広報活動

Print

2013年11月20日

理化学研究所

消える「魔法数」28

-重いマグネシウム同位体の原子核は全て大きく変形-

ポイント

  • RIビームファクトリー(RIBF)でマグネシウム-38の2つの励起準位を初観測
  • 中性子が非常に多い原子核では中性子数28の魔法数が消滅することを発見
  • RIBFでのデータ蓄積から原子核が変形する領域が核図表上で大きく広がることが判明

要旨

理化学研究所(理研、野依良治理事長)は、陽子数に対して中性子数が非常に多いマグネシウム同位体(38Mg:陽子数12、中性子数26)を生成、2つの励起準位を観測し、その比の値から38Mgの原子核が、魔法数を持つ原子核の特徴である球形ではなく、大きく回転楕円体に変形していることを見いだしました。これにより、魔法数とされていた中性子数28が魔法数でないことを発見しました。また、この大きな変形状態が中性子数22、24の時にも起きていることが分かりました。これは、理研仁科加速器研究センター(延與秀人センター長)櫻井RI物理研究室のピーター・ドーネンバル研究員を中心とする国際共同研究グループ[1]の成果です。

原子の中心に存在する原子核は陽子と中性子で構成され、原子核はこれらの組み合わせによりさまざまな特徴を示します。陽子や中性子がある特定の数「魔法数」の時、原子核は球形になり、硬くなることが知られています。自然界に存在する原子核では、2・8・20・28・50・82・126が魔法数で、物質の成り立ちを説明する物理学上の基本的な法則として、約半世紀にわたって普遍的な定数と考えられていました。しかし近年、理研をはじめとする放射性同位元素(RI)[2]ビームを用いた研究により、「魔法数は不変」という定説を覆すデータが次々と得られています。いくつかのRIでは、軽い中性子過剰核[3]の領域で魔法数が消滅し、一方で新しい魔法数が現れることが知られています。例えば、シリコン(Si:陽子数14)の場合、中性子数20は魔法数ですが、Siよりも陽子が2つ少ないMgの場合、この魔法数は消滅します。また、重いSi同位体では魔法数の28が消滅することが分かっているため、Mgでも消滅すると予測されていました。

国際共同研究グループは、世界最高性能の理研仁科加速器研究センターの重イオン加速器施設「RIビームファクトリー(RIBF)[4]」を使い、「38Mg」の励起状態を生成、2つの励起準位[5]を観測し、そのエネルギー値の比を求めることで魔法数28の有無を調べました。過去の研究から、この比が2よりも小さい場合はその原子核は魔法数を持つこと、3程度の場合はその原子核は魔法数を持たず原子核の形が変形することが分かっています。

38Mg の2つの励起準位を観測した結果、2つの励起準位のエネルギー値の比は3.07でした。このことから、38Mgの原子核は球形ではなく大きく回転楕円体に変形すると分かり、38Mgと中性子数の近い40Mg(中性子数28)も魔法数を持たない原子核、つまり魔法数28が消滅していることを見いだしました。同時に、中性子数22、24の時も、ほぼ同じ大きさで変形していることも分かりました。

核図表でMgの中性子数20の領域は「異常変形の島」と呼ばれていました。今回の発見とこれまでのRIBFで得られたデータから、中性子数20から28におけるネオン(Ne:陽子数10)からSiにかけて変形領域は「島」ではなく、「大陸」のように広がっていることが判明しました。今回の成果により、この特別な領域にひそむ新しい量子現象の研究が進展すると期待されます。

本研究成果は、米国の科学雑誌『Physical Review Letters』に掲載されるに先立ち、オンライン版(11月19日付け、日本時間11月20日)に掲載されます。

背景

原子の中心には核子(陽子と中性子)で構成される原子核があり、この核子の数により原子核の性質が変化します。原子核が比較的安定になる核子の数のことを魔法数と呼び、これまでに、2、8、20、28、50、82、126が知られています。元素の存在比は魔法数のところで多くなっており、「2」はヘリウム、「8」は酸素、「20」はカルシウム、「28」はニッケル、「50」はスズ、「82」は鉛など、陽子の魔法数に対応した元素はみな、おなじみのものであり、人間の生存にとって大切なものばかりです。

核子は、量子力学的にエネルギーが飛び飛びの軌道に入ります。これら軌道間のエネルギーが近い軌道群を「殻」と呼び、1つの殻にはいる核子の数は殻ごとに異なります(図1)。魔法数は、殻間のエネルギーが大きなところに現れます。1949年に、米国のマイヤーとドイツのイェンセンは、軌道や殻間のエネルギーギャップに関する、原子核の「殻構造」モデルを提唱することで魔法数を説明することに成功しました。この発見により2人は1963年にノーベル物理学賞を受賞しました。それ以来、魔法数は全ての原子核において変わらないものとして長く考えられてきました。

2000年以降、理研の研究グループは放射性同位元素(RI)ビームを利用した実験によって、陽子に比べ中性子の数が多い不安定原子核の領域では、魔法数8、20、28が消えて、新たな魔法数6、16、32が出現することを見いだしてきました。また、新たな魔法数34を発見し、今年10月に発表するなど、これまでの常識を次々に覆してきました。新しい魔法数が出現した理由は、特定の軌道のエネルギーが変わり、殻構造が変化したからだ、と考えられます。「殻構造が不安定核領域で変化する理由はなにか?」、「安定核と不安定核を統一的に理解して、原子核に現れる魔法数の法則性を明らかにできないか?」といった問いに対して、理研仁科加速器研究センターでは実験的な立証をするための挑戦が続けられており、重イオン加速器施設「RIビームファクトリー(RIBF)」を用いた未知の原子核領域で殻構造の変化や、魔法数が消滅・出現する現象などを探索しています。

今回、国際共同研究グループは、陽子に比べ中性子が非常に多いマグネシウム同位体で魔法数28が存在しているかどうかを検証するため、マグネシウム-38(38Mg:陽子数12、中性子数26)の「集団性」に着目しました。集団性とは、多数の核子が集まった時に、核子の間に働く力を単純に総和しただけでは起こらなかった回転運動や振動が生じる性質です。原子核は孤立した物質で表面が存在するために、集団性という原子核に特有の量子現象が起こります。魔法数を持つ原子核は球形をしていますが、魔法数を持たない場合は原子核全体(集団)が葉巻やミカンのように回転楕円体となります。この集団性を特徴づけるのが原子核の2つの励起準位のエネルギーの比です(図2)。過去の研究から、この比が2よりも小さい場合はその原子核は魔法数を持ち球形をとること、3程度の場合はその原子核は魔法数を持たないこと、3.3に近い場合は原子核が変形することが分かっています。そのため、その比を調べることで原子核が魔法数を持っているかどうか判断することができます。つまり、38Mgの集団性を調べることで、中性子数28が魔法数であるかどうかを判定できます。

研究手法と成果

国際共同研究グループは、38Mgの2つの励起準位を生成し、そのエネルギーを測定することでこの原子核の集団性を調べました。励起準位をつくる方法として、理研が独自開発した2段階破砕反応法[6]を用いました(図3)。

38Mgの励起準位を生成するために、まず超伝導リングサイクロトロン(SRC)[7]でカルシウム-48(48Ca:陽子数20、中性子数28)を光速の約70%(核子当たり345 MeV:メガ電子ボルト)まで加速して、標的原子核のベリリウム(Be)に照射し、核破砕反応を起こさせます。すると48Caの陽子や中性子がはぎ取られて、さまざまな種類の原子核ができます。次に、その中から、超伝導RIビーム生成分離装置(BigRIPS)[8]を用いてアルミニウム-39(39Al:陽子数13、中性子数26)とケイ素-40(40Si:陽子数14、中性子数26)をビームとして分離・生成します。これらのRIは、38Mgに比べて陽子数が1つ2つ多く、中性子数は同じです。次に、この39Alと40Siのビームを炭素標的に照射し、2回目の核破砕反応を起こさせて陽子をはぎ取り38Mgを生成しました。

また、炭素標的への照射による38Mgの生成と同時に放出されるガンマ線を、高効率ガンマ線検出器で測定しました。その結果、656keV(キロ電子ボルト)と2016keVに38Mgの励起準位があることを観測しました。38Mgの2つの励起準位のエネルギー値から得られたエネルギーの比は3.07で、38Mgは大きく回転楕円体に変形していることが分かりました。中性子数28が魔法数の場合は、エネルギー比が2程度になることから、38Mgと中性子数の近い40Mg(中性子数28)でも魔法数28が消滅していることが分かりました(図4)。さらに、中性子数22、24の34Mgと36Mgのデータも同時に取得したところ、驚くべきことにエネルギー比は、それぞれ3.14、3.07となり、38Mgとほぼ同じ値でした。

質量数(陽子と中性子の合計数)が40以下の軽い中性子過剰核の領域では、陽子数や中性子数を変えると多種多様に集団性が変化することが知られています。一方、今回の実験では、中性子数が変化しても一様に集団性が変化しました。実験で明らかになった重い中性子過剰なMgに現れる核図表上の変形領域(34Mg、36Mg、38Mg、40Mg)を、理論計算で再現するためには中性子数28の魔法数を消滅させる必要があります。このことからも、中性子数28は魔法数でないことが確認できます。中性子過剰なMgでは、これまで中性子数20で魔法数が消滅していることが分かっており、中性子数28も魔法数でないことから、重いMgには魔法数がありません。今回の実験により、安定核領域で見いだされた魔法数20、28がともにMgで消滅することが分かりました(図5)。核図表でMgの中性子数20の領域は「異常変形の島」と呼ばれていました。今回の発見とこれまでのRIBFで得られたデータから、中性子数20から28におけるネオン(Ne:陽子数10)からSiにかけて変形領域は「島」ではなく、「大陸」のように広がっていることが判明しました。

今後の期待

今回見いだされた変形領域(34Mg、36Mg、38Mg、40Mg)の原子核は、中性子が非常に過剰で、中性子の束縛エネルギーが小さく、中性子だけが原子核の表面に存在する中性子スキン構造[9]を持っていると考えられます。そして、これらの原子核の形は大きく変形していることが分かりました。このように中性子過剰領域の中で、形が大きく変形している原子核がある領域は非常に珍しく、今後、この領域の原子核を詳細に調べることで、中性子過剰領域に特有の新しい量子現象を発見できる可能性があります。

スキン構造は、いわば中性子が原子核の表面にしみだしていると例えることができます。しかし、この領域の原子核は変形しているので、「そのしみだし方は球対称で一様なのか?」という疑問が生じます。もし一様でない場合、陽子物質と中性子物質の変形度が異なっているかもしれません。また、束縛エネルギーが小さいと中性子同士が対をつくりやすいと考えられており、この対が外側にはみでることで変形を促進しているのかもしれません。これらの疑問に答えるためには、原子核のサイズを測定したり、陽子・中性子物質の変形度をそれぞれ独立に測定したり、人工的に中性子対を付けたり、抜いたりして中性子対の存在する確率を調べる実験が必要です。こうした原子核が変形する領域の研究によって、数多くの粒子からなる量子多体系に現れる特異の現象が発見される可能性があり、未知の量子メカニズムの解明に向け、今後ますます注目されていくと考えられます。また、RIBFは今回のような中性子が非常に過剰な原子核の研究を行うことができる世界で唯一の実験施設であり、不安定原子核をも含む原子核の成り立ちの普遍的理解に向け、未踏の領域における新奇の現象の発見が期待できます。

原論文情報

  • P. Doornenbal, H. Scheit, S. Takeuchi, N. Aoi, K. Li, M. Matsushita, D. Steppenbeck, H. Wang, H. Baba, H. Crawford, C.R. Hoffman, R. Hughes, E. Ideguchi, N. Kobayashi, Y. Kondo, J. Lee, S. Michimasa, T. Motobayashi, H. Sakurai, M. Takechi, Y. Togano, R. Winkler, and K. Yoneda:
    "In-beam gamma-ray spectroscopy of 34,36,38Mg: Merging the N = 20 and N = 28 shell quenching" Physical Review Letters , 2013

発表者

理化学研究所
仁科加速器研究センター 櫻井RI物理研究室
研究員 ピーター ドーネンバル
主任研究員 櫻井 博儀 (さくらい ひろよし)

お問い合わせ先

仁科加速器研究推進室
Tel: 048-467-9451 / Fax: 048-461-5301

報道担当

理化学研究所 広報室 報道担当
Tel: 048-467-9272 / Fax: 048-462-4715

このページのトップへ

補足説明

  1. 国際共同研究グループ
    理化学研究所、東京大学、東京工業大学、立教大学、中国の北京大学、米国のバークレー国立研究所、アルゴンヌ国立研究所、リッチモンド大学、ミシガン州立大学。
  2. 放射性同位元素(RI)
    放射線を放出し崩壊する原子核。ラジオアイソトープ(RI)。放射性同位体、不安定核、短寿命核とも呼ばれる。理論的には約1万種が存在すると言われている。一方、地球上にある物質は寿命が無限かそれに近い安定核(安定同位体)で構成されている。安定同位体は約270種ある。
  3. 中性子過剰核
    安定同位体と比較して中性子を多く含んだ不安定核。ほとんどはベータ崩壊を起こし、原子番号が1つ大きな核種に壊変する。陽子と比べて中性子の分布が大きくひろがった中性子ハローや、既知の魔法数の消滅や新魔法数の出現などの興味深い現象が見つかっている。
  4. RIビームファクトリー(RIBF)
    RI ビーム発生系施設と独創的な基幹実験設備で構成される理研の重イオン加速器施設。RI ビーム発生系は加速器群(1基の線形加速器、4 基のリングサイクロトロン)と超伝導RI ビーム分離装置(BigRIPS)で構成される。これまで生成不可能であったRI も生成でき、世界最多となる約4,000 種のRIを生成する性能を持つ。
  5. 励起準位
    原子と同じように、原子核にはエネルギーが最も低い基底状態と基底状態に比べてエネルギーの高い励起準位がある。励起準位は複数あり、量子論的に飛び飛びの値をとる。今回取り扱った励起準位は第一励起準位と第二励起準位で、それぞれ基底状態よりもエネルギーが高いところに現れる1番目、2番目の励起準位。
  6. 2段階破砕反応法
    加速器で加速した1次ビームから直接研究対象となる原子核を作らず、中間段階の原子核をRIビームとして取り出し、2次反応で対象核をつくる方法。励起した原子核から放出されるガンマ線を観測するにはこの方法が非常に有効。RIBFではBigRIPSとゼロ度スペクトロメータを組み合わせて、簡単に実験することができる。
  7. 超伝導リングサイクロトロン(SRC)
    リングサイクロトロンの1種。サイクロトロンの心臓部に当たる電磁石に超伝導を活用し、高い磁場を発生できる。全体を純鉄のシールドで覆い、磁場の漏洩を防ぐ自己漏洩磁気遮断の機能を付与している。総重量は8,300トン。このSRCを使い非常に重い元素であるウランを光の70%まで加速できる。また、超伝導という方式によって従来の方法に比べ100分の1の電力で動かせるようになり、大幅な省エネも実現している。
  8. 超伝導RIビーム生成分離装置(BigRIPS)
    標的では1次ビームが反応によってRIに変わるが、このRIを集めて必要とするRIを分離し、供給する装置。BigRIPSは、RIの収集能力を高めるため、超伝導四重極電磁石が採用されており、ドイツの重イオン研究所(GSI)など他の施設に比べ約10倍の明るさを持つ。
  9. 中性子スキン構造
    中性子過剰な原子核では、原子核内の陽子物質の半径に比べて、中性子物質の半径が大きくなり、原子核の表面に中性子が皮のように存在する。このような核の構造を中性子スキン構造という。中性子が非常に多くなると必ず中性子スキン構造が現われる。中性子スキンの内側には陽子と中性子が存在しているが、中性子スキン内は中性子のみで構成されており、このような特殊な構造に由来する新しい量子現象が議論されている。

このページのトップへ

安定核での殻構造の図

図1 安定核での殻構造

左端の四角はそれぞれの殻に入る核子の数、丸で囲ってある数値は魔法数を示す。

原子核の魔法数と集団性の図

図2 原子核の魔法数と集団性

原子の集団性とは、原子核に特有の量子現象。魔法数を持つ原子核は球形をし、魔法数を持たない原子核は球対称性が自発的に破れ、葉巻やミカンのような回転楕円体に変形する。集団性を特徴づけるのが原子核の2つの励起準位のエネルギーの比。魔法数を持つ原子核はこの比が2よりも小さく、集団性が大きく変形すると3.3に近い値となる。

実験の概略図の画像

図3 実験の概略図

38Mgの励起準位を生成するために、まず超伝導リングサイクロトロン(SRC)で48Ca(陽子数20、中性子数28)を光速の約70%まで加速し、標的原子核のBeに照射し核破砕反応を起こさせる。すると、48Caの陽子や中性子がはぎ取られさまざまな種類の原子核ができる。次に、その中から、BigRIPSを用いて38Mgに比べて陽子数が1つ2つ多く、中性子数が同じである不安定核の39Al(陽子数13、中性子数26)と40Si(陽子数14、中性子数26)をビームとして分離・生成する。これらのビームを炭素標的に照射し、2回目の核破砕反応を起こし陽子をはぎとることで、38Mgを生成した。38Mgの生成は、ゼロ度スペクトロメータで確認した。

核図表と原子核の魔法数の図

図4 核図表と原子核の魔法数

この図は、陽子数(縦軸)と中性子数(横軸)を座標軸にとって、既知および概念上の核種全てを配置したもので、核図表と呼ぶ。黒い四角は安定な原子核で、魔法数2、8、20、28、50、82、126が知られている。陽子に比べ中性子の数が多い中性子過剰核の領域では、魔法数のうち8、20、28が消えて、新たに魔法数6、16、32、34が現れる。今回、中性子過剰なマグネシウム同位体38Mgの研究から、中性子数28の魔法数が消えていることが分かった。

大陸状に広がっている変形領域の図

図5 大陸状に広がっている変形領域

2001年当時、Ne-Mgで中性子数20の領域は、20が魔法数であるにも関わらず原子核が球形でなく、大きく変形していることが分かり、「異常変形の島」と呼ばれていた。RIBFが2007年より本格的に稼働し、この領域のデータが蓄積するにつれ、変形領域が「島」状ではなく「大陸」のように大きく広がっていることが分かってきた。2012年には42Si(原子番号14、中性子数28)で魔法数28が消滅していることが分かっている。また、中性子過剰なMgでは、これまで中性子数20で魔法数が消滅していることが分かっており、今回の実験により、魔法数28もマグネシウム同位体で消滅していることが判明した。

このページのトップへ