広報活動

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2013年6月27日

独立行政法人理化学研究所
国立大学法人東京大学大学院新領域創成科学研究科
学校法人青山学院
公益財団法人高輝度光科学研究センター

放射光でキラル物質の3次元透視を実現

-機能を左右する物質の利き手の違いをレントゲン的に識別-

開発した走査型X線顕微鏡
X線が物質を透過する能力と円偏光が利き手の違いを識別する能力を利用して、キラル物質の内部結晶組織を3次元かつミクロンスケールで可視化する。探査が難しい深さ方向の情報は、X線の侵入深さを変えた測定を繰り返して得たデータから再構成される。

かのルイ・パスツールは、ワインに含まれる酒石の研究から、キラル物質の概念を確立しました。人工的に造った酒石には、ワインに含まれる酒石と同じ形をしたものと、その鏡映しの形をしたものがあります。パスツールはこれを顕微鏡とピンセットで選り分け、それぞれが光を逆にねじる機能を持つことを発見しました。このことから姿形は鏡像の関係にあり利き手によって機能が逆転するキラル物質の概念が生まれました。不思議なことですが、ワインに含まれる天然の酒石と同じように、私たちの体を構成するさまざまな糖やアミノ酸の利き手も偏っています。この謎は「生命ホモキラリティー」と呼ばれていて、未だに解明されていません。例えば、天然のグルタミン酸ナトリウムは左利きでうま味を感じさせますが、人工的に合成すると左利きだけでなく苦みを感じさせる右利きのグルタミン酸ナトリウムも生成されてしまいます。酒石のように顕微鏡とピンセットで簡単に選り分けることができれば良いのですが、右利きと左利きのキラル物質を都合よく別々の結晶に成長させる技術はまだ確立されていません。

研究グループは、外形だけでなく内部もレントゲン的に観察できるX線顕微鏡システムを大型放射光施設SPring-8のビームラインに構築し、キラル物質である三塩化セシウム銅(CsCuCl3)の内部結晶組織の観察に挑戦しました。その結果、結晶中のどの部分が右利きでどの部分が左利きかを3次元かつミクロンスケールで可視化することに成功しました。このシステムを使ってキラル物質の結晶組織形態を詳細に調べ、右利きだけあるいは左利きだけの結晶を育成することが可能になれば、医薬品、食品添加物、さらにはスピントロニクス材料の生産コストの低減につながると期待されます。また、謎だった生命ホモキラリティーの起源についての議論にも新しい知見を与える可能性があります。

理化学研究所
放射光科学総合研究センター 利用技術開拓研究部門 量子秩序研究グループ スピン秩序研究チーム
チームリーダー 有馬 孝尚 (ありま たかひさ)
専任研究員 大隅 寛幸 (おおすみ ひろゆき)