広報活動

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2013年8月24日

独立行政法人理化学研究所
国立大学法人東京大学

腸管粘膜の異常増殖に関わるタンパク質を発見

-腸管上皮細胞でタンパク質を輸送するAP-1Bが細胞増殖の制御に関与-

正常な対照マウスとAP-1B欠損マウス

AP-1B欠損マウスの腸管上皮細胞におけるE−カドヘリンの局在異常

緑色がE-カドヘリン、赤紫色がDAPIというDNAと結合する試薬で核を描出している。正常な対照マウスではE-カドヘリンは側底面細胞膜に局在するため線状に染色されるが、AP-1B欠損マウスでは線状の染色に加え、細胞内顆粒への異常な蓄積が認められた(矢頭)。

ヒトの腸管粘膜は、栄養分や水分を効率良く吸収するために400mという大きな表面積をもっています。しかし、皮膚などとは異なり、異物の侵入に対する防御能力は決して強くなく、食べ物に含まれる細菌やウイルス、さらには数百兆個におよぶ腸内常在細菌などの異物にさらされています。腸管粘膜の最前線に位置しているのが「腸管上皮細胞」で、その細胞膜は“体外”にあたる腸管内と“体内”に面する「側底面」の2つの区画に分かれています。それぞれに異なるタンパク質群が存在し、体の内と外という全く違う環境を隔てる細胞として必要な機能をもちます。1つの細胞の中で部位によって構成するタンパク質の組成や機能が異なる現象を「細胞の極性」と呼びます。

腸管上皮細胞は、免疫細胞と同じように体内で最も盛んに分裂増殖する細胞で、ヒトの場合だと約5日間で全ての細胞が入れ替わります。このため、極性を形成し維持しながら増殖しなければならず、細胞極性と細胞増殖は密接に関連しながら制御されています。この制御機構が正常に機能しないと、がんの危険性もあるとされています。しかし、これまでその分子メカニズムは不明でした。

共同研究グループは、上皮細胞だけに存在し、特定のタンパク質を体内に面する側底面の細胞膜に輸送する因子「AP-1B」に着目しました。まず、AP-1B遺伝子を腸管上皮細胞だけで欠損させたマウス(AP-1B欠損マウス)を作製し、その表現型を病理組織学的、生化学的に詳細に解析しました。その結果、AP-1B欠損マウスでは通常ほとんど死亡しない8週齢以前の弱齢での死亡率が約50%にも上り、生き残ったマウスでも、体重減少、小腸からの栄養吸収の低下、低血糖、低アルブミン血症などの症状が認められました。AP-1B欠損マウスでは小腸の重量が通常の3倍になり、腸管上皮細胞の過剰な増殖を確認しました。さらに詳しく調べると、AP-1Bが失われたため、通常は側底面に局在して細胞間接着に働くはずの細胞接着分子「E-カドヘリン」が細胞内に蓄積していました。これによって、本来、E-カドヘリンと複合体を形成して細胞間接着を制御している「β-カテニン」との結合が不安定になることが分かりました。その結果、β-カテニンが細胞質から核内に移行することで腸管上皮細胞が過剰に増殖することを発見しました。

AP-1Bが腸管上皮細胞の極性と増殖を制御していることが分かり、がん化との関連が示唆されます。研究グループは、実際にマウスやヒトの大腸がん検体を用いた研究を進め、裏付ける結果を得ています。研究を発展させていくことで、AP-1Bを標的とした新たながんの発見法や、評価法の開発が期待できそうです。

理化学研究所
統合生命医科学研究センター 粘膜システム研究グループ
グループディレクター 大野 博司 (おおの ひろし)