広報活動

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2014年5月12日

独立行政法人理化学研究所
公立大学法人兵庫県立大学
公益財団法人高輝度光科学研究センター
国立大学法人大阪大学
国立大学法人岡山大学

SACLAが、放射線損傷のない正確な結晶構造の決定に、タンパク質で初めて成功

-世界結晶年2014年、レーザーX線が拓く次の世紀へのマイルストーン-

放射線損傷の影響のないチトクロム酸化酵素の活性部位の構造

今回明らかになった放射線損傷の影響のないチトクロム酸化酵素の活性部位の構造

自然現象や生命活動は突き詰めると、原子や分子の並び方や動き、さらにはその中での電子の動きにまでさかのぼります。これらを直接観察できれば、どんな薬が難病に効くのか、あるいはどんな物質が環境に悪いかなどを、原子レベル、電子レベルで解明することができるようになります。理研と高輝度光科学研究センターが兵庫県・播磨科学公園都市に建設し、2012年から運用を開始したX線自由電子レーザー(XFEL)施設「SACLA」は、加速器の中で、原子からはぎ取られた自由な電子の固まりをいっせいに振動させ、その電子の固まりからレーザーX線を発生させる施設です。また、SACLAが発生させるレーザーX線は、10フェムト秒(1000兆分の1秒)という超短時間で照射されます。

1900年代初頭から行われているX線によって物資の立体構造(結晶構造)を解析する試みは、基礎研究分野や産業分野で数多く行われてきました。しかし、X線放射による試料の損傷が起き、精密に測定されたはずの3次元の原子構造がX線を当てる前の本来の構造と異なることがあり、利用する上で大きな問題になっていました。これを解決するために、理研を中心とした共同研究グループは、SACLAのレーザーX線をミクロンの位置精度で1パルスずつ結晶に照射してX線回折写真を撮影できる装置を製作し、「フェムト秒X線レーザー結晶構造解析法」を開発しました。

この解析法を使い、放射線損傷によって、これまで正確な結晶構造が決定できなかった巨大な膜タンパク質「チトクロム酸化酵素」の結晶構造の解析を行いました。チトクロム酸化酵素は、空気中の酸素を水に還元して、生体活動のエネルギー物質であるアデノシン三リン酸(ATP)の酸素呼吸による産生という生命の根源的な機能の一翼を担います。タンパク質の結晶には多くの水が含まれ、X線照射後ピコ秒(1ピコ秒は1兆分の1秒)で水が高い反応性を持つ分子に変化し、変化した分子との化学反応で、タンパク質の構造が変化してしまいます。しかし、SACLAのレーザーX線を使うと、放射線損傷の原因となる反応性の高い分子が作られるより早く、構造解析で使うデータが得られます。これは、放射線損傷が起きるピコ秒の100分の1秒にあたる10フェムト秒でレーザーX線を照射できるからです。チトクロム酸化酵素の結晶構造の解析でも、10フェムト秒という超短時間の照射の間では、X線照射の影響を受けていない正確な構造データを得ることができました。

今回の成果は、タンパク質が働く様子の一瞬一瞬を精密に描き出す「高精度高速時分割構造解析法」を開発するための基礎になる技術です。これまで不可能だったタンパク質の働きの動的な情報を、SACLAを使って引き出すための第一歩になります。

理化学研究所
放射光科学総合研究センター 利用システム開発研究部門 ビームライン基盤研究部 生命系放射光利用システム開発ユニット
専任研究員 吾郷 日出夫 (あごう ひでお)
センター長 石川 哲也 (いしかわ てつや)