広報活動

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2014年3月15日

独立行政法人理化学研究所
公益財団法人高輝度光科学研究センター
大学共同利用機関法人自然科学研究機構分子科学研究所

SACLAの「目」である高性能X線イメージング検出器を開発

-高い放射線耐性・電場が崩れない電荷収集・高速動作・大面積の高仕様を実現-

ポイント

  • SACLAで照らし出した世界を捉える「目」の役割を果たす
  • SACLAの基幹技術となるX線イメージング検出器の開発に成功
  • CCDセンサーの先端技術を駆使、総合性能と安定性で世界最高性能

要旨

理化学研究所(理研、野依良治理事長)と高輝度光科学研究センター(土肥義治理事長)は、X線自由電子レーザー(XFEL)施設「SACLA」[1]で使用するX線イメージング検出器「マルチポートCCD検出器」の開発に成功しました。これは、理研放射光科学研究センター(石川哲也センター長)ビームライン研究開発グループ・データ処理系開発チームの初井宇記チームリーダーと高輝度光科学研究センターXFEL利用研究推進室の亀島敬研究員、および分子科学研究所の技術課光技術班堀米利夫班長、明星電気株式会社技術本部の村尾一主幹、英国e2v社デビッド・バート博士、英国XCam社アンドリュー・ホランドCTO、カレン・ホーランドCEOらの国際共同研究開発グループによる成果です。

X線自由電子レーザー施設「SACLA」は、物質内の原子の動きを知るための強力な手段です。SACLAを使う実験では、発生させたX線レーザーを計測対象(試料)に照射し、散乱または透過したX線のパターンをX線イメージング検出器によって測定します。X線パターンを高い精度で測定するためには、1) 強い放射線耐久性、2)多くのX線光子を測定するための効率的な電荷収集、3)SACLAの全X線レーザーショット(1秒間に60回)を正確に測定する性能、4) 100 mm×100 mmを超える大面積のセンサーを備えることが要求されます。しかし、これらの性能を全て満たす高性能なX線イメージング検出器は存在しませんでした。

そこで、共同開発グループは、CCD(電荷結合素子)センサー[2]の先端技術を駆使することで、X線パターンの高精度測定に必要な条件を満たす「マルチポートCCD検出器」を開発しました。これにより、SACLAの過酷な放射線環境下で、X線光子を広い面積で1個以下の微弱な信号から数千個を超える強い信号までを、同時にかつ正確に測ることが可能になりました。また、SACLAのX線パルスの繰り返しと同期した動作が可能で、短時間で大容量のデータ取得ができます。開発されたX線イメージング検出器は、XFELサイエンスを支える大きな技術基盤で、XFEL利用実験のデータの質と量の向上・新たな実験手法の開拓などの点でXFELを使った数多くの利用研究に広く波及することが期待されます。

本研究の一部は文部科学省X線自由電子レーザー利用推進研究課題として行われ、米国の科学雑誌『Review of Scientific Instruments』オンライン版(3月26日付け:日本時間3月27日)に掲載されます。

背景

X線自由電子レーザー(XFEL)施設「SACLA」のXFEL光は、大型放射光施設「SPring-8[3]」の放射光よりも約100億倍明るいことに加えて、パルス幅が約1,000分の1の10フェムト秒以下と非常に短いのが特徴です。さらにX線の波が全てそろったコヒーレンス性を備えています。これらの特徴を利用して、未知のX線現象の発見や、創薬につながるタンパク質の構造解析や、触媒の反応メカニズムを探る原子レベルの実時間観測といった基礎科学分野から、レーザピーニング[4]による金属疲労防止効果のメカニズム解明などの産業利用分野まで、多岐にわたる研究テーマが実施されています。

X線イメージ検出器は、これら全ての実験に必須です。SACLAで発生させたX線パルスが試料に照射されたのち、透過もしくは回折してくるX線を正確に捉える「目」の役割を担うのが、X線イメージ検出器だからです。この「目」には、SACLAの光の特性を最大限に活用し、高精度な計測を実現するべく、1光子以下の微弱な信号から数千光子を超える強い信号まで正確に測ることが求められています。しかし、このような高いスペックを満たす検出器はこれまで存在しませんでした。

第1の課題は放射線への耐久性です。XFEL 用のイメージ検出器に求められる性能を実現できるのは、現時点では半導体センサーだけです。しかし、半導体センサーは精緻な部品で、X 線が大量に照射されると損傷を起こし壊れてしまいます。XFELで用いられる場合、センサーは1 年間で医療用レントゲン撮影の1 億回以上のX 線量を浴びると予想されており、この過酷な使用環境に耐えなければなりません。

2つ目は、多くのX線光子を検出するための電荷の集め方です。X 線はセンサーの中でプラスとマイナスの電荷に変換されます。マイナスの電荷はプラスの電極に、プラスの電荷はマイナスの電極に集めて電気信号として検出します。XFEL実験では、数フェムト秒(1フェムト秒は10-15 秒)という短い時間内に飛来する数多くのX線光子が検出器に到達するので、センサーの中には大量の電荷が同時に発生します。その結果、プラスとマイナスの電荷同士が引きつけ合って電極に集められてしまうため、従来の半導体センサーでは検出が不可能でした。

3つ目は、1 秒間に60 フレーム撮像するという高速撮影への対応です。XFEL は1 秒間に60 パルスのX線を発生しますが、パルスごとの微妙な違いもすべて測定する必要があるため、すべてを正確な画像で検出する必要があります。ゆっくり丁寧に画像を読み出している余裕はありません。しかし、検出器は早く画像を読もうとすると、ノイズが大きくなってしまいます。

4つ目は、大面積のイメージ領域の実現です。X線は簡単に曲げられないため、試料から四方八方に放出されるX線を、大きな検出面を用いて一度に測定する必要があります。しかし一般に半導体センサーを大型化することは性能劣化につながり開発が難しいのが現状です。

XFELに適したイメージ検出器の開発には、これら4つの課題をクリアしなければなりません。

研究手法と成果

本開発では、特殊な金属・絶縁体・半導体(MIS)構造[5]をもつCCDセンサーを開発しました。従来MIS構造をもつCCDセンサーは、XFEL実験のような高強度のX線が照射される環境では、センサーの中の絶縁体が帯電して動作しなくなると信じられていました。今回、共同研究開発グループは、X線が照射された際に引き起こされる損傷のメカニズムを実験的に検証しました。その結果、酸化物層を特に薄く製造した場合、XFEL実験で要求されるX線に対する耐久性である1メガグレイ(1メガグレイは106グレイ)という極めて高い耐久性が実現できることを見いだしました。

次に特定のCCDセンサーの構造を用いることで、大量のプラスとマイナスの信号電荷が発生した場合においても、センサー内部の電荷収集を担う電場が崩れない条件をシミュレーションにより見いだしました。実際に製造したCCDセンサーを使い、実験的にこの条件が満たされていることを確認いたしました。これにより1光子を間違いなく捉えつつ、X線光子が数千光子に至るまで極めて正確に測定することが可能となりました。

また、このCCDセンサーの構造で毎秒60回撮像する高速動作への対応が可能となる設計を行いました。その結果、製造したCCDセンサーで、高速撮像時においても1光子を間違いなく検出できるレベルまでノイズを低くできました。

さらに、100 mm× 100 mmの大面積イメージ領域を実現するため、1個25 mm× 50 mmの大型センサーを8個並べる構造とし、それぞれのセンサー端に設けた配線構造を極細化しました(図1下)。その結果、センサー間の隙間を0.3 mm以下とすることができ、センサーの性能を劣化させずに放出されるX線を捉えることが可能となりました。

開発に成功したイメージ検出器技術は、SACLA発振時の調整に利用されたほか、利用実験用としてセンサーの並べ方の異なる4種類の検出器システムとしてSACLA施設に整備され、8割以上の利用実験課題で基幹検出器としてすでに活用されています。

今後の期待

今回初めてX線自由電子レーザーの潜在的可能性を引き出すことが可能なX線イメージング検出器「マルチポートCCD検出器」の開発に成功しました。開発した検出器技術はSACLAを利用する全ての実験を支える基幹技術です。この検出プラットフォームを基盤として、今後もセンサーの感度向上や小型化、安定化などの高性能化を実現していきます。これにより、SACLAで実施される多様な実験が高度化され、SACLA施設の総合的な問題解決能力の強化が図れます。

なお、本研究の一部は、文部科学省X線自由電子レーザー利用推進研究課題「非線形X線ラマン分光法の開拓」(研究代表者:初井宇記)として実施されました。

原論文情報

  • Takashi Kameshima, Shun Ono, Togo Kudo, Kyosuke Ozaki, Yoichi Kirihara, Kazuo Kobayashi, Yuichi Inubushi, Makina Yabashi, Toshio Horigome, Andrew Holland, Karen Holland, David Burt, Hajime Murao, and Takaki Hatsui, "Development of an X-ray Pixel Detector with Multi-port Charge-Coupled Device for X-ray Free-Electron Laser Experiments", Review of Scientific Instruments, 2014, doi:10.1063/1.4867668

発表者

理化学研究所
放射光科学総合研究センター XFEL研究開発部門 ビームライン研究開発グループ データ処理系開発チーム
チームリーダー 初井 宇記 (はつい たかき)

お問い合わせ先

放射光科学研究推進室
Tel: 0791-58-0900 / Fax: 0791-58-0800

報道担当

独立行政法人理化学研究所 広報室 報道担当
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産業利用に関するお問い合わせ

理化学研究所 社会知創成事業 連携推進部
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補足説明

  1. X線自由電子レーザー(XFEL)施設「SACLA」
    理研と高輝度光科学研究センターが共同で建設した日本初のXFEL施設。科学技術基本計画における5つの国家基幹技術の1つとして、2006年度から5年間の計画で建設・整備を進めた。2011年3月に施設が完成し、SPring-8 Angstrom Compact free electron LAser の頭文字を取ってSACLAと命名された。2011年6月に最初のX線レーザーを発振、2012年3月に共用運転を開始し、利用実験が始まっている。大きさが諸外国の同様の施設と比べて数分の1と、コンパクトであるにも関わらず、 0.1ナノメートル以下という世界最短波長のレーザーの生成能力を有する。
  2. CCD(電荷結合素子)センサー
    X線や可視光などを電荷に変換する変換部と、生成した電荷を移動させるための構造を有するセンサー。電荷を移動させる部分は金属・絶縁体・半導体(MIS)構造となっている。
  3. SPring-8
    SPring-8は兵庫県の播磨科学公園都市にある世界最高輝度の放射光を生み出す理化学研究所の施設。SPring-8の名前はSuper Photon ring-8GeVに由来。放射光とは、電子を光とほぼ等しい速度まで加速し、電磁石によって進行方向を曲げた時に発生する、細く強力な電磁波のこと。SPring-8では、この放射光を用いて、ナノテクノロジーからバイオテクノロジーや産業利用まで幅広い研究が行われている。
  4. レーザピーニング
    金属表面を強化する加工方法のひとつ。金属表面に強力なパルスレーザを照射し、その衝撃によって表面を叩いて押し延ばすことにより表面を改質する新しい技術。しかし、処理中に材料内部で何が起こっているかについては明らかになっていなかった。SACLAを用いて、その改質過程の詳細が解析され始めているが、そこでもこのマルチポートCCD検出器が利用されている。
  5. 金属・絶縁体・半導体(MIS)構造
    Metal-Insulator-Semiconductor。半導体層の上に絶縁層、さらにその上に金属を乗せた構造。CCDセンサーでは金属に電圧をかけ、その電圧を上げたり下げたりすることで、半導体中にとらえた信号電荷を移動させる。絶縁体層には酸化シリコンを用いるが、酸化シリコンはX線照射により帯電してしまい、CCDセンサーが動作しなくなる原因となる。今回、この過程を抑制する構造を採用することによって、CCD方式では達成不可能であると信じられていたXFEL実験用検出器の開発に成功した。

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開発したX線イメージング検出器「マルチポートCCD検出器」

図1 開発したX線イメージング検出器「マルチポートCCD検出器」

(上)CCDセンサー1個を備えたX線イメージング検出器の例。真空中で約-20℃まで冷却して実験で使用される。

(下)大面積イメージ領域を実現するため、CCDセンサー8個並べる構造としたマルチポート検出器。センサー間の隙間を0.3 mm以下で敷き詰めることが可能なほか、センサーの性能を劣化させずに放出されるX線を捉えることが可能となった。

開発したX線イメージング検出器を用いたタンパク質構造解析実験の様子

図2 開発したX線イメージング検出器を用いたタンパク質構造解析実験の様子

(上)タンパク質構造解析実験の模式図
(中)実際の用いられる装置
(下)実験で得られるタンパク質構造解析データ。解析途中のもの。

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