広報活動

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2013年11月1日

理化学研究所

樹状突起の形態形成を決める分子メカニズムの一端を解明

-無駄な樹状突起を除去し、脳内の神経回路の混線を防ぐ-

Btbd3を阻害したときのマウスのバレル皮質の神経細胞

必要でないものはドンドン捨てていく、「断捨離」というヨガの行の考え方を取り入れた生活術が、3年くらい前にブームになりました。モノへの執着を捨て、身軽で快適な生活をするという意味だったと思います。また、逆のことばの「もったいない」が見直されたこともあります。ただ、もったいないが行き過ぎると家の中が大変なことになり、気持ちの上で重荷になってしまいます。“捨てる”の程度は異なるでしょうが、必要なものが必要な分だけある、というのがいいようです。

ところで、動物の脳にも断捨離に似た機能があります。正常な脳機能を維持するには、神経回路内で不要な接続や混線を避けなければならないのですが、なんと脳は、必要か不要かの選別を自動的に行っているのです。

神経細胞は、情報を伝える「軸索」とそれを受け取る「樹状突起」からできていて、それぞれが正しい場所で結合することで神経回路を形成しています。外部からの情報入力が少ない余分な樹状突起を除去し、残った樹状突起の枝分かれを入力の多い方向に増やすことで、より効率的な神経回路をつくっているのです。この機能が働かないと、神経回路内で不要な接続や混線が生まれ、高次機能に障害が出る可能性があるからです。この機能は、脳機能の維持に重要な機能ですが、これまで詳しいメカニズムは分かっていませんでした。

理研の研究チームはマウスを使った実験を行い、このメカニズムの解明を試みました。マウスの大脳皮質で感覚情報を処理する「バレル皮質」には、余分な樹状突起を除去し、残った樹状突起の枝分かれを増やす神経細胞があることが知られていました。研究チームは、この細胞の中のBtbd3という遺伝子に着目しました。Btbd3の機能を阻害してみたところ、本来は“非対称”な形態になるはずの樹状突起が“対称”の形態を維持したままでした。Btbd3は、樹状突起の除去と枝分かれの増加に重要な役割を果たしていたのです。これにより、樹状突起の形態形成を決める分子メカニズムの一端が明らかになりました。

さらに、マウスとは異なり、感覚情報より視覚情報を多く利用して生活するフェレットでBtbd3を強制的に発現させてみました。その結果、視覚野の神経細胞でBtbd3が多く発現していることと、樹状突起が視覚情報の入力が増えるにつれて“非対称”な形態になることを見いだしました。また、フェレットの視覚野でBtbd3の機能を阻害したところ、視覚情報の入力いかんに関わらず樹状突起の除去が行われないことが分りました。これらの結果から、この分子メカニズムはマウスとフェレットという異なる種の間で獲得されていることが明らかになりました。

理化学研究所
脳科学総合研究センター 視床発生研究チーム
チームリーダー 下郡 智美 (しもごおり ともみ)