広報活動

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2013年12月11日

理化学研究所

スピン流を高感度に検出する酸化物材料

-革新的省電力デバイスの実現へ前進-

模式図と走査型電子顕微鏡像

測定に用いた素子の模式図(上図)と走査型電子顕微鏡像(下図)

物体の電気抵抗の大きさは、皆さんがご存じのように断面積の大きさに反比例し、長さに比例します。太くて短いと電気をよく通し、細くて長いと通しにくいということになります。半導体など電子デバイスは微細化が進み、線幅は数十ナノメートル(nm)単位のところまで来ています。しかし、幅が狭くなるほど、問題になるのは電気抵抗による発熱の増加です。

そんな中、注目を浴びているのが「スピン流」です。電子は「電荷」に加え「スピン」という磁石としての性質を持ちます。スピンは地球の自転に似た角運動量のことです。電荷の流れである電流では電気抵抗があれば発熱しますが、磁気の流れであるスピン流は電気抵抗による発熱がなく、省電力デバイスへの応用が期待されています。しかし、その実現にはスピン流を効率よく検出する手法の確立が不可欠です。白金などの重金属を用いると、電子のスピンと軌道運動の間で起こる磁気的な相互作用である「スピン-軌道相互作用」により、スピン流から生じた電流を電圧として変換できます。ただ、生じた電流を大きな電圧として取り出すには高い電気抵抗率が必要ですが、金属の電気抵抗率は1μΩcm(マイクロオームセンチメートル)程度と低く、取り出せる電圧は低いものに留まっていました。

共同研究グループは、強いスピン-軌道相互作用と高い電気抵抗率を併せ持つ材料として、元素周期表の第6周期に属する遷移元素(5d遷移金属)の酸化物に着目しました。その1つである電気抵抗率200μΩcmの二酸化イリジウムの結晶を調べたところ、スピン流から電圧への変換効率が金属の数十倍に達することを発見しました。実験では、二酸化イリジウム薄膜を細線状に微細加工し、冷却しながらスピン流の源となる金属の面内スピンバルブ素子を蒸着によって形成し、良好な接合界面を持つ素子構造を1μm以下のサイズで作製しました。実際に、この界面を通してスピン流を注入したところ、室温で、スピン流から電流を生成している証明となる「逆スピンホール効果」を示しました。また、スピン流を電圧として検出する際の性能指数であるスピンホール抵抗率は、世界最高クラスの8~37.5μΩcmになることが分りました。

今回の成果を含む5d遷移金属酸化物の研究は、その桁違いのスピン-軌道相互作用が他の材料にはない電子物性やデバイス機能を創りだすことを実証しつつあります。スピンの操作を可能とする5d遷移金属酸化物の省電力スピントロニクスデバイス材料としての可能性が広がります。

理化学研究所
主任研究員研究室 高木磁性研究室
主任研究員 髙木 英典 (たかぎ ひでのり)
(東京大学 理学系研究科 教授)