広報活動

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2013年6月27日

独立行政法人理化学研究所
マギル大学

鉄を用いた安価で効率のよい水素化触媒を開発

-1分以内の高速での水素化反応を実現、従来法の数百分の1に反応時間を短縮-

ポイント

  • 水素化反応触媒としてレアメタルのパラジウムではなく安価で豊富にある鉄を利用
  • 水にも有機化合物にも親和性が高い樹脂にナノ化した鉄粒子を付着
  • 反応溶媒として毒性の低いアルコールも利用でき安全性が向上

要旨

理化学研究所(理研、野依良治理事長)とマギル大学(ヘザー マンロー·​ブラム学長)は、鉄を用いた新しい水素化触媒[1]を開発し、石油化学品製造において極めて重要な水素化反応を1分以内で進行させることに成功しました。これは、環境資源科学研究センター(篠崎一雄センター長)グリーンナノ触媒研究チームの魚住泰広チームリーダー(自然科学研究機構分子科学研究所錯体触媒研究部門 教授兼務)、山田陽一副チームリーダー、ならびにカナダのマギル大学化学科ムーレス研究室のオードリー ムーレス(Audrey Moores)教授、分子科学研究所錯体触媒研究部門の共同研究グループによる成果です。

日本の石油化学品製造にはさまざまな触媒が用いられ、なかでも水素化触媒が最も多く使用されています。水素化触媒により、石油化学品の基礎原料、中間体、各種石油化学製品が幅広く製造されていますが、現状ではパラジウムが一般的に使われています。しかし、パラジウムは地金価格が1kg当たりで100万円以上する高価なレアメタルです。こうした背景から、日本の石油化学品製造分野では、レアメタル使用から脱却し、安価でかつ効率のよい触媒を開発することが研究課題になっています。

共同研究グループは、地金価格が1kgで100円以下と、安価で豊富にある金属の鉄を用いた触媒開発を検討しました。その結果、水にも有機化合物にも親和性のあるポリスチレン-ポリエチレングリコール樹脂[2]にナノ化した鉄粒子を付着することで、水素化反応を可能とする触媒の開発に成功しました。実際に、この触媒をフロー型反応装置[3]で水素化反応をさせたところ、従来に比べて数百分の1に当たる1分という短時間で反応が進行しました。さらに、従来の触媒で問題となっていた、酸素や水による触媒活性の低下がありませんでした。また、エタノールやエタノール水混合溶媒のような毒性の低いアルコールを反応溶媒に用いることも可能になり、安全性が向上しました。

現在は基礎研究段階ですが、将来、大規模な処理装置が開発されると、レアメタルを用いない水素化反応を効率的に行える化学プラントが実現すると期待できます。

本研究成果は、英国の王立科学雑誌『GREEN CHEMISTRY』オンライン版(6月27日付け:日本時間6月27日)に掲載されます。

背景

日本の工業用触媒の出荷額は 973億円 で、そのうち石油化学品製造向けが63%の 約618億円を占めています(出典:2012年 触媒工業協会)。石油化学品製造に用いられる触媒は、酸化触媒、炭素-炭素結合形成反応触媒と数百種類にもおよび、なかでも水素化触媒は、石油化学製品の基礎原料、中間体、各種石油化学製品の製造で使われ、使用量、使用範囲が広いため重要です。しかし、現在実用化されている水素化触媒には、1kg当たり100万円以上もするレアメタルのパラジウムが大量に使用されています。しかし、パラジウムは資源保有国が限られ戦略物質として扱われるため、価格の急騰を招いています。こうした背景から、触媒材料としてレアメタルを使用せず、安価でかつ効率のよい代替触媒を開発することが求められています。

研究手法と成果

共同研究グループは、パラジウムの代替となる触媒材料として1kg当たり100円以下と安価で豊富にある「鉄」に注目し、効率的のよい鉄触媒を開発するために、ポリスチレン-ポリエチレングリコール樹脂にナノ粒子の鉄を付着することを検討しました。ポリスチレン-ポリエチレングリコール樹脂は、直径0.09mmの球状の不溶性プラスチックで、水にも有機溶媒にも溶けませんが、水や有機溶媒をスポンジのように吸収する性質があります。ポリスチレン-ポリエチレングリコール樹脂は、安全な水を反応溶媒として利用できることから、これまでに魚住らは、この樹脂にナノ粒子のパラジウム、ナノ粒子の白金を付着させた触媒を開発してきており、その触媒開発法を鉄のナノ粒子付着に応用しました。その結果、180℃の高温条件のもと、ポリスチレン-ポリエチレングリコール樹脂に平均粒径5nmのナノ粒子の鉄を付着させた鉄触媒の開発に成功しました(図1)。

共同研究グループは、開発した鉄触媒の性能を評価しました。この触媒をフロー型反応装置に充填させ(図2)、そこに石油化学製品の製造に必要となるさまざまなアルケン、アルキンのエタノール溶液と水素を流し入れ、水素化反応をさせました(図3)。その結果、1分以下で水素化反応が進行し、石油化学工業の原料物質として広く利用されるアルカンが効率よく生成され、最高で100%の生成率を達成し、従来法に比べて迅速かつ高効率の性能を示しました。さらにこの鉄触媒は、従来問題となっていた、酸素や水で触媒活性が低下するということもなく、さらに、エタノールやエタノール水混合溶媒など毒性の低いアルコールを反応溶媒として用いることができ、安全性も向上できる可能性を見いだしました。

今後の期待

今後は、基礎研究を継続して安定性・耐久性を高めた鉄触媒の開発を行っていきます。レアメタル触媒の使用から脱却し、年間数トン以上の合成を可能とする大規模処理装置、化学プラントの実現への貢献が期待できます。

原論文情報

  • Reuben Hudson, Go Hamasaka, Takao Osako, Yochi M. A. Yamada, Chao-Jun Li, Yasuhiro Uozumi, and Audrey Moores. Highly Efficient Iron(0) Nanoparticle-Catalyzed Hydrogenation in Water in Flow, Green Chemistry. doi:10.1039/C3GC40789F

発表者

理化学研究所
環境資源科学研究センター グリーンナノ触媒研究チーム
チームリーダー 魚住 泰広 (うおずみ やすひろ)
副チームリーダー 山田 陽一 (やまだ よういち)

お問い合わせ先

環境資源科学研究推進室 土屋 陽子
Tel: 048-467-9449 / Fax: 048-465-8048

報道担当

理化学研究所 広報室 報道担当
Tel: 048-467-9272 / Fax: 048-462-4715
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産業利用に関するお問い合わせ

理化学研究所 社会知創成事業 連携推進部
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補足説明

  1. 水素化触媒
    水素ガスを還元剤として化合物に対して水素原子を付加する還元反応を水素化と呼び、その反応を起こすために用いる触媒を水素化触媒と呼ぶ。
  2. ポリスチレン-ポリエチレングリコール樹脂
    ポリスチレンにポリエチレングリコールが結合した樹脂
  3. フロー型反応装置
    パイプ、チューブなどの流通管に、液体、気体を流すことにより反応を行う装置

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鉄触媒の顕微鏡写真

図1 本研究で開発した鉄触媒の顕微鏡写真

粒の1つ1つが、鉄粒子を付着させたポリスチレン-ポリエチレングリコール樹脂で、その直径は約90μm。

フロー型反応装置の写真

図2 フロー型反応装置

化学式

図3 アルケン、アルキンの水素化反応

アルケンやアルキンに水素原子を導入し、アルカンが生成する反応。

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