広報活動

Print

2014年1月16日

理化学研究所

フラボノイドの高蓄積が酸化と乾燥ストレスへの耐性を高める

-農作物の複数ストレス耐性獲得-

ポイント

  • 転写因子の二重過剰発現による植物フラボノイドの高蓄積を実現
  • 植物フラボノイドが植物体内で酸化と乾燥ストレスに対する抵抗性を付与
  • 乾燥ストレス時における植物フラボノイドの水分保持に関わる役割を特定

要旨

理化学研究所(理研、野依良治理事長)は、モデル実験植物のシロイヌナズナ[1]を用い、植物の代表的な特異的代謝物[2]フラボノイド[3]が環境から受ける生体内のストレスを緩和すること、およびフラボノイドの高蓄積が酸化と乾燥ストレスへの耐性を向上させることを明らかにしました。これは、理研環境資源科学研究センター(篠崎一雄センター長)統合メタボロミクス研究グループの中林亮特別研究員、斉藤和季グループディレクターらによる共同研究グループの成果です。

植物は、環境ストレスに適応するためにさまざまな特異的代謝物を生合成していると考えられています。代表的な特異的代謝物の1つであるフラボノイドは、抗酸化活性やアレロパシー[4]活性など多岐にわたる有益な生物活性を示すことから、医薬学的あるいは農学的に注目されています。植物は、体内においてフラボノイドの抗酸化活性により環境ストレスを緩和していると考えられていますが、これまでに実験的な証明はされていませんでした。

共同研究グループは、まずシロイヌナズナの野生株とフラボノイド過剰蓄積変異体、および欠損変異体を用いて、細胞内の低分子代謝物を網羅的に解析する「メタボロミクス 」と転写産物を網羅的に解析する「トランスクリプトミクス 」を行いました。その結果、これら植物体の間では、フラボノイド分子の蓄積量とフラボノイド生合成遺伝子の発現量に顕著な差があることが分かりました。次に、これら植物体を用いてフラボノイドが、酸化や乾燥などの非生物学的ストレス下において活性酸素種(ROS)[5]の除去に関与するかを調べました。抗酸化活性試験を行ったところ、フラボノイドの一種で、強い抗酸化活性能を持つアントシアニン[6]の過剰蓄積が、酸化および乾燥ストレス下でROS除去を促進し、それぞれのストレス耐性獲得に寄与することが分かりました。さらに、変異体の水分損失量が野生株に比べて少ないことも分かりました。ROSの蓄積は、昆虫の食害や、ウイルスや細菌の感染などの生物学的ストレスでも誘導されます。フラボノイドのROS除去能を用いることで、非生物学的ストレスのみならず生物学的ストレスに対する耐性の向上への応用が期待できます。

本研究成果は、英国の科学雑誌『The Plant Journal』のオンライン版(12月17日付け)に掲載されました。

背景

環境ストレスの中でも光や低温、あるいは乾燥といった非生物学的ストレスは、農産物の生産に大きな影響を与えます。近年、ファイトケミカルゲノミクス[7]や作物育種研究により植物の環境ストレスへの応答機構の基礎的理解を深め、得られた知見をストレス耐性向上に関係する研究へと応用展開することが求められています。

フラボノイドは代表的な植物特異的代謝物の1つであり、抗酸化活性やアレロパシー活性など多くの生物活性を示す実験結果が報告されています。植物は、体内においてフラボノイドの抗酸化活性により環境ストレスを緩和していると考えられていますが、これまでに実験的な証明はなされていませんでした。そこで共同研究グループは、シロイヌナズナの野生株とフラボノイド過剰蓄積変異体および欠損変異体を用いてフラボノイドの生体内ストレス緩和能を調べました。

研究手法と成果

共同研究グループは、①シロイヌナズナの野生株Col-0、②フラボノイド生合成制御転写因子単一過剰発現体(MYB12OXおよびpap1-D)、③フラボノイド生合成制御転写因子二重過剰発現体(WOX1-1およびWOX1-2)、④フラボノイド欠損変異体(tt4)、⑤MYB過剰発現フラボノイド欠損変異体(MYB12OX/tt4およびpap1-D/tt4)を用いて実験を行いました。

まず、フラボノイド生合成の誘導が環境ストレス耐性獲得に関連する遺伝子の発現にどう影響するかを調べるため、これら植物体を対象に細胞内の低分子代謝物を網羅的に解析する「メタボロミクス」と転写産物を網羅的に解析する「トランスクリプトミクス」を行いました。その結果、寒天培地上で栽培したこれら植物体の間では、フラボノイド分子の蓄積量とフラボノイド生合成遺伝子の発現量に顕著な差があることが分かりました(A)。また、ホルモノーム分析[8]により、こうしたフラボノイド生合成の誘導は、植物ホルモンの1つ「アブシジン酸[9]」の蓄積に影響を与えないことが明らかとなりました。

次に、これら植物体を用いてフラボノイドが非生物学的ストレス下において植物体内のROSの蓄積を緩和するかを調べました。抗酸化活性試験を行った結果、フラボノイドの一種で、強い抗酸化活性能を持つアントシアニンの過剰蓄積(B)が、酸化と乾燥ストレス下においてROS蓄積を緩和し、それぞれの耐性の獲得に寄与していることが分かりました(C)。

さらに、水分損失量を精査したところ、MYB12OX、pap1-DおよびWOX1の水分損失量は野生株Col-0に比べて少ないことが明らかとなりました。フラボノイドなどの抗酸化物質は、浸透圧調節因子として生体内における水分の保持に関わっていると考えられています。これらの結果は、フラボノイド過剰蓄積により、ROS蓄積の緩和能と保水能を向上させることで乾燥ストレス耐性を改善できることを示しています。

今後の期待

今回の成果により、フラボノイドの生体内ストレス緩和能が実験的に明らかにされ、フラボノイドの高蓄積は非生物学的ストレスに対する耐性の向上に有効なことが示されました。ROSの蓄積は、昆虫の食害や、ウイルスや細菌の感染などの生物学的ストレスでも誘導されます。重要な農産物の1つであるトマトでは、フラボノイド高蓄積による抗酸化能の向上によって、ポストハーベストで問題となっている病原菌ボトリティス シネレア(Botrytis cinerea)の感染が抑制されるという報告があります。これらの事実は、フラボノイドの高蓄積が複数のストレス耐性を同時に向上させる可能性を示しています。今後、シロイヌナズナを用いて、フラボノイドはどのようなストレス対して有効かを調べることで、その知見を応用した作物育種による農作物の環境ストレス耐性の改善が期待できます。

原論文情報

  • Ryo Nakabayashi, Keiko Yonekura-Sakakibara, Kaoru Urano, Makoto Suzuki, Yutaka Yamada, Tomoko Nishizawa,Fumio Matsuda, Mikiko Kojima, Hitoshi Sakakibara, Kazuo Shinozaki, Anthony J. Michael, Takayuki Tohge,Mami Yamazaki and Kazuki Saito.
    "Enhancement of oxidative and drought tolerance in Arabidopsis by overaccumulation of antioxidant flavonoids".The Plant Journal, 2013, doi: 10.1111/tpj.12388

発表者

理化学研究所
環境資源科学研究センター 統合メタボロミクス研究グループ
特別研究員 中林 亮 (なかばやし りょう)
グループディレクター 斉藤 和季 (さいとう かずき)

お問い合わせ先

環境資源科学研究推進室
Tel: 048-467-9449 / FAX: 048-465-8048

報道担当

理化学研究所 広報室 報道担当
Tel: 048-467-9272 / Fax: 048-462-4715
お問い合わせフォーム

産業利用に関するお問い合わせ

理化学研究所 社会知創成事業 連携推進部
お問い合わせフォーム

このページのトップへ

補足説明

  1. シロイヌナズナ
    2000年に全ゲノムが解読されたモデル実験植物。
  2. 特異的代謝物
    生命維持に必ずしも必須ではない有機化合物の総称。生物種によって特異的な代謝物が多いことからこのように呼ばれる。二次代謝物とも呼ばれる。
  3. フラボノイド
    天然に存在する有機化合物群で、クマル酸CoAとマロニルCoAから生合成される化合物の総称。
  4. アレロパシー
    ある植物が放出する化合物が、特定の生物(微生物、昆虫あるいは植物)に対して阻害的あるいは促進的な作用を及ぼす現象。アレロパシーに関する化合物をアレロケミカルといい、フラボノイドはその1つと考えられている。
  5. 活性酸素種(ROS)
    スーパーオキシド、ヒドロキシルラジカル、過酸化水素、一重項酸素の総称。ROSはreactive oxygen speciesの略。
  6. アントシアニン
    フラボノイドの一種。植物界に広く存在する色素。
  7. ファイトケミカルゲノミクス
    天然物化学、生化学、分子生物学、遺伝学といった従来の研究分野とゲノミクス、トランスクリプトミクス、プロテオミクス、メタボロミクスやバイオインフォマティクス(生物情報学)などの比較的新しい分野とを統合し,ゲノムから代謝物レベルまで横断的に植物代謝物に関する事象を解明する研究分野のこと。
  8. ホルモノーム分析
    細胞内に含まれる植物ホルモンの網羅的な解析。
  9. アブシジン酸
    気孔閉鎖や乾燥ストレス応答などにおいて鍵となる植物ホルモンの1種。

このページのトップへ

フラボノイドの過剰蓄積がストレス耐性を向上させる

図 フラボノイドの過剰蓄積がストレス耐性を向上させる

  • メタボロミクスによる主成分分析。黒の丸(破線)がフラボノイド過剰蓄積株を示す。
  • 各植物体におけるフラボノイドのラジカル補足能。ラジカル補足能が高いほど、抗酸化活性能が高いことを示す。
  • フラボノイド過剰蓄積による乾燥ストレス耐性が高い変異体は生育が良い。

このページのトップへ