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2014年2月19日

理化学研究所

記憶中枢「海馬」の小領域CA2の機能が明らかに

-CA2は小さな環境変化を認識-

海馬全体のイメージング図

海馬全体のイメージング

「海馬」は、記憶や空間学習に関わる脳の器官です。とくに記憶の形成や、現在得た情報と過去の記憶とを比較する場合に重要な役割を果たします。例えば、私たちは、他人の家を訪ねたときなどに「以前、ここに来たことがあるだろうか?」と思うことがあります。この疑問に答えるために海馬は過去の記憶を使い、今いる場所が過去に来たことがあるか、初めて来たところかを簡単に認識し、判断しています。しかし、慣れ親しんだ自分の家に帰ったとき、新しい画が飾られていたり、家具の置き場所が少しずれていたりしてもなかなか気づきません。この原因は、現在の情報と過去の記憶とを比較する場合に、両者の重複が多ければ多いほど、それらを区別するのが難しくなるからだとされています。

海馬は、いくつかの小さな領域が連結した形で構成されていますが、その1つである「CA2」という領域は、サイズが比較的小さいことや、隣にあるCA1やCA3に機能が類似するものと考えられていたため、長い間注目されていませんでした。そこで、理研の研究チームはマウスを用いて、違う環境に移動したときに、CA1、CA2、CA3のそれぞれの領域の神経細胞がどのような動きを示すかについて調べ、CA2の役割の解明に取り組みました。

研究チームは、まず、マウスをある環境に慣れさせ、その後、全く違う環境と、ほんの少しだけ違う環境に移動した場合について、活動する海馬の神経細胞を観察しました。神経細胞が活動すると発現する遺伝子を蛍光染色し、CA1、CA2、CA3それぞれの神経細胞を可視化して観察しました。その結果、マウスが、ほんの少しだけ違う環境(いくつか新しいものを置いただけの環境)に移動したとき活動する神経細胞のパターンが、CA2だけ完全に変わってしまうことが分かりました。これは、海馬全体では大きな環境の変化は意識できるものの、小さな環境の変化は認識できず、小さな環境変化を認識する役割はCA2が担っていることを示しています。また、CA2の神経細胞の活動を阻害した遺伝子改変マウスは、正常なマウスに比べ新しい環境に移動しても、その環境についての探索を行わないことも分かりました。これらから、CA2は記憶の形とその更新に重要な役割を持っていることが明らかになりました。

今回得られた成果は、CA2を対象とした脳科学研究だけでなく、ヒトの脳の理解にもつながります。統合失調症や躁うつ病の患者は、初期段階でCA2の異常が生じることが知られています。研究を進めていく中でCA2と精神疾患の関係がより明らかになるものと期待されます。

理化学研究所
脳科学総合研究センター 神経回路・行動生理学研究チーム
チームリーダー MCHUGH Thomas John