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2014年5月2日

独立行政法人理化学研究所
リバプール大学

SACLAとSPring-8の光で生体分子複合体のナノ構造を解明

-RNA干渉マイクロスポンジの3次元ナノ構造を明らかに-

ポイント

  • SACLAのフェムト秒X線パルスで生体分子複合体をイメージング
  • RNA干渉マイクロスポンジの3次元ナノ構造を解明
  • 効率的な薬物伝達システムの設計へ新たな道筋

理化学研究所(理研、野依良治理事長)と英国リバプール大学(ディビッド・マクダネル学長)は、X線自由電子レーザー(XFEL)[1]光と高輝度放射光[2]を使い、結晶化が困難な生体分子複合体「RNA干渉(RNAi)マイクロスポンジ[3]」の3次元ナノ構造を観測することに成功しました。これは、リバプール大学のマーカス・ギャラガー・ジョーンズ博士課程大学院生(前・理研放射光科学総合研究センター(RSC)ビームライン研究開発グループ イメージング開発チーム 国際プログラム・アソシエイト)と、RSC・XFEL研究開発部門ビームライン研究開発グループイメージング開発チームの宋昌容(ソン・チャンヨン)チームリーダーらの共同研究グループの成果です。

現在、タンパク質などの生体分子の構造情報を得るための手法として、X線結晶構造解析[4]が広く用いられています。X線結晶構造解析を適用するには、対象となる原子や分子を規則正しく並べる「結晶化」という操作を行う必要があります。しかし、創薬に関わる生体分子の中には、大きな結晶を作成することが困難なものも数多く存在しており、これらの未知の構造を解析する方法として、新しい光源であるXFELの利用が注目されています。XFELは、従来の放射光と比較して数十億倍の輝度をもつX線パルス光を生成することができます。XFELの明るく短いX線パルスによって、非常に小さな結晶や単粒子の複雑な内部構造を観察できると期待されています。強度が高いX線レーザーは、試料に大きなダメージを与えてしまいますが、XFELのパルス光は1回の照射時間が10フェムト秒(100兆分の1秒)という非常に短い時間のため、ダメージを受ける前の様子を捉えることが可能です。

研究グループは、XFEL施設「SACLA[5]」によるXFELイメージングと大型放射光施設「SPring-8[6]」の放射光を用いたコヒーレントX線イメージングを組み合わせることで、遺伝子抑制RNA分子を輸送する機能をもつ「RNAiマイクロスポンジ」の内部構造のナノレベルの解析を行い、RNAiマイクロスポンジ中に高密度領域があることを発見しました(図1図2)。このような高密度な核の存在は、遺伝子輸送の機能を持つことを示す直接的な証拠となるもので、効率的な薬物伝達システムの設計に新たな道筋を開くと期待できます。

この実験はSACLAで行われた最初期の生体イメージング実験のうちの1つであり、新たな応用分野へつながると期待できます。

本研究は、理研とリバプール大学との連携協定に基づいて行われました。成果は英国の科学雑誌『Nature Communications』オンライン版(5月2日付け:日本時間5月2日)に掲載されます。

原論文情報

  • Marcus Gallagher-Jones, Yoshitaka Bessho, Sunam Kim, Jaehyun Park, Sangsoo Kim1, Daewoong Nam, Chan Kim, Yoonhee Kim, Do Young Noh, Osamu Miyashita, Florence Tama, Yasumasa Joti, Takashi Kameshima, Takaki Hatsui, Kensuke Tono, Yoshiki Kohmura, Makina Yabashi, S. Samar Hasnain, Tetsuya Ishikawa & Changyong Song, "Macromolecular structures probed by combining single-shot free-electron laser diffraction with synchrotron coherent X-ray imaging", Nature Communications, 2014, doi: 10.1038/ncomms4798

発表者

理化学研究所
放射光科学総合研究センター XFEL研究開発部門 ビームライン研究開発グループ イメージング開発チーム
チームリーダー 宋 昌容(ソン チャンヨン)

お問い合わせ先

放射光科学研究推進室
Tel: 0791-58-0900 / Fax: 0791-58-0800

報道担当

理化学研究所 広報室 報道担当
Tel: 048-467-9272 / Fax: 048-462-4715

補足説明

  • 1.X線自由電子レーザー(XFEL)
    X線自由電子レーザー(XFEL: X-ray Free Electron Laser)とは、X線領域におけるレーザーのこと。従来の半導体や気体を発振媒体とするレーザーとは異なり、真空中を高速で移動する電子ビームを媒体とするため、原理的な波長の制限はない。
  • 2.放射光
    電子を光速とほぼ等しい速度まで加速し、電磁石によって進行方向を曲げた時に発生する細く絞られた強力な電磁波のこと。赤外線からX線までの幅広い波長を含んでいる。
  • 3.RNA干渉(RNAi)マイクロスポンジ
    遺伝子抑制RNA分子の効率的な輸送を促進するために、新たに提唱された薬物伝達方法。
  • 4.X線結晶構造解析
    原子や分子が規則正しく配列した結晶に対してX線を照射すると、特定の方向に強め合ったX線が出射される「X線回折」という現象が観測される。X線結晶構造解析は、この回折現象を利用して、結晶を構成する原子の空間的な配置(結晶構造)を解析する手法である。
  • 5.SACLA
    理研と高輝度光科学研究センターが共同で建設した日本で初めてのXFEL施設。科学技術基本計画における5つの国家基幹技術の1つとして位置付けられ、2006年度から5年間の計画で建設・整備を進めた。2011年3月に施設が完成し、 SPring-8 Angstrom Compact free electron LAser の頭文字を取ってSACLAと命名された。2011年6月に最初のX線レーザーを発振、2012年3月から共用運転が開始され、利用実験が始まっている。大きさが諸外国の同様の施設と比べて数分の1と、コンパクトであるにも関わらず、0.1ナノメートル以下という世界最短波長のレーザーの生成能力を有する。
  • 6.SPring-8
    兵庫県の播磨科学公園都市にある世界最高強度の放射光を生みだす理化学研究所の施設。SPring-8の名前は Super Photon ring - 8 GeVに由来する。
RNA干渉マイクロスポンジのナノスケール3次元構造の図

図1 RNA干渉マイクロスポンジのナノスケール3次元構造

  • (a)RNA干渉マイクロスポンジの内部に高密度領域が存在する(赤)。
  • (b)~(e)3次元密度からスライス厚さ67mmで得た2次元画像。高密度コア構造をはっきりと見ることができる(赤)。スケールバーは500ナノメートル。
RNA干渉マイクロスポンジをSACLAでフェムト秒シングルショットイメージングした像の図

図2 RNA干渉マイクロスポンジをSACLAでフェムト秒シングルショットイメージングした像

  • (a) フェムト秒回折パターン。スケールバーは250ナノメートル。
  • (b) ナノスケール画像。スケールバーは250ナノメートル。
  • (c) RNA干渉マイクロスポンジのSEM(走査顕微鏡)画像。スケールバーは500ナノメートル。
  • (d) サンプルの増加に伴う高密度領域の変化を示すRNA干渉マイクロスポンジに観測された密度分布のヒストグラム。

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