広報活動

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2013年10月11日

理化学研究所

獲得免疫の起源を探る

-細菌の免疫システムを担うCmr複合体の構造と機能を解明―

サーマス・サーモフィルスのCmr複合体の作用メカニズム

サーマス・サーモフィルス(Thermus thermophilus)のCmr複合体の作用メカニズム

全ての生物は、外界の毒物や病原菌から自らを守る免疫システムを備えています。生物の進化と同様、免疫システムも突然変異や環境適応を繰り返して進化してきました。免疫システムには、生まれつき持っている自然免疫と、いろいろな抗原に感染することで身につく獲得免疫があります。獲得免疫では、外界から侵入した病原菌(抗原)の一部を免疫システムに関わる分子(細胞)が取り込み、抗体を作って抗原を攻撃します。獲得免疫システムが優れているのは、その攻防の記憶を、同じ抗原に再感染したときにも生かして迅速に攻撃できることです。しかし、獲得免疫システムの起源やその進化の過程については、まだまだ解き明かされてないことが多いのです。

理研の研究者らで構成した共同研究グループは、細菌が持っている「CRISPR-Cas(クリスパー-キャス)システム」という獲得免疫に似た防御システムに着目しました。生命の起源に近いと考えられている細菌の一種「高度好熱菌」中で、ゲノム解読が完了し、遺伝子操作系も確立している「サーマス・サーモフィルス HB8株」を対象に、このシステムの全容を解明して、獲得免疫の起源や進化の一端を明らかにしようと試みました。

CRISPR-Casシステムは、DNA領域である「CRISPR領域」と、cas遺伝子によって作られる「Casタンパク質群」で構成されています。ウイルスなどが侵入すると、そのDNAの一部を切り取り、CRISPR領域に組み込みます。ウイルスのDNAを組みこんだCRISPRのDNA配列は、RNAに変換され、複数の断片に切断されます。切断されたRNAをCRISPR RNA(crRNA)と呼び、これらは、防御システムに関わるCasタンパク質と複合体「Cmr複合体」を形成します。細菌が再度同じウイルスに感染しても、ウイルスのDNAやRNAと適合するcrRNAを持ったCmr複合体が反応し、そのウイルスを攻撃し排除します。

共同研究グループは、Cmr複合体を単離・精製し、遺伝子解析や電子顕微鏡観察で詳細な構造と機能を調べました。電子顕微鏡で構造観察を行ったところ、Cmr複合体はユニークならせん状の構造をしていました。また、Cmr複合体を構成するcrRNAの配列を解析した結果、crRNAは無作為に結合されるのではなく選択性があることを発見しました。さらに、Cmr複合体は感染したウイルスのRNAを5カ所で切断し、感染を防ぐことが分りました。今回、解明されたCmr複合体の全体像は、既に報告されている大腸菌由来の、ウイルスDNAを分解するCascade複合体と類似していることから、これらの巨大な分子複合体は共通な祖先から派生してきたものと考えられます。

理化学研究所
上席研究員研究室 横山構造生物学研究室
先任研究員 新海 暁男 (しんかい あけお)
(当時 放射光科学総合研究センター ビームライン基盤研究部 先任研究員)