広報活動

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2013年6月11日

理化学研究所

炎症や自己免疫疾患に関わる遺伝子の機能を解明

−転写因子Bach2がアレルギーなどを引き起こす炎症性T細胞への分化を制御−

Bach2による炎症性T細胞の生成の制御

免疫反応は病原体や異物の侵入、あるいはがん細胞から自分の体を守るために欠かせない仕組みです。風邪をひいて発熱したり、歯に細菌が入ってリンパ腺が腫れたりするのは、免疫が外部からの侵入者(抗原)に対して免疫細胞が攻撃をしている証拠です。ただ、この身体を守る免疫反応ですが、過剰な反応が起こってしまう場合や、本来攻撃しないはずの自己組織に向かうと、炎症やアレルギーあるいは自己免疫疾患の原因となります。最近は、こうした疾患の遺伝的な背景を知るためヒトのゲノム全体にわたって疾患に関係のある遺伝子領域を見つける分析手法が使われています。糖尿病、ぜんそく、腸疾患など多くの疾患と関わる多数の遺伝子が見つかっていますが、その1つに「Bach2」という遺伝子があります。ただ、これがどのように疾患の発症に関わっているのかは明らかになっていません。

理研の研究者らは、Bach2遺伝子を欠損したマウスを使った実験を行い、Bach2遺伝子の発現状態と機能の解析を行いました。その結果、Bach2遺伝子は、免疫細胞の中の司令塔であるT細胞のうち、抗原にさらされたことのないナイーブT細胞で最も多く発現していました。一方、抗原によって活性化されたあとのメモリーT細胞では発現が少ないことが分かりました。通常、メモリーT細胞はナイーブT細胞に比べて強い免疫反応を示しますが、Bach2遺伝子を欠損したマウスのナイーブT細胞はメモリーT細胞と同じように抗原の刺激に対する反応が強くなりました。とくに、アレルギー反応や炎症性疾患を引き起こす原因となる炎症性T細胞であるTh2細胞と活性化パターンもが強く出ており、機能的にもTh2細胞に似ていて、炎症が起こりやすい状況になっていることが分かりました。

このことは、Bach2遺伝子が免疫応答の強さや活性化されやすさを制御し、免疫細胞であるT細胞を活性化されていない(ナイーブな)状態に保つ役割を果たしていることを意味しています。また、Bach2遺伝子を欠損したことで発現が変化した遺伝子の中には、炎症や自己免疫疾患と関連しているものが多く含まれていることから、Bach2遺伝子が疾患への感応を決定する重要な因子であると考えられます。今後、Bach2遺伝子を抑制する標的分子を明らかにすることができれば、Bach2遺伝子とともにその標的分子も、免疫による炎症や自己免疫疾患の予防や診断、あるいは治療法を開発するための有力な標的候補や手がかりになると期待できます。

理化学研究所
統合生命医科学研究センター 免疫シグナル研究グループ
グループディレクター 齊藤 隆 (さいとう たかし)