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2014年3月31日

理化学研究所

環境負荷が少ない作動媒体を利用したランキン・サイクルの実験に成功

-地球温暖化係数は二酸化炭素と同じ値に-

ポイント

  • 環境負荷がHFC245faの1/1000程度の新作動媒体を使用
  • ランキン・サイクル内に潜熱回生熱交換器を配置し、熱仕事効率を向上
  • 低圧でも効率の良い小型膨張機(バンケル型エンジン)を開発

理化学研究所(理研、野依良治理事長)は、米国ハネウエル社が開発した代替フロンに代わる新素材「HFO1233zd」を作動媒体(熱媒体)としたランキン・サイクルの稼働試験を株式会社ダ・ビンチ(東謙治社長)と共同で行い、作動を確認するとともに、ランキン・サイクル内での熱回収率を30%程度まで引き上げることに成功しました。これは、理研社会知創成事業イノベーション推進センター(藤田明博センター長)光熱エネルギー電力化研究チームの東謙治チームリーダー、大森整副チームリーダーらの研究チームの成果です。

研究チームは、光を熱エネルギーとして回収して、電力と湯を供給する効率の良い発電システムの開発を目指しています。太陽熱などの自然エネルギーや工業廃棄熱を含めて、熱を有用な電力に変換する技術は重要ですが、実際にはその熱仕事効率(サイクルに投入した熱量を分母とし、その熱より取り出した運動エネルギーや電力の量を分子とした比率)は低く、低温領域で作動するロータリー熱エンジンでは5.3%程度です。しかし、サイクル内で熱を再利用することにより、投入熱量は減少して、ランキン・サイクルの熱仕事効率を7.57%程度に高めることができます。また、地球環境を考えた場合、その発電システムが採用する熱媒体などの環境負荷を小さくし、100度以下の低温廃棄熱を有効利用できることが最重要課題になっています。

ランキン・サイクルは低温の排熱(温水、排気熱など)を回収して、電力化するシステムです。回収した排熱で蒸発器内の熱媒体を加熱して蒸気を発生させ、その蒸気を動力源として発電機を動かし、その後に蒸気を冷やして液化し蒸発器に戻すという一連のサイクルを繰り返します。(図1図2

研究チームでは、ダ・ビンチが開発した小型の膨張機(RHEバンケル型エンジン)をランキン・サイクルに搭載して、低圧でも作動可能なシステムとすることで、低温熱源から得た低圧の蒸気(熱媒体)でも発電可能なシステムを開発しています。

今回使用した熱媒体「HFO1233zd」は、ランキン・サイクルの作動媒体として広く使われ、また電気事業法の小型バイナリー発電の規制緩和に対応している代替フロン「HFC245fa」と比べ、環境負荷が1/1,000程度と非常に小さく、地球温暖化係数(GWP)は二酸化炭素と同等の1であることから、環境負荷を抑えたランキン・サイクルの主要な作動媒体として期待されています。

今回の実験では、開発したランキン・サイクルの稼動試験とともに、潜熱回生熱交換器の性能試験を行いました。潜熱回生熱交換器は、膨張機と凝縮器の間に配置されており、膨張機で仕事に変換されなかったサイクル内の蒸気の潜熱を回収し、サイクル内に再投入することで、サイクル内での熱の利用効率を向上させることができます。潜熱回生熱交換器を開発により、熱機関に投入する熱エネルギーを削減してシステム全体の熱仕事効率を大きく向上することが可能となります。特にランキン・サイクルの経路上で効率よく熱回収するには、膨張器の排気時に生じる背圧(損失)の有効利用によって、大幅な熱回収が可能となると想定されます。

今回の実験の結果、サイクル内熱回収率は30%程度まで向上することができました。今後、RHEバンケル型エンジンと潜熱回生熱交換器の組み合わせを最適化していくことで、熱回収効率を50%程度まで引き上げられると考えています。その場合、熱仕事効率は10.6%程度となります。

発表者

理化学研究所
イノベーション推進センター 光熱エネルギー電力化研究チーム
チームリーダー 東 謙治(ひがし けんじ)

報道担当

理化学研究所 広報室 報道担当
Tel: 048-467-9272 / Fax: 048-462-4715

ランキン・サイクルの模式図の画像

図1 ランキン・サイクルの模式図

ランキン・サイクルは、低温の排熱を回収して、電力化するシステム。回収した排熱で蒸発器内の熱媒体を加熱して蒸気を発生させ、その蒸気を動力源として発電機を動かし、その後に蒸気を冷やして液化し蒸発器に戻すという一連のサイクルを繰り返す。今回は、膨張機(RHEバンケル型エンジン)と潜熱回生熱交換器の組み合わせにより、サイクル内での熱回収率を30%程度まで向上することができた。

今回稼動試験を行ったランキン・サイクルの外観の写真

図2 今回稼動試験を行ったランキン・サイクルの外観

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