広報活動

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2013年10月9日

理化学研究所

腰椎椎間板変性症(LDD)発症に関する遺伝子「CHST3」を発見

-椎間板ヘルニアや腰痛症の発症機構の解明、治療法の開発へ前進-

MRI写真

腰椎椎間板ヘルニアのMRI写真

腰椎の椎間板の老化に伴う変性によって生じる疾患を総称して「腰椎椎間板変性症(LDD)」といいます。骨や関節などの疾患の中でも最も発症頻度の高い疾患の1つです。腰痛症や腰椎椎間板ヘルニア(LDH)は、LDDがきっかけで発症するので、重度のLDDだと考えられています。LDDは、腰に負担のかかる動作などの環境的な要因や遺伝的な要因によって発症することが、これまでの研究で明らかになっています。理研の研究チームはこれまで、LDHの原因遺伝子を世界に先駆けて発見しています。しかし、LDDの遺伝的要因やそれが引き起こす病態の解明するためには、さらなる原因遺伝子の発見が必要です。そこで、LDHの専門医集団「腰椎椎間板ヘルニアコンソーシウム」や、香港、フィンランドの大学の協力を受け、新たなLDD発症に関わる遺伝子の発見に挑みました。

研究チームは、多段階のゲノムワイド相関解析を用いて、ゲノム全体から原因遺伝子が存在する領域の絞り込みを行いました。日本のLDH患者と対照者、合わせて3,600人のDNAサンプルを使って、ヒトのゲノム全体を網羅する55万個の一塩基多型(SNP)を調べ、強い相関関係を示すSNPをいくつか同定しました。次に、それらのSNPをさらに25,000人の日本人、中国人、フィンランド人の集団を用いた相関解析を行い、最も強い相関関係を示すSNPを見つけました。このSNPを含む領域は、香港の大学が中国人のLDD患者18家系を用いて行ったゲノムワイド連鎖解析でLDDと強い連鎖を示す領域と重なっていました。2つの異なった遺伝学的手法で共通に示された領域には「CHST3」という遺伝子が存在しました。

LDDの主な病変部分である軟骨、椎間板、骨でのCHST3の発現パターンを調べてみると、全ての組織で高く発現していました。また、CHST3を詳細に解析したところ、CHST3のある特定の部分にLDDと非常に強い相関を示す別のSNPが見つかりました。その特定部分とは、CHST3から転写されたメッセンジャーRNA(mRNA)の配列のうち、タンパク質に合成(翻訳)されない末端領域があります。その領域に翻訳を抑制するマイクロRNAが結合する配列があり、ちょうどその配列の一部に見つかったのです。さらに、このSNPによってCHST3のmRNAが不安定になり、mRNAの量が減ることも分りました。

今回の研究で、複数の人種においてLDDに関連する遺伝子を発見しました。さらなる研究により、分子レベルでLDDの病態の理解が進み、新しい予防法や治療法、またその治療薬の開発が進むものと期待できます。

理化学研究所
統合生命医科学研究センター 骨関節疾患研究チーム
チームリーダー 池川 志郎 (いけがわ しろう)