広報活動

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2014年4月9日

理化学研究所

嗅覚神経回路の精緻な配線図の解読に成功

-発生工学と最先端の3次元画像処理技術による成果-

ゼブラフィッシュ2次嗅覚回路の投射マップの図

ゼブラフィッシュ2次嗅覚回路の投射マップ

嗅覚は外界の匂い情報を感知するセンサーです。多くの動物にとって、生存と種の維持に関わる重要な感覚といえます。私たち人間にとっても、匂いは快・不快の感情に影響したり、過去の記憶を呼び起こしたり、味覚や食欲を左右する、という役割を担っています。

匂いの成分であるさまざまな化学物質は、鼻の奥にある嗅細胞の嗅覚受容体と結合し、信号に変換されて脳でそれを認識します。個々の嗅細胞は嗅覚受容体遺伝子の中からたった1種類を選択して発現し、特定の化学構造をもつ匂い分子だけを認識しています。匂いの情報は嗅細胞の神経線維(軸索)を介して、脳にある「嗅球」と呼ばれる情報処理中枢に伝わり、さらに同じ受容体をもつ嗅細胞の軸索が嗅球表面に並ぶ多くの糸球体のうちの特定の糸球体と接続しています。このように、匂い分子の情報は化学構造を基にした“匂い地図”として嗅球に展開されているわけです。ただ、動物が匂いを認識しそれに応じた行動をするためには、さらに高次の嗅覚中枢が嗅球の匂い情報を適切に読み取る必要があります。しかし、鼻から嗅球までの神経の“配線図(1次嗅覚回路)”の理解は進みましたが、嗅球から高次中枢に至る神経配線図(2次嗅覚回路)の詳細はよく分かっていません。理研の研究者らを中心とした共同研究グループは、その解明に挑みました。

共同研究グループは、モデル脊椎動物のゼブラフィッシュを対象に実験を行いました。嗅球神経細胞の軸索の投射パターンを単一細胞の解像度で解析するため、遺伝子操作で1匹のゼブラフィッシュでたった1つの嗅球神経細胞を蛍光タンパク質で可視化する手法を開発しました。また、3次元画像処理技術を使って別のゼブラフィッシュの嗅球神経細胞の画像を同一の標準脳に変換し、多数の嗅球神経細胞の投射パターンを3次元で再構築することに成功しました。その結果、嗅球に伝えられた匂いの情報が4つの高次脳領域に伝達され、それぞれの脳領域で匂い情報が異なる様式で抽出・統合・解読され、匂いの質など、さまざまな動物行動と密接に関連した情報へと再編成されていることが明らかになりました。

この成果は、動物が外界の状況に応じて適切に行動するために、感覚情報を脳内でどのように処理しているかという、神経回路メカニズム全体の理解に貢献すると期待できます。

理化学研究所
脳科学総合研究センター シナプス分子機構研究チーム
副チームリーダー 宮坂 信彦 (みやさか のぶひこ)
チームリーダー 吉原 良浩 (よしはら よしひろ)