広報活動

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2014年3月27日

理化学研究所

ゲノム上の遺伝子制御部位の活性を測定し正常細胞の状態を定義

-生命の分子レベルでの理解に大きな一歩-

解析データの一例の図

解析データの一例

理研が主導し、2000年に発足した「FANTOM」は20カ国、114の研究機関が参加する国際コンソーシアムです。ゲノムDNAから転写されているRNAの機能をカタログ化することを目的に、これまで4期にわたって活動を行ってきており、第3期にはDNA全体の70%以上がRNAに書き写され、そのほとんどがタンパク質を作らずRNAのままで機能していることを示し、RNAという重要な研究分野が発展するきっかけになりました。

第5期のFANTOM5プロジェクトでは、ゲノムDNAからRNAへの書き写しをコントロールする遺伝子制御部位の系統的な解析を行いました。ゲノムDNAがRNAに書き写される時、書き写す領域の先頭部分のゲノム配列の近くにある「プロモーター(遺伝子近位制御部位)と、プロモーターから離れた位置にある「エンハンサー(遺伝子遠位制御部位)」の活性を、さまざまな細胞で測定しました。世界中の共同研究者の協力を得て約1,000種類の細胞や組織のサンプル(このうち約180種類は正常な初代培養細胞)を収集し、それぞれの中で働いているRNAを精製し解析しました。その結果、プロモーター約185,000個、エンハンサー約44,000個の活性を測定し、これらの遺伝子制御部位の多くが細胞特異的に働いていることが分かりました。同定したプロモーターのうち半数は新規に発見されたものでした。また、エンハンサーは知られていましたが、大量のエンハンサーに関する活性をこれほど多くのサンプルで計測したのは初めてです。

今回のプロジェクトは、実験で用いられることの多いがん由来の細胞株だけでなく、正常な初代培養細胞をサンプルとしているのが特徴で、正常細胞に関する体系的な定義が得られました。また、解析には、ゲノムの書き出し位置を網羅的に同定し、かつサンプル中の各RNAを計数できる「CAGE法」を活用しました。これまでの次世代シーケンサーによる解析ではPCRという増幅反応が必要で、この反応が原因の測定結果の偏りを生じましたが、CAGE法では1分子シーケンサーを用いて増幅反応を回避して偏りを少なくし、数個~10個の細胞中にある1分子のRNAを99%以上の確率で検出できます。

今回、人体を構成する正常な細胞の性質を制御する遺伝子制御部位について、その活性を細胞の種類ごとに測定した包括的なデータが得られました。これは、ゲノムから読み解かれる情報を用いた網羅的・体系的な「正常細胞の定義」の基礎になります。この定義を今後さらに充実させることで、ヒトゲノムが生成し得る細胞の全体像が明らかになると期待できます。つまり、細胞の多様性がどのように制御されているかという問題の解決だけでなく、病的な状態を定義するために必要な「何が正常なのか」を定義する基本になるといえます。例えば、このデータとがん細胞などを比較することで、がんの悪性度の診断、抗がん剤の有効性などの評価を行うことを目指して研究を続けています。

独立行政法人理化学研究所
予防医療・診断技術開発プログラム
プログラムディレクター 林崎 良英 (はやしざき よしひで)

独立行政法人理化学研究所
ライフサイエンス技術基盤研究センター 機能性ゲノム解析部門 LSA要素技術研究グループ ゲノム情報解析チーム
チームリーダー アリスター・フォレスト