広報活動

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2014年4月25日

理化学研究所

海馬-嗅内皮質間の同期性は記憶を意識的な行動へ変換する過程に重要

-「メタ認知」を支える神経回路メカニズムをマウスで立証-

T型迷路空間ワーキングメモリ課題の図

T型迷路空間ワーキングメモリ課題

私たちの脳は、日常生活の中でさまざまな事象を覚え、その記憶が必要になったときに呼び出して実行する能力を備えています。この能力を作業記憶(ワーキングメモリ)といいます。一時的に電話番号を覚えてダイヤルしたり、道順を聞いてその通りに目的地に着いたりする、などがこれにあたります。日常会話をスムーズに行うためにも必要とされる能力です。とくに脳の海馬周辺の神経回路はワーキングメモリに欠かせないとされていますが、どのようなメカニズムで記憶が保たれ、必要時に呼び出されているのかの詳細は分かっていませんでした。また、私たちはワーキングメモリを実行に移す場合に、起こした行動が正しいかどうかを判断し、間違いなら修正します。これを「メタ認知」と呼んでいます。しかし、これはヒト特有の能力と考えられ、マウスなど小動物ではこの能力を持つかどうかの決定的な証拠は示されていませんでした。

理研の研究チームは、マウスを使って記憶中枢である海馬周辺の神経活動を調べている過程で、偶然、マウスが自分の間違いを修正するような行動を発見しました。そこで、この現象の詳細な解析に取り組むことにしました。ワーキングメモリなどの高度な脳機能は、これまでガンマ波という30~100Hzの脳波パターンとの関連があるとされ、さらに広域と低域の2種類の帯域が存在することがラットによる実験で示されています。研究チームは、海馬-嗅内皮質間の神経回路をブロックした遺伝子改変マウスを使い、空間的ワーキングメモリを呼び出すときに、記憶の形成/読み出しに重要な海馬と大脳嗅内野の間で情報処理がどのように行われるかを分析しました。

研究チームは、T字型の迷路を使い、①サンプル試行中は分岐の一方のアームにエサを置き、②テスト試行中は反対側のアームにエサを置いた実験を行いました。マウスはサンプル試行中のアームの場所を記憶して、その記憶をもとに反対側にあるアームを選択しなければエサにありつけません。その結果、野生型のマウスでは、迷路の分岐にさしかかる直前に、海馬-嗅内皮質間の電場電位のうち高周波ガンマ領域で位相の同期性が顕著に高まることを発見しました。一方、神経回路をブロックしたマウスではT字型迷路でのパフォーマンスが悪く、かつ高周波ガンマ波の活動が非常に低いことが確認されました。このことから、高周波ガンマ領域での位相の同期性は空間記憶を正しく呼び出すことに関与すると考えられました。また、マウスが間違いに気付いて行き先を意識的に修正したときには、高周波ガンマ波の位相の同期が時間的、空間的にシフトすることを発見し、意識的な自己修正の神経メカニズムの一端が初めて明らかになりました。

理化学研究所
脳科学総合研究センター 理研-MIT神経回路遺伝学研究センター
研究員 山本 純 (やまもと じゅん)
センター長 利根川 進 (とねがわ すすむ)
(RIKEN-MIT神経回路遺伝学研究センター教授)