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2013年7月5日

理化学研究所

超流動ヘリウム3で「カイラル対称性の破れ」の直接観測に成功

-ユニークなアイデアと独自の技術で観測可能に-

液体ヘリウム3:右回転、左回転の区別なし。超流動ヘリウム3-A相:右回転、左回転のどちらか一方が選ばれる。右回転(軌道角運動量:上向き)。左回転(軌道角運動量:下向き)

超流動ヘリウム3-A相におけるカイラル対称性の破れ

質量数が3のヘリウム原子(3He)を約3K(ケルビン、1K=-273℃)まで冷却して得られるのが液体ヘリウム3です。このヘリウム3を絶対零度近くの0.001Kまでさらに冷やすと「超流動」という不思議な状態になります。超流動となったヘリウムは粘性を失って容器の壁をよじ登ったり、容器の外に出てこぼれ落ちたりします。低温物理の研究者は「この超流動状態の研究が超伝導や宇宙誕生の謎の解明に役立ち、量子コンピューターの実現につながる…」といいます。といっても私たちにはなかなかイメージがつかめませんね。というわけで、今回はその基礎編で、超流動ヘリウム3を使って「カイラル対称性のやぶれ」を直接観察することに成功したことを取り上げます。

超流動ヘリウム3にはA相、B相、A相の3つがあります。このうち超流動ヘリウム3-A相では、ヘリウム3原子2個が対(クーパー対)を作って、右回りか左回りのどちらか一方の回転方向を選びます。もともとの液体ヘリウム3は右と左の区別がありませんが、超流動ヘリウム3-A相に転移すると右と左の区別ができます。つまり、右と左の対称性が破れます。これを「カイラル対称性の破れ」といいます。これまで、超流動ヘリウム3-A相でカイラル対称性が破れていると考えられていましたが、0.001Kという超低温での実験であり実験手法が限られるため、直接観測した例はありませんでした。

理研の低温物理の研究チームは、「カイラル対称性の破れ」の実証に独自のアイデアで挑みました。研究チームは、「固有マグナス力」を観測することで、クーパー対の軌道角運動量の向きを調べることにしました。固有マグナス力は、超流動ヘリウム3-A相の中を動く電子が進行方向に対して垂直方向に受ける力で、軌道角運動量が上向きの場合は電子の方向に対して左向きに、下向きの場合は右向きに働きます。研究チームは、超流動ヘリウム3-A相の中に電子を打ち込み、溜まった電子が受ける固有マグナス力を観測しました。液体ヘリウム3を0.001K以下に冷却し超流動ヘリウム3-A相に転移させたところ、電子の軌道が固有マグナス力を受けて曲がることを観測しました。さらに温度を上げて通常の液体ヘリウム3に戻し、再び冷却して超流動ヘリウム3-A相に転移させたところ、固有マグナス力が働く方向が反対になる場合があることを発見しました。このことは、ある冷却では上向きの、別の冷却では下向きの軌道角運動量が現れることを示しています。この観測結果は、左右の対称性が破れている「カイラル対称性の破れ」を実証しています。

今回のカイラル対称性の破れの実証に加え、今後期待されている位相欠陥の性質の解明が進めば、対称性の破れの詳細な理解につながると期待できます。

理化学研究所
主任研究員研究室 河野低温物理研究室
専任研究員 池上 弘樹 (いけがみ ひろき)