センター 情動情報連携研究チーム
客員研究員 川上 愛 (かわかみ あい)