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2013年11月14日

理化学研究所

新星爆発の瞬間の観測に成功

-ISSに搭載した全天X線監視装置「MAXI(マキシ)」が「火の玉」をとらえた-

ポイント

  • 小マゼラン星雲に極めて明るいX線を放つ突発天体を発見
  • X線は新星爆発直後の約1時間、重量級の白色矮星を包み込んだ「火の玉」から放射
  • 「火の玉」の観測は史上初、「火の玉」からの閃光中にネオンの放射を発見

要旨

理化学研究所(理研、野依良治理事長)は、宇宙航空研究開発機構(JAXA、奥村直樹理事長)と共同で開発し、国際宇宙ステーション(ISS)に搭載した全天X線監視装置「MAXI(マキシ)」を用いて、新星爆発の瞬間に重量級の白色矮星[1]を包みこんだ「火の玉」を初めて観測することに成功しました。これは、理研グローバル研究クラスタ(玉尾皓平クラスタ長)理研のMAXIチーム(牧島一夫チームリーダー) の森井幹雄協力研究員らを中心とした全国のMAXI研究グループ[2]と、NASAのSwift(スウィフト)衛星チームの協力研究者[3]による共同研究グループの成果です。

重い白色矮星の表面上で新星爆発が起こると、点火から数時間の間に星全体が「火の玉」に包まれ、紫外線や軟X線[4]の閃光が放出されるという理論予想がありました。しかし、短時間の突発的なX線閃光を検出する装置がなかったため、閃光は観測されたことがありませんでした。2009年8月に運用を開始したMAXIにより、軟X線の波長域で全天の突発現象を監視することが初めて可能になりました。

MAXI研究グループは、地球から22万光年遠方に位置する小マゼラン星雲の東端に、通常の新星爆発時に比べ約100倍[5]という極めて明るい軟X線の閃光を放射する突発天体を発見し、「MAXI J0158-744」と名付けました。MAXIとSwift衛星による追跡観測によって得られたデータを精査した結果、MAXIが観測した軟X線閃光は、非常に重い白色矮星の表面上で起こった新星爆発の点火後約1時間の間に、星全体を包み込んだ「火の玉」からの放射であることが分かりました。新星爆発初期の「火の玉」からの軟X線閃光を観測したのは史上初となります。さらに、MAXI に搭載している軟X線分光観測装置(SSC)は、この「火の玉」からの軟X線閃光の中に明るいネオン輝線を検出しました。これは、爆発するガス中に大量のネオン元素が存在することを意味し、この白色矮星が酸素とネオンで構成された重い白色矮星であることを示しています。

今回、新星爆発初期の軟X線閃光が通常の新星爆発の約100倍の明るさに達したこと、さらに明るいネオン輝線を含んでいることは、既存の新星爆発理論では説明できないため、理論の書き変えが必要になります。また、MAXI J0158-744の質量は、白色矮星の最大質量であるチャンドラセカール限界[6]ぎりぎりの値、もしくは、その値を超えている可能性があります。これは、天文学に広く影響を与える可能性があります。さらに、このような非常に重い白色矮星が珍しいタイプの連星系[7]の中に見つかったことで、連星進化モデルの再考も必要になると考えられます。

本研究成果は、米国の学術雑誌『Astrophysical Journal』(12月20日号)に掲載されるに先立ち、オンライン版に12月2日付けで掲載されます。

背景

太陽のような恒星は水素を燃料とした核融合反応によって輝いています。恒星は、内部の燃料を使い果たし活動末期になると、白色矮星と呼ばれる小さな暗い天体に変化します。別の恒星とペアを組んだ連星系の中にある白色矮星の場合、恒星から水素ガスが供給され表面に堆積します。それが白色矮星の強い表面重力により高温・高圧になると、爆発的な核融合反応が起こります。これを新星爆発と呼びます。この爆発により白色矮星からの放出物は、数日かけて太陽半径(約70万km)の約100倍に膨張します。膨張後、放出物の外側の低温の領域から目に見える可視光線が放射され、このとき1万倍近くも急激に明るくなり可視光の新天体として発見されます。その後、数十~数百日かけて緩やかに減光し、爆発前の状態に戻ります。紀元前から人類は、目視などにより新星爆発を観測してきました。現在の新たな新星爆発の発見では日本のアマチュア天文家が大活躍しています。ところで、似たような現象に「超新星爆発」がありますが、新星爆発が白色矮星表面だけで起こる現象であるのに対し、超新星爆発は、白色矮星や恒星全体が爆発で吹き飛んでしまう現象のことであり、2つは異なる爆発現象です。

通常の質量(重さ)を持った白色矮星上で発生する新星爆発の場合、爆発の放出物が膨張する前の短時間(点火から数時間の間)に紫外線(波長10~400 nm)の閃光が放出されることが理論的に予測されています。これを新星爆発の「火の玉フェイズ」と呼びますが、新星爆発がいつ・どこで発生するか予測することが不可能であるため、この現象が観測されたことはありません。一方、質量が大きい白色矮星の場合には、表面重力が強いため少量の堆積ガスで点火し、爆発の放出物が少なく白色矮星表面近くの高温の領域がむき出しになり、紫外線よりも波長の短い軟X線(波長0.5~10nm)の閃光が放出されると予測されています。しかしこの場合も、質量の大きな白色矮星上で発生する新星爆発の頻度が少ないこと、また、軟X線の波長域に高い感度を持つ全天監視装置がなかったため、火の玉フェイズが観測されたことはありませんでした。

研究手法と成果

MAXI研究グループは、宇宙航空研究開発機構(JAXA)が主導して国際宇宙ステーション(ISS)の日本実験棟「きぼう」の船外実験プラットフォームに搭載した全天X線監視装置「MAXI(マキシ)」を使って、日々、全天のX線天体を観測しています(図1)。

2011年11月11日、MAXI研究グループは地球から22万光年遠方に位置する小マゼラン星雲の東端に極めて明るい軟X線を放射する突発天体を発見し、この天体を「MAXI J0158-744」と名付けました(図2)。明るい軟X線放射(軟X線閃光)の継続時間は約1時間と短く(図3)、類似の現象としては、超新星爆発の瞬間に放射される軟X線閃光だけが知られていました。突発天体の早期の追跡観測を得意とするNASAのSwift 衛星チームに連絡し追跡観測したところ、X線を発する新天体の存在が確認できました。また、Swift衛星の紫外・可視光望遠鏡(UVOT)の観測により、このX線天体の位置に既知の恒星が検出され、突発天体の出現前よりも明るくなっていることが確認できました。しかし、可視光での増光はわずか2倍程度であり、超新星爆発で起こる約1万倍以上の増光に比べて桁違いに小さいため、超新星爆発の可能性は否定されました。したがって、今回観測した突発天体からの軟X線閃光は全く未知の天体現象であることが判明しました。

その後、共同研究グループは、MAXIによる3回のスキャン観測データを用いて、軟X線閃光の明るさ、温度、増光の速度を計算し、この天体現象が新星爆発の「火の玉フェイズ」であるという結論を得ました(図3)。新星爆発初期の「火の玉フェイズ」からの軟X線閃光を観測したのは史上初となります。しかし、MAXIが観測した軟X線閃光の明るさが通常の新星爆発の約100倍の明るさに達したこと、また、半日から1カ月の間に観測された「超軟X線放射フェイズ[8]」の開始時期が極めて早く、継続時間も通常の新星爆発の場合(数百~数千日)に比べて極めて短いことは、この新星爆発を引き起こした白色矮星の質量が非常に大きいことを示唆しています。それどころか、これらの観測値は既存の理論予測を超えており、MAXI J0158-744の質量が白色矮星の質量の理論的最大値(チャンドラセカール限界:太陽質量の1.4倍)ぎりぎりの値を持っているか、あるいはその値を超えていることを示唆しています。

さらに、MAXIの軟X線分光観測装置(SSC)は、火の玉フェイズの軟X線閃光から高温で電離したネオンの輝線を検出しました(図4)。この観測結果も、MAXI J0158-744が酸素とネオンで構成された重量級の白色矮星であることを支持します。

MAXIによる発見後のSwift 衛星のUVOT望遠鏡や地上望遠鏡(SMARTS、SAAO、ESO) による追跡観測により、MAXI J0158-744は大質量恒星(Be星)と白色矮星との連星系であることが分かりました(図5)。このような組み合わせの連星系は珍しく、また新星爆発が観測されたことも初めてのことです。

最後にまとめとして、通常の新星爆発とMAXI J0158-744の爆発とを比較した模式図を図6に示します。なお、天体の発見から論文発表までに時間を要したのは、先例のない軟X線閃光の強さと電離したネオン輝線の理解に時間を要したためです。

今後の期待

今回、MAXIで観測した新星爆発初期の軟X線閃光が、通常の新星爆発の約100倍の明るさに達したことや、ネオンの輝線放射を含んでいたことは、共同研究グループにとって想定外のことでした。これは、新星爆発の理論に修正を迫ることになります。また、この白色矮星の質量が白色矮星の最大質量であるチャンドラセカール限界ぎりぎりの値を持っているか、あるいはその値を超えている可能性があることは、天文学に広く影響を与えます。さらに、このような非常に大質量の白色矮星が珍しいタイプの連星系の中に見つかったことも意外でした。連星進化モデルの再考が必要になるでしょう。このように、今回の結果は、天文学に大きなインパクトを与えることが必至と考えられます。

MAXI研究グループは今後も、さまざまな種類のX線突発天体の観測を続けます。その中には、新種の天体の発見や天文学の常識を塗り替えるような発見が期待されます。

原論文情報

  • M. Morii, H. Tomida, M. Kimura, F. Suwa, H. Negoro, M. Serino, J. A. Kennea, K. L. Page, P. A. Curran, F. M. Walter, N. P. M. Kuin, T. Pritchard, S. Nakahira, K. Hiroi,  R. Usui, N. Kawai, J. P. Osborne, T. Mihara, M. Sugizaki, N. Gehrels, M. Kohama, T. Kotani, M. Matsuoka, M. Nakajima, P. W. A. Roming, T. Sakamoto, K. Sugimori, Y. Tsuboi, H. Tsunemi, Y. Ueda, S. Ueno and A. Yoshida.
    "Extraordinary Luminous Soft X-ray Transient MAXI J0158-744 as an Ignition of a Nova on a Very Massive O-Ne White Dwarf", Astrophysical Journal, 2013,

発表者

理化学研究所
グローバル研究クラスタ 宇宙観測実験連携研究グループ MAXIチーム
協力研究員 森井 幹雄 (もりい みきお)
専任研究員 三原 建弘 (みはら たてひろ)

報道担当

理化学研究所 広報室 報道担当
Tel: 048-467-9272 / Fax: 048-462-4715

補足説明

  • 1.白色矮星
    太陽のような恒星が年老いて水素燃料を使い果たした後に生成される天体。電子の縮退圧(電子が同じ量子状態を取れないという量子力学的性質を持つことにより発生する圧力)により、自己重力でつぶれることなくその形状を保っている。太陽の100分の1程度の大きさ(地球の大きさ程度)であるにもかかわらず、太陽と同じくらいの質量を持つ。大きな質量を持つ白色矮星ほど、半径が小さくなるという傾向がある。
  • 2.MAXI研究グループ
    理化学研究所(理研)、宇宙航空研究開発機構(JAXA)、大阪大学、東京工業大学、青山学院大学、日本大学、京都大学、中央大学、宮崎大学等の研究者による研究グループ。共同でMAXIを用いたX線天体の観測的研究を行っている。今回の研究成果には、特に理研、JAXA、東京工業大学、日本大学の研究者が貢献している。
  • 3.Swift(スウィフト)衛星チームの協力研究者
    Swift衛星は、ガンマ線バーストなどの突発天体の発見と、即時追跡観測を行うための専用望遠鏡衛星。MAXIが発見した突発天体の追跡観測を行うことに最も適した望遠鏡である。Swift衛星を主に用いてX線天体の観測的研究を行っている研究者の中から、米国、英国、豪州の研究者が今回の研究成果に貢献している。
  • 4.軟X線
    エネルギーの低い(波長の長い)X線。通常、数キロ電子ボルト以下のエネルギーを持ったX線のことを指す。
  • 5.通常の新星爆発時に比べ約100倍
    通常の新星爆発では、最も明るくなったときに、ほぼエディントン光度になることが知られている。エディントン光度とは、物質が天体に降着することで物質の重力エネルギーを解放して光る天体の最大光度。MAXI J0158-744の軟X線閃光の明るさは、エディントン光度の約100倍に達した。
  • 6.チャンドラセカール限界
    白色矮星の質量の理論的な最大値(太陽質量の1.4倍)。差動回転する白色矮星や強磁場の白色矮星ではチャンドラセカール限界を超える可能性が理論的に指摘されている。
  • 7.珍しいタイプの連星系
    MAXI J0158-744 は、白色矮星と大質量恒星(Be星)との連星系。白色矮星は年老いた星であるのに対して、Be星は若い星である。このことは、連星系中の2つの星が同時に誕生することと矛盾し、とても奇妙で珍しい連星系であると言える。連星系中の2つの天体が物質のやり取りを行いながら進化すると、このような連星系が生成される可能性があると理論的に指摘されていた。
  • 8.超軟X線放射フェイズ
    通常の質量を持った新星爆発の場合、可視光が減光してきた頃に、軟X線の増光が観測される。これを新星爆発の超軟X線放射フェイズと呼ぶ。このフェイズの開始時期と継続時間は、白色矮星の質量の関数であり、質量が大きいと、開始時期が早く、継続時間が短くなる。これまでに観測された新星爆発で最も早い開始時期は約10日後であった。MAXI J0158-744の開始時期は半日以下であり、圧倒的に早く、また理論予測を超えている。
全天X線監視装置「MAXI(マキシ)」の概要図

図1 全天X線監視装置「MAXI(マキシ)」

国際宇宙ステーション(International Space Station: ISS)の日本の実験モジュール「きぼう」の船外実験プラットフォームに搭載された全天X線監視装置。MAXI は、Monitor of All-sky X-ray Imageの略。ISSが地球の周りを約92分の周期で回っていることを利用して、同じ周期でほぼ全天のX線天体の活動を監視することができる。MAXIは、これまでで最も感度の良い全天X線監視装置である。ガス比例計数管を用いたGSC(Gas Slit Camera)と、X線CCDを用いたSSC(Solid-state Slit Camera)の2種類のX線カメラを搭載し、それぞれ2~30 keV (キロ電子ボルト)、0.5~12 keV のエネルギー帯域でX線天体の監視を行っている。特にSSCはエネルギーを識別する能力(分光能力)に優れているため、元素が出す特性X線を調べることで、X線を放出する元素の種類を識別することができる。MAXI は、2009年8月の運用開始以来、MAXI名を冠する新天体を11個、ブラックホール新星を7個発見している。これらの中には今まで知られていなかった新種の天体も含まれている。
MAXIの観測データは、理研内のホームページを通して世界中に公開されている。また、JAXAのホームページにもMAXIの概要が紹介されている(宇宙ステーション・きぼう広報・情報センター)。MAXIで得られた科学的成果は、MAXIサイエンスニュースに掲載されている。

MAXI J0158-744の爆発の瞬間を捉えたMAXIによる撮像画像の図

図2 MAXI J0158-744の爆発の瞬間を捉えたMAXIによる撮像画像

左上の方の明るいX線天体の大部分は銀河系中心方向に密集する中性子星連星。それに対しMAXI J0158-744は、銀河系中心方向から離れた小マゼラン星雲の領域で発生した(矢印)。明るさは既知の明るいX線を放出する天体を凌ぐ。画像の色はX線光子の「エネルギー」を表す(赤:2~4 keV、緑:4~10keV、青:10~20keV)。MAXI J0158-744は赤く、主に軟X線を放射していることが分かる。MAXIはこの92分後にもMAXI J0158-744の領域をスキャンしたが、その時にはすでに暗くなり、MAXIの検出感度限界以下だった。

MAXI J0158−744の光度曲線の図

図3 MAXI J0158−744の光度曲線

横軸は発見時刻からの経過時間(単位:日)、縦軸はX線(0.7 – 7 keV)の明るさ(光度; 単位:erg s-1)。それぞれ常用対数目盛。最初の5点がMAXIの観測点(□印3点:GSC、○印2点:SSC)、その後の観測点(△印)は追観測を行ったSwift衛星によって得られた。最初の3点の明るさは、エディントン光度(点線)の約100倍の明るさに達していた。MAXIの観測時期は火の玉フェイズ、Swift衛星の観測時期には超軟X線放射フェイズであった。

MAXIのSSCが観測したMAXI J0158−744のスペクトルの図

図4 MAXIのSSCが観測したMAXI J0158−744のスペクトル

0.9keVのところに強いピーク(輝線)が見られる。輝線は、元素により固有のエネルギー値をとるため、エネルギーの値により元素の種類が分かる。今回観測されたのはネオンの輝線であり、元素周期律表で近隣のマグネシウム、シリコンやアルゴンの輝線は見られなかった。このことから、MAXI J0158−744の爆発ガスがネオンを異常に多く含むことが分かり、MAXI J0158−744が重い白色矮星である酸素-ネオン白色矮星であったことを示唆している。

MAXI J0158−744の想像図の画像

図5 MAXI J0158−744の想像図

MAXI J0158−744は、ガス円盤を伴う大質量の青白い恒星(Be型星; 右)と白色矮星(左)との連星系であることが分かった。

通常の新星爆発とMAXI J0158-744との比較図

図6 通常の新星爆発とMAXI J0158-744との比較

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