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2014年3月20日

理化学研究所

新しいDNA切断方法を開発

-簡単な操作でDNAの切断だけでなく連結も可能-

ポイント

  • 非天然型のDNA塩基を利用し安価な試薬でDNAを切断
  • PCRで増幅したDNA上にデザインした突出末端を作製することが可能
  • 切断されたDNAの5′-末端はDNAリガーゼの基質として連結に利用できる

要旨

理化学研究所(理研、野依良治理事長)は、DNAへの非天然型の塩基[1]5-エチニルウラシル(EU)[2]」の導入と安価な試薬の化学反応による新しいDNA切断方法を開発しました。また、この化学反応を利用すると簡単な操作でDNAの連結もできることが分かりました。これは、理研生命システム研究センター(柳田敏雄センター長)合成生物学研究グループの上田泰己グループディレクター、池田修司研究員(当時)、田井中一貴研究員(当時)松本桂彦特別研究員らの研究グループの成果です。

遺伝子工学は研究分野だけでなく広く産業界でも利用されていますが、その要となるのがDNAを切断・連結する技術です。組換えDNAの作製には特定の塩基配列を認識して切断する酵素(制限酵素)によりDNAを切断し、その切れ目をつなぐ酵素(DNAリガーゼ)でDNAを連結する方法がよく用いられます。ただ、この方法では、制限酵素が認識する塩基配列が複数存在する場合に、切断したいDNAの部位以外も切断されるため、使用できる制限酵素が限られ組換えDNAの設計が複雑化してしまいます。そこで、特定の塩基配列を必要としない継ぎ目のないDNAの連結方法が開発されてきました。非天然型のヌクレオチド[3]部分で特異的にDNAを切断する方法もその1つです。しかし、これまでは操作が面倒なことや、非天然型のDNA塩基が変異を引き起こしやすいなどの欠点があり、改善が求められていました。

研究グループは、天然型の塩基「チミン」と似た構造のEUを切断対象のDNA中に導入し、メチルアミン水溶液を加えることによってEUを含むヌクレオチド部分で特異的にDNAを切断する方法を開発しました。また、切断されたDNAの5′-末端[4]にはリン酸基が残るので、DNAリガーゼの基質として利用でき、DNAの連結も可能です。

実際に、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)[5]で増幅したDNAにこの反応を適用した結果、簡単に増幅したDNAを連結できました。得られたDNAの配列決定の結果は、DNAの複製時にEUが変異を引き起こしにくいことを示唆していました。

本研究成果は、米国の科学雑誌『PLOS ONE』オンライン版(3月19日付け:日本時間3月20日)に掲載されます。

背景

近年、農作物の品種改良や創薬など幅広い分野でDNAの組換えが用いられています。組換えDNAを作製するために、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)などで増幅したDNAを連結することが必要になります。その場合に利用されてきたのが、制限酵素でDNAを切断しDNAリガーゼで連結するという方法です。しかし、この方法では制限酵素の認識配列が必要なので、組換えDNAの設計が困難となる場合があります。この問題を解決するために、特定の配列を必要としない継ぎ目のないDNAの連結方法が数多く報告されてきました。

こうした手法の1つとして、非天然型の塩基をDNA鎖合成の出発点となる分子(プライマー)として使いDNAを増幅した後に、非天然型の塩基を導入した部位でDNAを切断することにより、DNA上に突出末端[6]を作るという方法があります。この方法は、突出末端の配列を厳密かつ自由に設計できるという特長があります。しかし、過去に報告されている非天然型の塩基「8-オキソグアニン」を用いる方法では、この塩基がDNA複製で変異を引き起こしやすいことや、切断のために酸素バブリングという面倒な操作が必要、という欠点がありました。

そこで、研究グループは天然の塩基「チミン」とよく似た構造を持った非天然型の塩基「5-エチニルウラシル(EU)」に着目しました(図1)。EUを含むデオキシヌクレオシド[3]は、生きた細胞中でDNA中に取り込まれることから、細胞中のDNAの修飾や、細胞中のDNA複製の検出などに利用されています。また、DNA自動合成機によるEUを含むオリゴヌクレオチド[3]の合成がすでに報告されており、そこでEUを含むDNAが分解されやすいことも報告されています。しかし、その切断反応の詳細については調べられていませんでした。

研究手法と成果

研究グループはまず、EUを含むオリゴヌクレオチドの切断反応を高速液体クロマトグラフィー(HPLC)[7]マトリックス支援レーザー脱離イオン化飛行時間型質量分析計(MALDI TOF mass)[8]で詳細に調べました。その結果、メチルアミンのような第一級アミン[9]を含む水溶液中では、EUを含むヌクレオチド部分で特異的かつほとんど定量的にDNAの切断反応が起きていることを発見しました(図2)。研究グループは、この反応を「QBIC(Quantitative Base-Induced DNA Cleavage)」反応と名付けました。QBIC反応によって切断されたDNAを調べた結果、切断で生じた5′-末端にはリン酸基が付いていました。このことは、切断で生じる断片をそのままDNAリガーゼで連結できることを意味しています。

次に、QBIC反応の応用の1つとして、PCRで増幅したDNAの連結を試みました(図3)。DNA自動合成機でオリゴヌクレオチドにEUを導入し、それらをプライマーとして用いてPCRを行い、増幅したDNAの末端部分にEUを含むヌクレオチドを導入しました。増幅したDNAにQBIC反応を起こすと、EUを含むヌクレオチド部分でDNAが切断され、DNAの末端部分にギャップと呼ばれる切れ目が入ります。ギャップを持つ2本の相補的なDNAを混合して加熱・冷却操作を行うと、DNAの連結[10]が起き、さらに、大腸菌に導入すると、DNAの修復機構により2本のDNAは共有結合で完全に連結されます。増やした大腸菌より、連結したDNAをプラスミドの形で精製することにより、正しく連結されたDNAが得られました。得られたDNAの配列決定の結果は、DNA複製においてEUが変異を引き起こしにくいことを示唆していました。

今後の期待

研究グループは、EUを用いたQBIC反応を利用すると、簡単な操作でDNAが切断・連結できることを示しました。今後、このDNAの切断・連結方法をさらに洗練し、普及を目指します。また、EUを含むデオキシヌクレオシドが細胞中でゲノムDNAに取り込まれることから、EUを含むヌクレオチドを酵素的にDNAに導入することも可能だと考えられます。このように、EUを含むヌクレオチドは多様な手段でDNAへ導入可能なため、オリゴヌクレオチド、PCRなどで増幅したDNAだけでなく、プラスミドDNA、ゲノムDNAなど、さまざまなDNAを切断・連結する方法としてQBIC反応の利用が期待できます。

なお、本研究は、革新的細胞解析研究プログラム(セルイノベーション)事業、科学研究費補助金 基盤研究S、科学研究費補助金新学術領域研究(研究領域提案型)、戦略的創造研究推進事業(CREST)、日本応用酵素協会 成人病の病因・病態の解明に関する研究助成、日本学術振興会 特別研究員奨励費などの支援を得て行われました。

原論文情報

  • Shuji Ikeda, Kazuki Tainaka, Katsuhiko Matsumoto, Yuta Shinohara, Koji L. Ode, Etsuo A. Susaki, Hiroki R. Ueda. “Non-enzymatic DNA cleavage reaction induced by 5-ethynyluracil in methylamine aqueous solution and application to DNA concatenation”
    PLOS ONE, 2014,doi:10.1371/journal.pone.0092369

発表者

理化学研究所
生命システム研究センター 細胞デザインコア 合成生物学研究グループ
グループディレクター 上田 泰己 (うえだ ひろき)

お問い合わせ先

生命システム研究センター
広報担当 川野 武弘 (かわの たけひろ)
Tel: 06-6155-0113 / Fax: 06-6155-0112

報道担当

理化学研究所 広報室 報道担当
Tel: 048-467-9272 / Fax: 048-462-4715

補足説明

  • 1.非天然型の塩基
    DNAはアデニン、シトシン、グアニン、チミンという4つの天然型の塩基を含む。非天然型の塩基はこれらの塩基とは異なる構造を持つ塩基。
  • 2.5-エチニルウラシル(EU)
    ウラシルと呼ばれるRNAに含まれる天然型の塩基の5位にエチニル基が付いた塩基のこと。天然型のDNA塩基であるチミンはウラシルの5位にメチル基が付いた構造をもつ( 図1参照)。
  • 3.ヌクレオチド、デオキシヌクレオシド、オリゴヌクレオチド
    リボース(糖)と塩基(アデニン、グアニン、シトシン、チミン、ウラシル)が結合した化合物をヌクレオシドという。ヌクレオシドにリン酸が結合した化合物をヌクレオチドという。デオキシヌクレオシド、デオキシヌクレオチドとは、ヌクレオシド、ヌクレオチドのリボースが2'-デオキシリボースに置換されたもの。オリゴヌクレオチドとはヌクレオチド、デオキシヌクレオチドが複数連結されたもの、一般的に短いDNA、RNAのことを指す。
  • 4.DNAの5′-末端
    DNAはヌクレオシドの2'-デオキシリボースの5'位のヒドロキシ基と3'位のヒドロキシ基がリン酸ジエステル結合によって連結されてできている。DNAの5’-末端は5’位のヒドロキシ基側の末端のこと。
  • 5.ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)
    DNA増幅法の1つ。ポリメラーゼ連鎖反応を利用することで、わずかな量の既知配列を持つDNAから、数十万倍に増幅できる。これを利用して、知りたい遺伝子の発現の有無を確認したり、量を増幅して検出することができる。
  • 6.突出末端
    DNA二重らせんの末端部分の一方の、DNA鎖が長く1本鎖のDNAが突出している状態の末端のこと。
  • 7.高速液体クロマトグラフィー(HPLC)
    移動相として高圧の液体を使用したカラムクロマトグラフィーの一種。
  • 8.マトリックス支援レーザー脱離イオン化飛行時間型質量分析計(MALDI TOF mass)
    質量分析法の一種。レーザーによってイオン化されやすい物質を、マトリックスとして用いて試料をイオン化させ、イオンの飛行時間を計測することにより試料の質量を測定する分析計。
  • 9.第一級アミン
    アミノ基に1つの炭素原子がつながった構造のアミン(アンモニアの水素原子を炭化水素基で置換した化合物の総称)のこと。R-NH2で表される。本研究では、アニリンのような第一級芳香族アミンは含まない。
  • 10.DNAの連結
    ギャップを含むDNA上の短いDNAが加熱によりはがされ、突出末端が生成し、冷却することにより、2つのDNAの相補的な突出末端が二重らせん形成して、2つのDNAが連結される。はがされた短いDNAと、突出末端を持つDNAが、再び二重らせん形成することも可能だが、二重らせん形成可能な1本鎖の長さが、2つのDNAの突出末端間の方が長いので、2つのDNA間の二重らせん形成の方が起きやすいと考えられる。
チミンと5-エチニルウラシル(EU)の図

図1 チミンと5-エチニルウラシル(EU)

天然型の塩基「チミン」と非天然型の塩基「5-エチニルウラシル(EU)」は構造が似ている。

EUを含むDNAのメチルアミンによる切断反応の図

図2 EUを含むDNAのメチルアミンによる切断反応

EUを含むDNAオリゴヌクレオチドの切断反応を、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)とマトリックス支援レーザー脱離イオン化飛行時間型質量分析計(MALDI TOF mass)で調べた。その結果、メチルアミンのような第一級アミンを含む水溶液中では、EUを含むヌクレオチド部分での特異的なDNA切断反応が起きる。

QBIC反応を応用したDNAの連結の図

図3 QBIC反応を応用したDNAの連結

DNA自動合成機でDNAオリゴヌクレオチドにEUを導入し、それらをプライマーとして用いてPCRを行い、増幅したDNAの末端部分にEUを含むヌクレオチドを導入した。これらにメチルアミン水溶液を反応させることで、図のようにEUの場所でDNAが切断され、異なるDNA同士を連結できるようになる。

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