広報活動

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2013年8月9日

独立行政法人理化学研究所
独立行政法人情報通信研究機構
国立大学法人東京大学

新しいコンピューター「知的ナノ構造体」の構築が可能に

-量子ドット間の光エネルギー移動を活用し“正確に速く”意思決定-

量子ドット「ナノ構造体」とSoftmax法の比較図

量子ドット「ナノ構造体」とSoftmax法の比較

脳をもっていないのに迷路の中に置かれたエサに最短距離でたどり着く、自分にとって害を及ぼす光を避けながら難しい数学の問題を解く…。単細胞生物の「粘菌」はこんな高度な判断を平気でこなします。この粘菌の不思議な能力は完全には解明されていないものの、粘菌の情報処理⇒意思決定のパターンを何かに使えないかと真剣に考える研究者たちがいます。

セールスマンが多くの顧客を訪問する最短ルートを決めようとすると膨大な計算が必要です。いわゆる「組合せの爆発」の問題です。しかし、粘菌は多数あるルートをそれぞれ計算するのではなく、ある程度ラフに、あたかも場当たり的に最適なルートを決めていきます。ですから導き出したルートはベストなものではないかも知れません。ただ、そのスピードが速ければ、正確さと速さの総合点で粘菌の意思決定は優れたものと言えます。このように時間をかけずにある程度の正解を出すことが求められるケースは多々あります。例えば、災害などで電力や通信のネットワークが被害を受けたときです。災害時には、最も効率良く迂回できるルートをできるだけ速く見つけることが求められます。ちなみに最適ルートの分析は現在のコンピューターが最も苦手としている計算です。

今回、理研の研究者を中心とした共同研究グループは、粘菌の行動原理と近接して配置された量子ドット間の近接場光(光の波長より小さな穴を通してにじみ出した光)を介した光エネルギーの移動プロセスに類似性があることを発見しました。そして、この類似性を利用し、粘菌の行動原理を実際のデバイスに応用するため、近接場光を利用した新たなアルゴリズムを開発しました。

このアルゴリズムを「多本腕バンディット問題(複数のスロットマシンからできるだけ速くできるだけ多くのコインを得る問題)」を解くための量子ドットのナノシステムで検証した結果、従来最も速いといわれていたアルゴリズム(Softmax法)を上回る性能を示し、省エネ効果も認められました。この成果は、ナノスケールの物理プロセスに粘菌という生物固有の特徴を活用し、全く新しい原理で動作する「知的コンピューティングデバイス」や「自律的に環境に適応して最適な意思決定を行う知的なナノ構造体」を構築できることを示しています。

理化学研究所
グローバル研究クラスタ
客員主管研究員 原 正彦 (はら まさひこ)
(元 理研―HYU連携研究センター 揺律機能研究チーム チームリーダー)