広報活動

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2013年12月20日

理化学研究所

3次元半導体物質におけるベリー位相の検出に成功

-電子スピンの幾何学的性質により定まる量子力学的位相を発見-

波数空間におけるラシュバ型電子スピンの幾何学的構造

波数空間におけるラシュバ型電子スピンの幾何学的構造

電子は電荷とスピンの両方を持ちますが、その一方の電子スピンには上向きと下向きの状態があります。最近、注目されている「スピントロニクス」は、その状態をデジタル信号の「0」と「1」に置き換えて信号処理を行う仕組みを基本にした技術です。電子スピンは高速応答性に優れ、伝達時に熱を発生しないことから高速・低消費電力のデバイスへの応用が期待されています。

電子スピンをデバイスに応用するには、0と1に対応して特定の方向にスピンをそろえることが必要です。その制御に利用する作用がスピン-軌道相互作用です。難しく言うと「電場の中を運動する電子が磁場を感じ、スピン方向が運動方向に対し特定な方向に固定されること」になりますが、簡単にいえば「電場によってスピンの制御を可能にする作用」です。これを実現するために、電子の運動方向とスピンの向きが連動する「ラシュバ効果」の応用が期待されています。

理研の研究者を中心とした共同研究グループは、ビスマス、テルル、ヨウ素を使い結晶構造に極性を持つ3次元の半導体物質「BiTeI」を作り、電気抵抗率の量子振動を、測定を通して電子状態について調べました。この場合、電気抵抗が磁場の関数として振動します。その結果、スピン-軌道相互作用によって電子の運動方向とスピンの向きが連動する、環状のラシュバ型電子スピン構造が持つ「ベリー位相」の検出に成功しました。ベリー位相は、時間的に変化する“通常の”量子力学的位相とは異なり、量子空間でスピンのたどる経路によって決まる量子力学的な位相です。さまざまな現象に現れる普遍的な位相ですが、通常の半導体ではラシュバ効果が小さく実験的な検出は容易ではありませんでした。電子スピンが作り出すベリー位相を3次元の半導体物質において検出したのは初めてです。今回、検出できた理由は、半導体物質「BiTeI」が持つ巨大なスピン分裂エネルギーで、上(右)向きスピンと下(左)向きスピン状態のエネルギーが大きく分裂することによって、ラシュバ型電子スピン構造が強い磁場の中でも安定して存在したからです。

ベリー位相の定量的な解析によって物質中の電子スピンの振る舞いを読み解くことが可能になれば、多様な物性の理解が進み、新しい量子現象の開拓やスピントロニクス分野での応用につながることが期待されます。

理化学研究所
創発物性科学研究センター 強相関物理部門 強相関量子伝導研究チーム
客員研究員 村川 寛 (むらかわ ひろし)
(現在勤務先 大阪大学大学院理学研究科物理学専攻)