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2014年4月17日

理化学研究所

19世紀以来の謎、ホフマイスター効果の新しいメカニズムを提案

-界面の水構造に及ぼす対イオンの効果を実験的に解明-

構造図

今回の実験から示唆された界面の構造

ある物質が溶け込んだ水溶液中にイオンを加えた時に、水溶液の性質がどれだけ変化するかの序列を「ホフマイスター系列」と呼びます。この“系列”は、もともとタンパク質が溶け込んだ水溶液に大量の「塩」を加えると、溶けていたタンパク質の溶解度が低下しタンパク質が析出する“塩析”で発見されたもので、水溶液中において酵素活性など複雑な生体機能から界面活性剤の相変化のような単純な物性まで、非常に多くの現象に対するイオンの効果として共通に見られる系列です。かつては、ホフマイスター系列が発現するメカニズムは主にイオンと水の相互作用で決定されるという考え方が主流でした。しかし最近では、ホフマイスター効果は、タンパク質などの大きな分子や、分子系とイオンが溶けた水溶液との間の「界面の問題」と考えられています。したがって、ホフマイスター系列の発現メカニズムを理解するには、界面の水分子の性質を理解することが重要となります。しかし、現在でも界面の構造を分子レベルで理解することは簡単ではなく、とくに水のミクロな構造についてはほとんど分かっていませんでした。

理研の研究グループは、独自開発した分光法「ヘテロダイン検出振動和周波発生分光法」と同位体希釈法を用いてこの問題の解明に取り組みました。この方法は界面分子だけを選んで計測することが可能なため、界面分子の向きと構造を決定できます。実験では、正と負に帯電したイオン性界面活性剤の単分子膜とさまざまな塩水溶液の界面における、水の構造とホフマイスター系列との関係を水分子の振動スペクトルの測定によって明らかにしようと試みました。その結果、正に帯電した界面における陰イオンの効果はイオンの界面への吸着力で説明できるのに対し、負に帯電した界面での陽イオンの効果は吸着力ではなく、界面近くの水の水素結合強度の変化と関連することが分かりました。つまり、ホフマイスター系列は、界面と対イオンが接触吸着する場合はその吸着力に、接触吸着しない場合は、界面の水の水素結合強度というように、複数の要因が複合的に働いて決定されている可能性が初めて示されました。

今回の成果は、水界面の分子科学研究に対して新たな知見を与えると同時に、100年以上謎だったホフマイスター系列の発現に関する有力なメカニズムを示したことになります。今後、この成果を応用し、より生体に近いモデル界面を調べることによって、タンパク質におけるホフマイスター系列の発現のメカニズムを解明できる可能性があります。

理化学研究所
主任研究員研究室 田原分子分光研究室
主任研究員 田原 太平 (たはら たへい)
研究員 二本柳 聡史 (にほんやなぎ さとし)