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2014年4月24日

理化学研究所

中性子ハロー核11Beの超微細構造定数の精密測定

-光でハロー中性子を直接見るための第一歩-

中性子ハロー核11Beの大きさの模式図

太陽や月の周りの光の輪のことを「暈(かさ)」といいます。子供のころ「太陽や月に暈がかかると雨が降るんだよ」と聞かされたことがあります。低気圧の前方には暈を発生させる巻層雲や巻雲などができやすく、暈は低気圧の接近に伴って発生することが多いといいますから、あながち当たっていないわけではないかも…。暈の英語訳は「ハロー」ですが、科学の世界の中にもハローに関わりのあるものがあります。中性子数が陽子数より極端に多い不安定な原子核では、余分な中性子のうち1個か2個が芯の周囲に“ぼんやり”と暈のように広がって見えることから、「中性子ハロー核」と呼ばれています。

中性子ハロー核が見つかったのは1980年代半ばです。これをきっかけに実験と理論の両面で不安定核の核構造研究ブームがおきました。当時は、不安定同位体原子核が他の原子核と衝突して反応を起こす確率や、分離した中性子のエネルギー分布などから、原子核の“ハロー構造”を求めていました。一方、理研の研究グループは、1990年代から、中性子ハロー核の大きさを”光”で調べる方法を提案してきました。光を使うと、明確に分かっている電磁相互作用だけを利用するので、原子核のモデルを仮定することなく正確に大きさを求めることが可能です。原子核の大きさは原子の大きさの数万分の1と小さいため、顕微鏡では見ることができませんが、レーザー核分光法という、原子のスペクトル線の精密観測から、原子核の電気的大きさを見いだすことができます。しかし、中性子は電荷を持たないのでハロー中性子の広がりを直接測定することは困難でした。研究グループは、中性子が磁化を持っていることに注目し、磁気的大きさを光で観測できるボーア・ワイスコフ効果を測定するために、超微細構造定数と核磁気モーメントの精密測定を目指してきました。超微細構造定数は、いわば、原子核内に入り込んだ電子によって観測した原子核の磁化を表す量で、一方の核磁気モーメントは無限遠から点状の原子核の磁化を観測した量とみなせます。その比を同位体で比較することで、原子核の磁気的大きさを正確に決定できる場合があるのです。

今回、研究グループは、精密測定に必要な超低速RIビーム生成装置「SLOWRI」の原型を用い、その第一歩として、中性子ハロー核であるベリリウム同位体「11Be」の超微細構造定数の精密測定に挑みました。先ず、加速器の重イオンビームから生成された高速の11BeイオンをSLOWRI原型装置で減速・冷却し、イオントラップというイオンを自由空間に浮かせて静止させる装置に閉じ込め、レーザー冷却によって絶対零度近くまで冷却すると、100個程度のイオンでも煌々と輝いて見えます。そのイオンに、ある特定の周波数のマイクロ波を照射すると、ちょうどイオンの電子と原子核の相対的な向きがクルッとかわり、レーザー照射に伴う蛍光の強度が変わります。このマイクロ波の周波数が、超微細構造定数に相当します。こうして、11Beイオンの超微細構造定数(A)をA=-2677.302988±0.000072 MHzと、8桁もの高精度で決定することに成功しました。これは、次に予定している核磁気モーメントの精密測定と合わせて、中性子ハローを光で観測するための重要なデータです。

今後、RIビームファクトリのSLOWRIにおいて、光を使った、原子核モデルによらない高精度の核構造測定をより多数の不安定原子核について展開していく計画です。

理化学研究所
仁科加速器研究センター 実験装置開発室 低速RIビーム生成装置開発チーム
チームリーダー 和田 道治 (わだ みちはる)