広報活動

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2014年4月7日

独立行政法人理化学研究所
国立大学法人大阪大学

「右巻き、左巻きらせん」電子雲の歪み配列の可視化に成功

-「電子軌道配列の鏡像異性」という概念を提唱し実証-

鏡像構造

らせん状に配列した電気四極子を起源とする鏡像構造

元素の周りの電子雲の広がり方を量子力学的に表したものが「電子軌道」です。ただ、電子軌道は必ずしも球形とは限りません。この電子軌道の球形からのずれ(歪み)を「電気四極子」と呼ぶ場合があります。とくに、多彩な機能性物質の研究の土壌となっている3d遷移金属化合物(原子番号21番のスカンジウムから29番の銅まで)や、永久磁石、液晶、触媒などの工業製品に使われている4f希土類金属化合物(同57番のランタンから71番のルテチウムまで)などの物質中で、電気四極子がどのような形状で、どのように配列しているかが、超伝導現象や超巨大磁気抵抗現象などの電気的性質や磁気的性質を知るために重要とされています。これまで、電気四極子の直接観察には放射光共鳴X線回折という測定手法が用いられ、電子のさまざまな配列状態が明らかにされてきました。

理研と大阪大学の研究者を中心とした共同研究グループは、これまで見過ごされてきた「らせん状に配列した電気四極子を起源とした鏡像構造」という概念を提唱し、その実証に取り組みました。

右手と左手のように鏡像の関係にありながら、ぴったりと重ね合わすことができない構造をもつ結晶や分子などを「鏡像異性体」といいます。不斉炭素原子をもつアミ酸や糖類などがこの例として挙げられます。また、鉱物のひとつである水晶も、右手と左手の結晶構造が存在するため、鏡像異性体の1種とされています。そこで、共同研究グループは、4f希土類金属のディスプロシウム(Dy)イオンが結晶中で右巻きまたは左巻きのらせん状に配列した構造をもつ「DyFe3(BO3)4」という化合物に着目しました。

大型放射光施設SPring-8の放射光を用い、円偏光軟X線という特殊なX線をDyFe3(BO3)4で反射させて共鳴X線回折を行いました。共鳴X線回折を用いると、原子の、ある固有の電子軌道の対称性、方向、大きさに関する情報が得られます。その結果、同化合物の中でDyの4f電子の電気四極子が右または左巻きにらせん状に配列していることが確認できました。また、円偏光軟X線を集光させ、試料表面上で2次元的に移動し、反射X線を観測することによって、電気四極子配列の鏡像異性構造と対をなす、右巻き・左巻き構造が1つの試料中で共存する構造「ドメイン構造」を観測することにも成功しました。今回の研究で確認された鏡像構造やドメイン構造を、電場と磁場が振動しながら進む横波である「円偏光」などで自在に制御できるようになれば、新しい光学材料などの開発につながると期待できます。

理化学研究所
放射光科学総合研究センター 励起秩序研究チーム
専任研究員 田中 良和 (たなか よしかず)