広報活動

Print

2013年7月17日

独立行政法人理化学研究所
国立大学法人筑波大学

短寿命原子核の高精度質量測定法MRTOFを開発

-数ミリ秒の飛行で数百万分の一の高精度を高効率で実現-

高エネルギー(10億電子ボルト)RIビームは、高周波イオンガイドガスセル中で減速・冷却され、高周波カーペットによって捕集されガスセルから引き出される。低速(5電子ボルト)RIビームは、RF多重極ビームガイド、四重極質量フィルタを経てイオントラップに蓄積される。数ミリ秒ガスで冷却されたあと、MRTOF飛行部へ入射される。数100回反射を繰り返した後、MCP検出器で総飛行時間が測定される。

実験装置概念図

鉄より重い元素である金やウランは、宇宙での超新星爆発の時などに中性子を多量に吸収し、天然には存在しない「短寿命原子核」を経て生まれたと考えられています。このため、短寿命原子核の質量を正確に測定することは、宇宙における重い元素の起源を探る手掛かりとなります。近代物理学が始まって以来、数々の原子質量の測定方法が開発され、二千数百種類にも上る核種の質量が測定されてきました。ただ、その多くは放射性崩壊や原子核反応の熱量から求められた“間接的”測定によるものでした。間接的な測定法では未知の崩壊様式を経た場合の類推による間違った質量決定や、誤差の積み重ねなどの問題があるため、より正確な“直接的”測定が望まれてきました。

これまでにも精度の高い直接的な測定装置はありましたが、寿命が100ミリ秒以下という短寿命原子核や重い原子核の質量測定には十分対応しきれませんでした。理化学研究所と筑波大学の共同研究グループは、近年、注目されている多重反射型飛行時間測定式質量測定器「MRTOF」の開発に取り組み、完成させました。MRTOFはイオントラップで蓄積・冷却したイオンを、一対の静電ミラー電極間で数百回往復させ、その飛行時間から質量を測定する装置です。

理研が保有する、不安定原子核(RI)をビームとして発生する次世代加速器施設「RIビームファクトリー(RIBF)」で得られた、10億電子ボルトの高エネルギー・短寿命のリチウム同位体イオン(8Li)を、減速・冷却した後MRTOFに引き込み、8ミリ秒間飛行させました。この飛行時間を、原子質量の基準である炭素イオン(12C)の飛行時間と比較し、質量を150万分の1という高精度で決定できることを確認しました。飛行時間は等しいエネルギーで飛行させれば質量の平方根に比例します。このため、飛行時間を精密に測定し、質量が分かっているイオンの飛行時間と比べれば目的のイオンの質量が決定できるのです。

今後、超重元素の精密質量測定にMRTOF質量測定装置を積極的に活用していきます。理研には、ウランより重い元素を生成する装置がありますが、それらの元素の同位体の多くは質量が直接測定されていません。精密測定を行うことで、超重元素が存在できる仕組みの解明につながります。また、中性子を過剰に含む短寿命核の質量測定にも利用します。重元素の合成の仕組み解明が狙いです。さらに、MRTOFは質量数1000以上の分子イオンでも高い測定精度を維持できる特性をもちます。これにより、質量だけから、その分子の組成を決定することが可能です。生物・化学分野での新しい分析法として応用も期待できます。

理化学研究所
仁科加速器研究センター 実験装置開発室 低速RIビーム生成装置開発チーム
チームリーダー 和田 道治 (わだ みちはる)