広報活動

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2013年10月9日

理化学研究所

植物病害応答の新規制御メカニズムを発見

-代替ポリアデニル化によって病害応答転写因子の活性を制御-

ポイント

  • 開花期調節因子として知られるFPAタンパク質が病原抵抗性を制御することを発見
  • FPAタンパク質が制御する代替ポリアデニル化によって病害応答転写因子を活性化
  • 病害応答の強化や感染時の開花時期制御が可能に

要旨

理化学研究所(理研、野依良治理事長)は、実験モデル植物のシロイヌナズナと独自に開発したマイクロアレイ[1]を用いて、植物病害応答の新規制御メカニズムを発見しました。これは、理研環境資源科学研究センター(篠崎一雄センター長)植物免疫研究グループの白須賢グループディレクター、レベッカ ライオンズ国際特別研究員(当時)、岩瀬哲研究員(当時、現・細胞機能研究チーム)、細胞機能研究チームの杉本慶子チームリーダー、バイオマス工学連携部門の松井南 副部門長、および英国ダンディー大学のゴードン シンプソン博士、オーストラリアCSIRO研究所のケマル カザン博士らによる共同研究グループの成果です。

現在、世界の人口は70億人に達し、30年後には90億人になると予測され食糧の確保が人類の喫緊の課題になっています。食糧の確保や食の安全を脅かす要因の1つに挙げられているのが植物病害です。このため、病害から植物を保護する戦略を確立することが、食糧の安定供給や生産性の向上、さらには食の安全確保につながります。

植物は病原体に感染すると数千の病害応答遺伝子群[2]を発現させて耐病性を発揮します。しかし、そのメカニズムの詳細は未だよく分かっていません。共同研究グループは、シロイヌナズナとマイクロアレイを用いて病原体認識時に発現する遺伝子を詳細に調べました。その結果、病害応答転写因子として知られるERF4遺伝子[3]を転写したmRNAが代替ポリアデニル化[4]を受け、代替スプライシング[5]を起こすことを突き止めました。さらに、これによってERF4タンパク質のEARモチーフと呼ばれる転写抑制領域が欠失し、病害応答遺伝子群が発現することが分かりました。また、この代替ポリアデニル化が開花期の調節に関わるFPAタンパク質[6]によって制御されることも分かりました。

今回の成果により、持続的で環境にやさしい新たな耐病性植物を開発する道が開かれました。また、植物は病原体に感染すると開花時期が早まってしまう現象が見られますが、開花期の調節に関わるFPA遺伝子のゲノム編集[7]などによる改変によって、そのコントロールが可能になると期待できます。

本研究は、文部科学省の科学研究費補助金(基盤研究(S))平成24年度採択課題「植物免疫システムの分子機構」や理研国際特別研究員制度などの支援により行われました。成果は英国の科学雑誌『Scientific Reports』のオンライン版(10月9日付け:日本時間10月9日)に掲載されます。

背景

現在、世界の人口は70億人に達し、30年後には90億人になると予測されており、食糧の確保が人類の喫緊の課題になっています。食糧の確保や食の安全を脅かす要因の1つに挙げられているのが植物病害です。このため、病害から植物を保護する戦略を確立することが、食糧の安定供給や生産性の向上、さらには食の安全確保につながります。植物は、病原体を認識すると1,000種以上の遺伝子を発現させ、病原体の攻撃に備える防御モードに入ります。具体的には、植物の受容体が病原体の一部や鞭毛、細胞壁などを認識して、抗菌物質を生産します。この間、植物は成長を一旦止めて多くのエネルギーを病害応答に費やします。また、病気の進行が早い場合は、開花期の調節に関わるFPAタンパク質などが働き、開花を早めて次世代につなぐこともあります。

病原体の正確な把握と、それに対応する病害応答遺伝子群の制御は、植物にとって非常に重要なシステムです。この制御システムが解明されれば、より効果的な病害への備えが可能になります。最近、RNAに結合したタンパク質(RNA結合タンパク質)が耐病性に関与しているといういくつかの報告があり、RNAレベルでの制御がシステムの1つであることが示唆されています。しかし、その制御システムの詳細な分子メカニズムは解明されていませんでした。

研究手法と成果

共同研究グループは、まず、病害応答にRNAレベルでの制御が関与しているかどうかを調べました。そこでFPAタンパク質に着目しました。FPAタンパク質は、RNA結合タンパク質であり、開花期の調節に関わります。このFPAタンパク質をつくる遺伝子を欠失したシロイヌナズナ変異体を作り、病害応答の様子を観察しました。その結果、病原体の鞭毛の一部を認識した際に生ずる活性酸素の量が通常より増えていることが分かりました。一方、FPAタンパク質を過剰に発現させた個体は、病原体の一種である斑葉細菌に対する耐病性が弱くなっていることも分かりました。この結果からRNAレベルの制御でFPAタンパク質が病害応答に関わっていることが明らかになりました。

DNA配列から転写と呼ばれる過程を経てmRNA(メッセンジャーRNA)が合成されます。mRNAは、さまざまなRNA結合タンパク質の制御を受けてタンパク質合成過程に進みます。なかでもmRNA配列の末端にアデニル鎖を結合するポリアデニル化は、タンパク質合成にとても重要です。そこで、理研が独自に開発したマイクロアレイを用いて感染時に特異的に発現する遺伝子群を同定し、その中でmRNAのポリアデニル化の位置が変化(代替ポリアデニル化)しているものを探しました。その結果、病原体の鞭毛を認識してから15分以内に、病害応答転写因子として知られるERF4遺伝子のmRNAのポリアデニル化される位置が1.3kbpほど後方に変わることが分かりました()。さらに、この代替ポリアデニル化を受けることによって、スプライシングの位置が変化(代替スプライシング)し、短いmRNAができることも分かりました。また、mRNAが短くなったことで、ERF4タンパク質のEARモチーフと呼ばれる転写抑制領域が欠失していることを発見しました。さらにダイレクトRNAシークエンス法[8]qRT-PCR法[9]を用いて解析したところ、ERF4遺伝子の代替ポリアデニル化が進むことが明らかになりました。

次に、EARモチーフがERF4タンパク質の転写活性能を制御しているかを調べました。その結果、野生型ではERF4タンパク質の転写活性能が抑制されるのに対し、代替ポリアデニル化を受けスプライシング部位が変わったためにEARモチーフを欠失した個体では、ERF4タンパク質の転写活性能が活性化されることが分かりました。また、ERF4タンパク質を過剰に発現させた個体は、病害応答遺伝子が必要以上に発現して成育が遅れてしまうのに対し、EARモチーフを欠失したERF4タンパク質を過剰に発現させると、病害応答反応が弱くなり、成長が進み個体が大きくなりました。つまり、転写活性型のERF4タンパク質が病害応答反応を負に制御していることが分かりました。

今後の期待

今回の成果により、植物がRNAの代替ポリアデニル化を使って、病害応答転写因子の活性化をコントロールしていることが分かりました。FPA遺伝子や他のRNA結合タンパク質を改変したり、代替ポリアデニル化を受ける転写因子を改変することによって、耐病性の強さをコントロールすることができるようになると考えられます。また、ゲノム編集テクノロジーなどを使って、将来的に作物などの品種改良に貢献すると期待できます。

原論文情報

  • Rebecca Lyons, Akira Iwase, Thomas Gänsewig, Alexander Sherstnev, Céline Duc, Geoffrey J. Barton, Kousuke Hanada, Mieko Higuchi-Takeuchi, Minami Matsui, Keiko Sugimoto, Kemal Kazan, Gordon G. Simpson and Ken Shirasu, "The RNA-binding protein FPA regulates flg22-triggered defense responses and transcription factor activity by alternative polyadenylation",Scientific Reports,doi.org/10.1038/srep02866

発表者

理化学研究所
環境資源科学研究センター 植物免疫研究グループ
グループディレクター 白須 賢 (しらす けん)

お問い合わせ先

環境資源科学研究推進室
Tel: 045-503-9471 / Fax: 045-503-9113

報道担当

理化学研究所 広報室 報道担当
Tel: 048-467-9272 / Fax: 048-462-4715

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補足説明

  1. マイクロアレイ
    ゲノム情報を基に目的のDNA断片を設計し、プラスチックやガラスなどの基板上に高密度に配置した分析器具。遺伝子発現解析に主に用いられる。今回の実験で使用したマイクロアレイは独自に開発したもので、これまでに遺伝子として認識されていない領域もカバーできるため、新規のmRNAを発見することにも役立つ。
  2. 病害応答遺伝子群
    植物が病原菌を認識した直後に発現が上昇する遺伝子群。転写因子や分泌に必要なタンパク質、抗菌物質生産のための二次代謝酵素群、抗菌ペプチドなどを作る。
  3. ERF4遺伝子
    Ethylene Responsive element binding Factor 4。植物ホルモンであるエチレンによって誘導される転写因子を作る遺伝子で、耐病性に関与していることが知られている。
  4. ポリアデニル化
    真核生物において転写終了時に3' 末端のセグメントを切り離し、そこからアデニン塩基で伸長すること。翻訳可能な成熟mRNAを生産するために不可欠である。遺伝子によっては、切断できる部位が複数あり、その内1カ所にアデニン塩基鎖が追加される(代替ポリアデニル化)。そのため、1つの遺伝子から複数の転写産物を作り出すことが可能である。
  5. スプライシング
    真核生物において、DNAから転写されたmRNA前駆体に存在するイントロンと呼ばれるアミノ酸配列を決定していない部分を切り出し、残りの部分を結合して完全なタンパク質配列を示すmRNAを作ることをいう。遺伝子によっては複数のスプライシング部位の可能性があり、一種類以上のmRNAを作ることが可能である(代替スプライシング)。
  6. FPAタンパク質
    開花調節因子として発見されたRNA結合タンパク質で、ポリアデニル化に関与することが知られている。
  7. ゲノム編集
    ゲノム上の標的遺伝子の特定部位を核酸分解酵素で特異的に切断することにより、標的遺伝子を破壊、もしくは外来遺伝子を導入する技術。
  8. ダイレクトRNAシークエンス法
    Helicos社の一分子シーケンサーであるHeliscope(TM)を使って、ゲノム全域にわたりRNAの配列を決定する方法。
  9. qRT-PCR法
    qはQuantitative (定量的)、RTはReverse Transcription(逆転写)、PCRはPolymerase Chain Reaction(ポリメラーゼ連鎖反応)の略。RNAを鋳型としてDNAを合成し、目的とするRNA量を定量的に解析する方法。

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ERF遺伝子を転写したmRNAの図

図 ERF遺伝子を転写したmRNA

病原体の鞭毛を認識してから15分以内に、病害応答転写因子として知られるERF4遺伝子を転写したmRNAのポリアデニル化される位置が1.3kbpほど後方に移動した。さらに、この代替ポリアデニル化を受けることによって、スプライシングの位置が変化し、短いmRNAができた。また、mRNAが短くなったことで、ERF4タンパク質の転写抑制領域であるEARモチーフが欠失した。

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