広報活動

Print

2014年4月29日

理化学研究所

幹細胞の多能性に関わるレトロトランスポゾン由来のRNA

-ジャンクDNAから転写されるRNAの新しい機能を発見-

哺乳類ゲノムにおけるNASTsの起源と、幹細胞における機能の推定の図

哺乳類ゲノムにおけるNASTsの起源と、幹細胞における機能の推定

細胞内の全DNAの塩基配列情報である「ゲノム」に対して、細胞内の全RNA(全転写産物)をトランスクリプトームと呼びます。近年、mRNA以外に、タンパク質の情報を持たないノンコーディングRNA(ncRNA)の存在が浮かび上がってきました。ncRNAには、「レトロトランスポゾン」(レトロウイルスのように、DNA→RNAへの転写と、RNA→DNAへの逆転写によって増殖する遺伝因子)に由来する配列が多数含まれています。その一部は発生や細胞分化に関わっているとされていますが、大半のレトロトランスポゾン由来のRNAの機能は分かっていません。一方、iPS細胞(人工多能性幹細胞)やES細胞(胚性幹細胞)などでは、幹細胞特有の転写制御ネットワークについての膨大な知見が存在しますが、大部分がタンパク質の情報を持つ遺伝子に関するもので、ncRNAの役割はほとんど明らかにされていません。そこで、理研の研究者を中心とする国際共同研究グループは、幹細胞におけるncRNAの役割を調べることにしました。

共同研究グループは、iPS細胞やES細胞と、iPS細胞の作製に用いられた細胞種について、遺伝子の転写開始点を網羅的に解析できる「CAGE法」や、RNAシーケンシング法など複数の手法を用いてトランスクリプトームの解析を試みました。その結果、これまで知られていなかった幹細胞に特異的な転写産物「NASTs」が核内で多量に発現していることを発見しました。NASTsは、ヒトとマウス合わせて1万種類以上存在し、約3分の1はレトロトランスポゾンの断片から転写が始まっていることが分かりました。これらのレトロトランスポゾンは、細胞周期や、DNAがヒストンなどのタンパク質と結合して凝縮した「クロマチン構造」に関わる遺伝子の発現制御に関わっている可能性があり、NASTsの一部はiPS細胞の多能性を表すマーカー遺伝子の発現を、直接制御する機能を持つことが示唆されました。

これまで、ゲノムに存在するレトロトランスポゾン由来の配列は、そのほとんどが機能を持たない「ジャンクDNA」と考えられていました。iPS細胞やES細胞で、レトロトランスポゾンの断片が活性化して、そこから転写されるRNAが多能性の維持に関わる、という今回の発見は、幹細胞においてncRNAが重要な役割を果たしていることを示しています。今後、NASTsの機能解明が進めば、iPS細胞から目的細胞を効率よく分化させる方法の開発などにつながる可能性があります。

理化学研究所
ライフサイエンス技術基盤研究センター 機能性ゲノム解析部門
部門長 CARNINCI Piero (ピエロ・ カルニンチ)
研究員 橋本 浩介 (はしもと こうすけ)