広報活動

Print

2013年11月7日

理化学研究所

ストレスに対する防御応答のバランスを保つ機構の一端を解明

-タンパク質合成を調節する「Hfq」の分子機構が明らかに-

Hfqとカタラーゼ複合体のタンパク質合成制御のモデル図

Hfqとカタラーゼ複合体のタンパク質発現制御のモデル

ストレスというと、どうもネガティブな形で語られることが多いようです。ただ、ストレスの本来の意味は「ある刺激によって反応している心の状態」です。活動するエネルギーのもととなる有益な反応のことを「ユーストレス」、不快な感情をもたらす反応のことを「ディストレス」と呼びます。スポーツやゲームで興奮する、いい景色を見て感動するなどはユーストレスです。一方、暑さや寒さから受ける不快さや、上司のパワハラに対する怒りなどはディストレスになります。2つのストレスが適度にあることが社会的適応性につながるのですが、バランスが失われると体調を崩したり、病気になったりすることもあります。

さて、生物は温度変化、活性酸素、紫外線などの“ストレス”にさらされていますが、それに適応するために防御応答を行って生きのびています。それは小さな細菌も同じで、ストレス環境におかれた細菌では、「Hfq」というリング状のタンパク質がRNAと結合してストレス応答タンパク質の合成を制御しています。ただ、その分子機構については、ほとんど分かっていませんでした。理研の研究チームは大腸菌を用いて、生物が持つストレスに対する防御応答のバランスを保つメカニズムの解明に取り組みました。

研究チームは、ストレスを与えた環境で大腸菌を生育すると多量に合成されるタンパク質を同定しました。その結果、生物にとって有害な活性酸素である過酸化水素を分解する酵素「カタラーゼ」とHfqが増加し、多量のカタラーゼが細胞に蓄積してHfqと大きな複合体を形成することが分かりました。この複合体の構造を大型放射光施設「SPring-8」で解析したところ、HfqがRNAと結合すべき部分にカタラーゼが結合してできた複合体だと分りました。この複合体ができることが妨げになり、HfqはRNAと結合できなくなるわけです。このため、Hfqの本来の機能であるタンパク質の翻訳活性が抑制され、ストレス応答タンパク質の合成がそれ以上行われなくなると考えられました。

この結果から、Hfqは自身が翻訳を調節するタンパク質と複合体を形成して自身の機能を抑制するメカニズムを持つことが分りました。つまり、生体内にはHfqの働きを制御し、ストレス応答タンパク質の合成量を調節して、ストレスに対する防御反応のバランスを保つメカニズムがあることが明らかになったわけです。生体に備わった防御のシステムって驚くほどよくできていますね。

理化学研究所
放射光科学総合研究センター 利用技術開拓研究部門 米倉生体機構研究室
准主任研究員 米倉 功治 (よねくら こうじ)