広報活動

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2013年11月14日

独立行政法人理化学研究所
国立大学法人東京大学
慶應義塾大学先端生命科学研究所
独立行政法人科学技術振興機構

腸内細菌が作る酪酸が制御性T細胞への分化誘導のカギ

-炎症性腸疾患の病態解明や新たな治療法の開発に期待-

対照群

酪酸化でんぷん群

酪酸化でんぷん摂取による大腸炎抑制

フランスの小説家ルナールは、「博物誌」という作品に“ヘビ、長すぎる”という一節を残しています。長すぎてダメということらしいのですが、単純かつ明快で「まぁ、そうだよね」というしかないですね。ところで、ヒトの消化器官に腸がありますが、小腸から大腸までの腸管の長さは7~9mもあるそうです。9mといえば3階建ての高さ。ルナールに倣(なら)えば“腸管、長すぎる”ってことになりますか…。腸管には、500~1,000種類、100兆個を超える腸内細菌がいて、消化液では分解できない食物繊維などを微生物発酵によって代謝し、有用な代謝産物に作り替えています。ある種の腸内細菌には、炎症やアレルギーを抑える効果があることが知られていますが、そのメカニズムは分かっていませんでした。

理研の研究者らを中心とした共同研究グループは、腸内細菌の炎症抑制のメカニズムの解明に取り組みました。まず、腸内細菌の一種であるクロストリジウム目という細菌群が、大腸の制御性T細胞を増やすという研究成果に着目しました。そこで、その細菌群を定着させたマウスを作製し、細菌群の腸内発酵が制御性T細胞の数の増減にどう影響するかを調べました。食物繊維を多く含む食事を与えたマウスと、線維をほとんど含まない食事を与えたマウスで比較したところ、食物繊維を多く含む食事を摂ったマウスだけに制御性T細胞の増加が見られました。同時に、食物繊維を多く含む食事を摂ったマウスの腸内では代謝産物の1つである酪酸の産生量が多くなっていました。さらに研究を進めた結果、酪酸が制御性T細胞への分化の誘導に重要なFoxp3という遺伝子の発現を高めることで、未成熟なT細胞を制御性T細胞へと分化誘導していることが明らかになりました。

食物繊維の多い食事をとることで、腸内細菌による食物繊維の代謝が進む結果多くの酪酸が作られて、この酪酸が炎症抑制作用のある制御性T細胞を増やしていることが分かりました。実際に大腸炎を起こさせたマウスに酪酸を与えたところ、制御性T細胞が増えて大腸炎が抑制されました。今回の成果は、炎症性腸疾患の病態の解明や新たな治療法の開発につながるものです。

理化学研究所
統合生命医科学研究センター 粘膜システム研究グループ
グループディレクター 大野 博司 (おおの ひろし)