広報活動

Print

2013年7月26日

理化学研究所

記憶の曖昧さに光をあてる

-誤りの記憶を形成できることを、光と遺伝子操作を使って証明-

記憶のあいまいさができる理由(提供 Collective Next)

記憶のあいまいさができる理由

左:安全な青い箱を記憶した神経細胞を光感受性タンパク質で標識。
中:赤い箱の中で、青い箱の記憶を光刺激で読み出し、足には電気刺激を与える。
右:青い箱に戻すと、怖がる(過誤記憶の証拠)。

私たちが過去に起こった一連の出来事を思い出すとき、脳は断片的な記憶を集めてその一連の出来事を再構築します。しかし、記憶を思い出すときに、その一部が変化することがあり、不正確な記憶が思いもよらない影響をもたらすこともあります。例えば、米国では、事件捜査にDNA鑑定が導入されたことで冤罪(えんざい)が晴れた250人を調べたら、約75%は誤った目撃証言による被害者だったというデータがあります。これは、過誤記憶がもたらした結果といえますが、どのように過誤記憶が起きるかについては明らかにされていませんでした。

研究チームはこれまでに、マウス脳を用いて、記憶を保存する特定の脳細胞群を光感受性タンパク質で標識し、その細胞群に光をあてることで、脳に保存されている特定の記憶を思い出させることに成功しています。そこで研究チームは、最先端の光遺伝学(オプトジェネテイクス)技術を用い「過誤記憶がどのように形成されるのか」という謎の解明に挑戦しました。

実験では、まず、安全な環境であるA箱の環境記憶痕跡(エングラム)をマウスの海馬に形成し光感受性タンパク質で標識しました。次に、このマウスを異なった環境のB箱に入れ、A箱の環境記憶を思い出させるためにこの細胞群に青い光をあて、同時に、マウスが嫌がって恐怖反応(すくみ)を示す弱い電気刺激を足に与えました。すると、電気刺激とA箱のエングラムが結びついて、このマウスはその後安全なA箱に入れてもすくみを示しました。さらに、A箱のエングラムに対応した細胞群を光刺激しただけで、すくみが生じることを発見しました。これにより、安全なA箱のエングラムは、恐怖と一緒になった別のエングラムへと再構成されたことが明らかになりました。

今回の研究成果は、ヒトが“どのように”そして“なぜ”過誤記憶を形成するのかという課題に対する新た理解に道筋を与えるものといえます。

理化学研究所
脳科学総合研究センター
センター長 利根川 進 (とねがわ すすむ)
RIKEN-MIT神経回路遺伝子学センター(CNCG)教授