広報活動

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2013年7月23日

独立行政法人理化学研究所
分子科学研究所
公益財団法人高輝度光科学研究センター

X線を2回当てて「中空原子」の生成に世界で初めて成功

-量子だるま落としで2段抜き-

X線照射によるクリプトン原子の光イオン化の図

X線照射によるクリプトン原子の光イオン化

木製の円盤のようなものをいくつか重ねその上に小さなだるまを置き、だるまが落ちないように円盤をはじき飛ばしていく「だるま落とし」というゲーム(図)をご存じですか。小槌(こづち)で円盤を1つずつ除いていって最後までだるまが倒れなければ勝ちです。このゲーム、決め手になるのは円盤をたたくスピードで、遅いとバランスを崩してだるまもろとも倒壊してしまいます。

これとよく似た実験を、原子を相手にやって見せたのが理研の研究者らを中心とした共同研究グループです。X線が原子に当たるとK殻の電子が吸収します。それに伴って1個の電子は原子からはじき飛ばされK殻に穴の空いた原子ができます。この状態は長くは続かず1000兆~1京分の1秒というごく短時間で“だるま落とし”のように外側の軌道の電子が内側へ落ちてきて、K殻にできた穴はすぐに埋まってしまいます。しかし、共同研究グループは、理研が保有する、X線自由電子レーザー施設「SACLA」が発する、太陽光の1兆倍のさらに1千万倍という強さのX線レーザーをクリプトン原子に照射して、電子が落ちてくる前にもう一度X線を当てて、もう1つの電子もはじき出しました。こうして、クリプトン原子の最も内側にあるK殻の軌道を回る電子が2個とも無い「中空原子」という特殊な状態の生成に成功しました。これは、直径がわずか0.1ナノメートルのクリプトン原子に、1京分の2秒弱の間に2回X線を当てることによって初めて可能になる、SACLAの光だからこそ達成できた成果です。

さて、明るく高速のフラッシュをたくと動いている瞬間や細かな部分まではっきりと写真に撮ることができます。非常に短い時間に発せられる強くきれいなSACLAの光を使うと、これまで捉えることができなかった化学反応などの高速現象や生命現象、タンパク質の構造なども、見ることができると期待されています。今回の成果により、ごく短時間しか存在できないK殻に穴の空いた原子にもX線を当てられることが実証され、穴の空いた原子の特性を活かした、新しいX線利用が可能になります。例えば、これによってタンパク質の構造をより高精度で解くことができる可能性が指摘されています。将来、穴の開いた原子を活用して、多種多様なタンパク質の構造決定が進み、生命現象の理解に役立つことが期待されます。